日本生命が取り組む、人間中心の新たなビジネスマッチングの可能性
DX(デジタル・トランスフォーメーション)やコロナ禍などさまざまな要因により社会が急速に変化していくなかで、ビジネスのあり方も大きく変わろうとしている。なかでも近年注目されているのは、膨大な数の顧客とのネットワークをもち広範な営業網を有する銀行や保険会社のような企業が提供するビジネスマッチングサービスだ。
100年以上の歴史をもつ日本最大手の生命保険会社、日本生命も以前からビジネスマッチングサービスに取り組んできたという。そして2023年、社会の変化へ柔軟に対応し新たな共創を実現すべく、日本生命はNECとともにビジネスマッチングサービス「Biz-Create® by NISSAY」を始動させる。果たして日本生命はビジネスマッチングサービスの先に、どんな世界を描こうとしているのだろうか。
SUMMARY サマリー
「ビジネスマッチング」がもつ可能性
2022年11月、日本生命はNECとともに新たなビジネスマッチングサービス「Biz-Create® by NISSAY」を立ちあげることを明らかにした。このビジネスマッチングサービスは、NECのクラウド技術を活用して安全・安心な環境を提供する「ビジネスマッチングプラットフォーム」上に構築されており、2019年からNECが三井住友銀行とともに運営しているオープンビジネスマッチングサイト「Biz-Create」の基本機能やUI/UXをベースとして、NECが培ってきた知見を活かしながら日本生命向けにカスタマイズすることで生まれたものだという。
「弊社は以前から全国の1,500を超える営業拠点網や約26万社にわたる取引先とのネットワークを活かしたビジネスマッチングを推進し、2019年にビジネスマッチングサイトを立ち上げ、サービスのデジタル化を進めていたのですが、開設から3年が経過し、取組が浸透・定着するなかで、更なるユーザビリティの向上を図れないかと考えておりました」
日本生命 法人情報センター 課長補佐の行本愛氏は、本サービスの設立経緯をそう振り返る。2019年の立ち上げ以降、同社のビジネスマッチングサイトには約3,200件の案件が登録され、そのうち約1,500件で実際にマッチングが進められるなど、サービスの規模は年々大きくなっていた。全国に展開された営業網を活かして北海道と鹿児島の企業をつなぐこともあれば、大手百貨店と地域の小売店をつなぐこともあり、地理的な制約や企業規模の差異を問わず多様なマッチングを進めていたからこそ、より顧客のニーズにあったサービスをつくる必要性が高まっていたのだろう。
「特にコロナ禍を経て、お客様のニーズが急速に変化するとともに多様化も進んだと感じていました。そんなときにNECさんが三井住友銀行さんと進められていたBiz-Createの存在を知り、これならわたしたちの求めるビジネスマッチングサービスを実現できるのではないかと考えました。ビジネスマッチングについては銀行の方が長い歴史をもっていますし、経営層とのやりとりが多く本質的な課題にもアクセスできる。だからこそわたしたちもNECさんや三井住友銀行さんと連携することでよりよいサービスを実現できると思ったのです」
日本生命 法人情報センター 副主任の濱野達海氏がそう語るように、保険会社だけでなく銀行もまた、以前から自身のビジネスマッチングサービスを発展させてきたといえる。こうしたマッチングニーズの高まりを受けNECが2019年6月にスタートしたBiz-Createは現在15,000もの企業が登録するプラットフォームとなり、広範な領域の多様な企業が積極的に交流を進めている。NEC デジタルファイナンス統括部の西田友紀によれば、Biz-Createは商談の新たなインターフェースとして着実に進化を続けているという。
「とりわけコロナ禍を経て商談件数が伸び、お客様のデジタルシフトがかなり進んだように思います。まだまだ成長の途中ではありますが、新しいチャンネルとしてBiz-Createがしっかり活用されるようになったといえるかもしれません。地方に拠点をもつお客様を全国の企業とつなげることで地方創生にも貢献していくつもりですし、日本生命さんのような新たなパートナーとの取組も進めていきたいと考えていました」
多様なニーズへ応えるためのサービス設計
こうして新たなビジネスマッチングプラットフォームの実現に向けた日本生命とNECの議論は始まったが、「Biz-Create® by NISSAY」の構想が生まれるまでにはさまざまな可能性があったようだ。どんなプラットフォームをつくるか考えるために、まずは社内の営業担当者と綿密な議論を重ねたのだと行本氏は語る。
「お客様が使いやすいサービスにすべく社外からも気軽にアクセスできるようにすることが最低条件ではありましたが、具体的なサービス像を描くにあたっては社内でアンケートをとりながら議論を進めました。現行のBiz-Createはお客様同士がチャットで直接交渉できることを特徴としていますが、弊社のなかでは営業担当者がしっかりお客様の商談調整をサポートしたいという声が多くあがっていました。わたしたちとしては、あくまでもお客様とのコミュニケーションを中心にしたサービスをつくりたかったのです」
ひとくちに「ビジネスマッチング」と言っても、単に企業の「売りたい」「買いたい」をつなげばいいわけではないだろう。企業と企業を適切につなぎ、豊かなコミュニケーションを生むことで、それまでなら気づかなかったニーズや新たなコラボレーションの可能性も生まれてくるはずだ。
西田も「企業ごとにお客様へのご支援のスタンスが異なるのだなと感じました」と語り、既存のBiz-Createを日本生命の理想に合わせていくために試行錯誤を繰り返したことを明かす。
「これまで培ってきた知見を活かしながら、ベストな選択肢を模索していました。UI/UXなどについても専門的な知識をもったメンバーとともに、人間中心設計の観点から細かい部分までご提案させていただいています」
たとえばデザインにおいては、「日本生命」と言われて多くの人が思い浮かべる発色のいい赤をキーカラーとしつつ人々の目が疲れないデザインを調整するなど、根幹的な思想はもちろんのこと、細かな機能やデザイン、UI/UXにおいてもさまざまな検討が行われていた。従来のBiz-Createのメリットは残しつつ、変えるべき部分はしっかり変える――細部に至るまでユーザーを考えた設計を進めることは、ビジネスマッチングの可能性を最大限引出すことにもつながっているのだろう。
新たなビジネスを生む生態系へ向かって
Biz-Create® by NISSAYは、2022年11月の発表後、翌年1月にプレオープンし、4月から本格的な運用が始まっていく。サービスの開始に向け、行本氏は次のように期待を語った。
「社内イントラネットのサービスにはこれまで約3,000社のお客様が登録してくださっていたので、まずは既存のお客様に新サイトをご案内し、新たなサービスの魅力を感じていただければと考えています。また、新たなプラットフォーム立ちあげを機に弊社のビジネスマッチングサービスを取り扱う営業担当者の幅を広げ、いままでご案内できていなかった新しいお客様にも積極的にお声がけできたらと思います」
言うまでもなく、プラットフォームのオープンとは「ゴール」ではなく「スタート」だ。ここから更にBiz-Create® by NISSAYは進化を続けていくのだろう。
「お客様の多様なニーズにマッチする新たな機能やサービスの導入、AIの活用など、現状に留まることなく、よりお客様が使いやすいサービスに成長できるように努力していけたらと思います」
そう行本氏が語ると、西田はこれからも日本生命とともに伴走していくと語る。
「Biz-Createは2019年のローンチ後、さまざまなバージョンアップを続けてまいりました。Biz-Create® by NISSAY も同様に、リリース後しっかりレベルアップをしてまいりたいと考えております。日本生命様のお客様からも積極的にフィードバックをいただきたいと思っていますし、実際に日々の運用のなかで生まれてくるニーズに対応していくことが必要不可欠ですね」
社会が急速に変化していくなかで、多様なニーズを吸いあげながらさまざまな企業がコミュニケーションできる場をつくっていくこと。それは単なる「ビジネスマッチング」を超えて、これからのビジネスを支える大きなプラットフォームをつくっていくことでもあるのかもしれない。西田は次のように語り、Biz-CreateやBiz-Create® by NISSAYの先に見えてくる世界を明かす。
「これまでは出会えなかったニーズをもとにお客様同士が出会える場をつくるだけではなく、お互いにアイデアを出し合って新たなビジネスをはじめられるようなきっかけをつくれたらと考えています。お客様がより柔軟にコミュニケーションできる環境をつくるうえでは、今後自社だけでなく外部のサービスと連携することもあるかもしれません。常にバージョンアップを続けながら、ビジネスマッチングプラットフォームとしてこれまでにないビジネスの生態系をつくっていきたいですね」
自然の生態系のなかで環境や植物、動物が有機的につながりあっていくように、このビジネスプラットフォームが進化していけば、そのなかで次々と新たなビジネスも生まれてくるのかもしれない。
「お客様がご自身のビジネスを拡大していくうえで、Biz-Create® by NISSAYがなくてはならない存在になるよう努力していくつもりです。弊社は『今日と未来を、つなぐ。』を企業メッセージとして掲げているのですが、これはまさにBiz-Create® by NISSAYの実践に重なるものだと思っています。お客様同士をつなぎ、新たなビジネスをつなぎ、今日と未来をつなぐこと。お客様とのコミュニケーションをきちんと大切にしながら、このプラットフォームを成長させていきたいですね」
そう行本氏が語るように、現代におけるビジネスマッチングとは、さまざまなビジネスを多様な未来へとつないでいくことでもあるのだろう。企業や産業の垣根を越えた交流や共創の重要性が叫ばれるようになって久しいが、それを実現するには適切な場がなければいけない。Biz-Create® by NISSAYは、まさにこれからの共創を実践する場になっていくはずだ。