進化・深化しつづける金融機関のDXを追う:FIT2023(金融国際情報技術展)レポート
あらゆる領域でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進むなかで、金融機関における変革は年々加速している。デジタルテクノロジーを使った単なる効率化だけではなく新たな価値の創出が求められるなかで、金融機関はどのようにDXに取り組んでいるのだろうか。
10月26〜27日に東京国際フォーラムで行われたFIT2023(Financial Information Technology、金融国際情報技術展 主催:日本金融通信社)では、いままさに現場で進んでいるトランスフォーメーションの様子が明らかにされた。DXを促進し金融におけるイノベーションを後押しするNECの取り組みを中心に、金融機関の実践を振り返っていこう。
自営とクラウドの強みをかけ合わせる
最初に行われたセッション「クラウドネイティブ技術で切り拓く銀行の未来〜DXへの挑戦〜」は、30年以上にわたってNECとともに勘定系システムや情報システムを整備してきた愛媛銀行によるもの。自営や共同化、オープン化など各時代において勘定系システムは変革を迫られてきたが、なかでも近年はシステムに柔軟性が求められていくなかで、クラウド化の検討が進められていたという。
「これからの勘定系は可用性を維持しつつ、決済機能に特化したコンパクトなシステムであるべきだと考えていました。その上で外部と連携する柔軟性を担保するためにいくつかの選択肢を検討するなかで、現行システムを使いながら周辺にオープン系プラットフォームを構築することにいたしました」
愛媛銀行の常勤監査役(前事務システム部長)を務める酒井良平氏がそう語るように、ひとくちに次世代勘定系を検討するといっても、現行システムをオープン基盤で書き換えることからクラウド基盤をもつ共同化への切り替えなど、さまざまな選択肢がある。コストや運用、リスク対策も同時に検討するなかで、愛媛銀行はNECとともに既存の勘定系システムを核としてさまざまなサービスと接続できるプラットフォームを構築することを選んだのだ。
新たなプラットフォームの導入は、さまざまな変化を起こすものだ。今回はクラウド基盤やアプリケーション開発基盤の整備、アプリケーション開発の促進といったDXはもちろんのこと、勘定系メインフレームへ直接アクセスを可能にするようなモダナイゼーション、さらにはプロジェクト運営においてもアジャイルな仮説検証やScrumのプロジェクト運営が導入されることとなったと酒井氏は説明する。
新たなプラットフォームは愛媛銀行の事業をどう変えるのだろうか? 酒井氏によれば、事務プロセスの変革による生産性の向上や開発の効率化といった行内の変革はもちろんのこと、サービス時間の延長やマイナンバーカードの活用・マイナポータルとの連携など、外部連携機能も強化されていくという。それは多くの顧客にとっても新たな価値となるものだろう。酒井氏は愛媛銀行として時代の変化にどう対応するか次のように述べ、セッションを締めくくった。
「5年前にAPI連携を行う前は想像もしていませんでしたが、いまや勘定系トランザクションのうちAPIを経由したものは全体の半分に迫っています。世の中の変化に対応することは金融系に限らずすべての企業の永遠の課題ですが、愛媛銀行としては自営の強みを生かした内製化を通じて今後も変革を進めていきたいと考えています」
BPOは単なるコスト削減ではない
続くセッションは「為替BPOサービスとは~大規模実績からなる5つの優位性~」。NECの第二金融ソリューション統括部 BPO推進グループ長兼シニア営業主幹を務める千葉博司が、現在全国88の信用金庫で稼働し為替業務の60%を自動化することに成功した為替BPOサービスを紹介していくものだ。
「弊社が大規模に展開しているBPOサービスを利用することで、金融機関さまはいくつもの効果を得られると考えています。ひとつは、導入時のさまざまな問題を解消できること、そして自行内のさらなる効率化・高度化を進めること、将来的には新たなサービスの創出へとつながっていくこと――NECが大規模な実績を有しているからこそ、実現できる優位性があると思っております」
周知のとおり金融業界ではDXが進んでいるが、各金融機関単独でのコスト削減余地は年々縮小しているとも指摘される。今後少⼦⾼齢化に伴う⽇本の労働⼈⼝の減少が想定されるなかで、BPOサービスの活用はますます重要なものとなっていくのだろう。
コスト削減や人員削減、人員配置の効率化など、BPOサービスが提供するメリットはまさにこうした課題に答えるものだ。さらにはIT人材の確保や金融機関間の連携においてもBPOサービスのメリットは非常に大きいものだと千葉は語る。
もちろん、ベンダー都合によるサービス撤退リスクや運用の切り替え負担、セキュリティの強化など課題があることも事実だ。しかしNECはこうした懸念にも対応していると千葉は続ける。
「すでにNECは信用金庫さまのなかで重要なインフラとなっているため撤退リスクは低いですし、運用ノウハウが蓄積されていることで運用の切り替えに関する負担も軽減されています。セキュリティにおいても金融機関のみなさま向けにシステムのハウジングを行ったデータセンターを整備しており、安全性の高い基盤を構築しています。事務処理においてもコストを削減するだけでなく品質を向上させるべく自動化を進めていますし、システム障害に対しても明確なマニュアルをアップデートしつづけているので、迅速な対応が可能です」
そう千葉が語るとおり、多くの点でNECのBPOサービスは優位性を誇るものだと言えそうだ。「BPOサービスは、一般的には対象業務を切り離すものだと捉えられがちですが、NECでは金融機関さまのパートナーとして効率化・高度化に取り組むものだと思っています」と千葉は続ける。単なるコスト削減ではなく大きな戦略の中に組み込むことで、その真価を発揮できるということだろう。
金融ビジネスを拡張する営業支援サービス
3つめのセッション「店舗・渉外の限界突破×新チャネル戦略のための顧客情報統合」では、金融機関がビジネスモデルを転換させる重要性が指摘された。NECのエンタープライズコンサルティング統括部 上席プロフェッショナル、稲垣慎治とデジタルファイナンス統括部 ビジネスプロデューサーの日野大介が、同社の提供するデジタルを活用したオムニチャネル確立/顧客データの統合管理を支援するソリューションを紹介していった。
「金融サービスはストック型ビジネスからソリューション型ビジネスへ転換する必要があるのだと感じます。たとえば融資や預金といったこれまでのビジネスは顧客の部分的な悩みに対応するものでしたが、顧客の財務戦略を高度化したりお客様の試算を最大化したりすることが今後は求められていく。さらには顧客そのものもたまたまニーズがある方々や店舗近隣の方々だけでなく、全域で顧客の方々と中長期的な関係性をつくっていく必要があるはずです」
稲垣がそう語るように、こうした変化に対応するためには、チャネルをつなぎ合わせてメリハリの利いた顧客対応を実現する必要がある。とくに今後は有人・無人・擬似的な対面など、さまざまなチャネルをつなげながら顧客の細かなニーズへ対応していかなければならない。
続いて日野は、NECが金融機関のチャネル変革を促進すべく、ID統合ソリューションや顧客データ統合ソリューションを提供していることを明かす。これまではサービスごとにバラバラに管理されていたIDを統合することや、顧客データを一元的に管理できるデータプラットフォームの構築を通じて、一人ひとりの顧客に合わせたサービスを提供できるようになるという。
たとえばNECが提供する顧客データプラットフォームは、構想の策定から導入、分析、施策実行を支援する一気通貫のソリューションだ。顧客データの統合においても、NECは強みをもっている。たとえば累計8,000件以上のデータ分析プロジェクトに携わってきた実績や伴走可能な支援体制、さらには国内の顧客データプラットフォーム市場で最大シェアを誇るTreasure Dataとの連携や、最先端のAI技術を多数有する技術力など、さまざまな点からデータ利活用を支えられることはNECならではの強みだろう。
「顧客ニーズの多様化が進むなかで、金融機関だけの営業活動は限界を迎えつつあると言えます」と日野は語る。顧客設定の見直しや顧客情報の管理などやらなければいけないことがたくさんあるからこそ、NECのような企業によるソリューションは金融機関にとって大きなサポートとなりうるだろう。
システムだけでなく関係性もアップデート
最後のセッション「情報システム部門の役員に聞く!西京信用金庫はなぜクラウドリフトに踏み切ったのか?」は、NECの第二金融ソリューション統括部 主任を務める吉岡颯人がモデレーターとなり、同社の第二金融ソリューション統括部 マネージャーの与田慎也と、西京信用金庫 理事(システム・サポート室長)の中澤一之氏が対談を行った。
じつは西京信用金庫は、30年近く前からNECの営業支援システムを導入しているが、この度、NECとともにオンプレミスからクラウドへの移行を決めた。業務効率化やコスト削減などさまざまな点でメリットを感じているという。
中澤氏によれば以前は多くの金融機関がクラウドサービスの利用に抵抗を感じていたが、この数年で業界全体のムードが変わり、心理的な障壁も下がってきていた。「システムの運用管理や更改の検討にあたるコストが下がることは大きな魅力でした」と中澤氏が続けるように、なかでもコスト面の変化は大きなインパクトがあったようだ。他方で、セキュリティ面での懸念が最後まで残っていたことも事実だという。
「抵抗感こそなくなってきていたものの、やはりセキュリティ面には不安がありました。ただ、NECの場合はFISCに準拠していますし、自前で国内にデータセンターを運用していることから、最終的には安心してクラウドへの移行を進められました」
現在西京信用金庫は、NECとともに新たなクラウドシステムの構築に向けた議論を進めている。たとえば定期的なアップデートはまさに西京信用金庫が求めていたもので、今後、部署間の円滑な情報共有を可能にするポータル機能など、新機能の実装に大きな期待を寄せている。NECは年に1回ユーザー会と題し多くの信用金庫からコメントを集める場を設けており、それぞれが抱えている経営レベルの課題から日々の細かなニーズまで、多くの情報を吸い上げているからこそ実現できるものだろう。
AIのような先端的テクノロジーの発展が急速に進んでいくなかで、今後営業支援クラウドサービスはさらなる発展を求められているが、与田は「営業支援はあくまでもツールだと思っている。信用金庫のみなさまと共創する形で、本サービスを通じて、西京信用金庫さまはもちろん、信用金庫業界の新しい未来と地域社会の発展に貢献していきたい」と語る。
「信用金庫のみなさまはもちろんのこと、地域社会全体の発展へ貢献していくためには、長い時間をかけながら取り組みを進めていく必要があると感じます。今後も10年、20年と続けていきながら、信用金庫のみなさまとともに活動を続けていきたいですね」と吉岡は語る。
DXと言われるとクイックにPDCAを繰り返し既存の仕組みを変えていくような取り組みが想起されがちだが、とくに金融のような領域や地域社会といったスケールを考えるならば、時間をかけて関係性をつくっていくことも重要だと言える。NECが取り組む金融業界のDXを紹介する4つのセッションは、単なるクラウド化やビジネスモデルの変革だけではなく、社会の変化に寄り添いながら常に関係性もシステムもアップデートしていく重要性を示していたのかもしれない。