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マッチングの最大化でフードロスも削減
売店の品揃え最適化に向けた挑戦

 働き方が変わり、オフィスの様子は一変した。この変化により、社員食堂や売店の運営をサポートするNECライベックスのビジネスは、大きな変革を求められている。そこで同社が挑戦したのがデータ活用である。データを分析して、顧客と商品のマッチングを最大化。より便利で快適な店舗運営とフードロスの削減の実現を目指すという。

変化した社員食堂と売店の役割

──データ活用に挑戦しているそうですね。どのようなきっかけがあったのでしょうか。

取屋:NECライベックスは、お客様のオフィスにある社員食堂や売店などの運営を受託する企業です。近年、私たちのビジネスは大きく様変わりしています。

 背景にあるのは、働き方の変化です。働き方改革が進み、多くの人は以前のようにオフィスに出社することがなくなりました。たとえば、あるお客様の拠点は、以前は毎日5000人の従業員が出社し、社員食堂では2000食以上の食事の提供、売店は3000人以上のご利用でしたが、現在の出社数は多くても1日に1500人程度。社員食堂の利用も600食程度、売店は1000人のご利用に減っています。

──大きな事業の変革を迫られたのですね。

取屋:これまでの私たちの経営環境は、大混雑、売り切れが前提。限られた時間内にお客様全員に食事を行きわたらせるために、いかにスムーズに社員食堂や売店を切り盛りするかが腕の見せ所でしたが、その価値は半減しています。

 では、これから先、私たちは何を価値として提供するのか──。

 社員食堂や売店は、食事を通じてエネルギーを補給したり、休憩をして仕事に向かう鋭気を蓄えたりする場所です。もちろん、そうした側面がなくなるわけではありませんが、これからはそれだけではありません。利用者数が減ったことで、スペースに余裕が生まれ、仲間とコミュニケーションを取ったり、思索にふけって知的な創造に没頭したりする場所にもなりつつあります。現に私たちのお客様もテーブルをずらっと並べていた社員食堂、および併設売店のレイアウトを見直し、会食ルーム、ボックス席、一人席など、多様な席を擁するレストランやカフェのような空間にリノベーション。多様な用途で利用できるようにしています。

 その新しい社員食堂・売店に対して、NECライベックスが提供できる新しい価値。私たちがたどり着いたのが「全員」から「個人」へのシフト。いつも、欲しい時に、欲しい商品が買える。「マッチングの最大化」による、さらなる便利さと快適さを追求、そして社会課題解決への貢献です。

──マッチングの最大化が、なぜ社会課題につながるのでしょうか。

取屋:あまり売れない商品を仕入れ、その商品を余らせることは、私たちのビジネスにとっても痛手ですが、フードロスにもつながっているからです。

株式会社NECライベックス
代表取締役
執行役員社長
取屋 憲治

NECと共に現場主導のデータ活用に挑戦

──どのような方法でマッチングの最大化を図っているのでしょうか。

林(裕之):データを活用して売店の品揃えを最適化しています。

 売店は近隣のコンビニに比べると非常に便利な場所にあります。一等地といっても過言ではありません。しかし、1日に何便もトラックが来て商品を補充するコンビニに対して、売店の仕入れは1日に一回。品揃えでは不利な状況にあります。その条件の中で個人のニーズに対応し、最適な品揃えを実現するには、商品の売れ行きや傾向を把握して、一回の仕入れで最適な品揃えを実現する必要があります。そのためにデータを活用しようと考え、NECに支援を依頼しました。

株式会社NECライベックス
リテイル事業部
(事業計画G)
シニアマネージャー
林 裕之

林(哲也):現在、NECは多くのお客様のデータ活用をサポートしています。システムの提供やインテグレーション、AIを活用したサービスの共同開発など、幅広い取り組みを進めていますが、NECライベックスとは、データ分析の基本的な知識を学習して、実際に分析ツールを使ったワークショップに挑戦する、伴走型のデータ分析人材育成に取り組みました。本格的なデータ活用の経験が少ないこと。人員が限られており、データサイエンティストのような専門人材を中心に据えるには難しく、現場主導でデータ活用を行いたいという要望があったためです。

NEC
AI・アナリティクス事業統括部
主任/データサイエンティスト
(データサイエンティストコンピテンシーセンター)
林 哲也

川地:NECは、約1000人を超えるAI・データ分析人材を擁していますが、それぞれに異なる強みを持っています。私と林(哲也)はリテイルのお客様のビジネスを支援してきた経験が多く、現場の業務や課題をよく知っています。それでNECライベックスのプロジェクトに参加することになりました。

NEC
AI・アナリティクス事業統括部
プロフェッショナル/リードデータサイエンティスト
(データサイエンティストコンピテンシーセンター)
川地 章夫

野村:最初のミーティングでNECは、私たちが困っていることや実現したいこと、メンバー各自のデータ活用スキル、そして、社内にどのようなデータが蓄積されているかといったことをヒアリングして、プロジェクト全体を設計してくれました。川地さんの言うとおり、NECはリテイルの業務に精通しており、私たちの状況をすぐに理解してくれました。

 このヒアリングを通じて、以前は「お客様のニーズに合わせた品揃えを実現したい」と漠然ととらえていた課題が「POSデータから売れ筋とそうでない商品を見つけ、発注を調整する」「売れ筋商品とは、早い時間に売り切れている商品を指す。たとえ売り切れていても、遅い時間まであったものは、仕方なく選ばれた可能性がある」と明確な課題に置き換わりました。

株式会社NECライベックス
リテイル事業部
(ストア販売G)
田町地区主任兼NEC本社ビル店店長
野村 美紀

意外な傾向、隠れた人気商品を発見

──プロジェクトの成果をお聞かせください。

林(裕之):課題の整理や分析テーマの設定の仕方など基礎的なスキルを習得した後、実際に自分たちのPOSデータを使って実践的な分析を行うワークショップに取り組みました。

 ワークショップのテーマは2つ。まずテーマ1は商品中心の分析で「売れ筋商品・死筋商品を発見し、仕入れ増減、類似商品の入荷、販促方法などの具体的な施策案を検討」を目的に据えました。分析の結果、海苔を後から巻くパリパリのおにぎりよりも、直まきのおにぎりの方が人気など、一般的なコンビニとは逆の傾向などを発見しました。おそらくデスクで食べる時に散らかることを避けているのだと推測しています。

野村:2つ目のテーマは人を中心にした分析で、目的は「利用頻度でお客様をグループ分けし、各グループの購入商品の特徴を発見する」です。あるグループは早い時間にボリュームのあるおにぎりをお求めになる、別のグループはハーフサイズのお弁当が食事の中心といった傾向を把握できました。私は店長として、店頭に立っているのですが、目で見ているだけでは、ここまではっきりと傾向を見つけることはできませんでした。

 これらワークショップで見つけた傾向は、既に発注業務に反映させています。

取屋:データ活用というと、大企業を中心とした取り組みの印象を持っているかもしれません。しかし、私たちのような中堅・中小企業にとっても有効な取り組みだと考えています。お客様の行動を「見て」、対策を「考えて」、それを「実践する」。その結果を再び「見て」「また考えて」「さらに実践する」。サービス向上の基本は、この繰り返しですが、中堅・中小企業の限られた人員で、それを行うのは限界があります。そこで、この基本の実践にデータを活用する。そうすれば繰り返しの効率や精度やスピードを高めることができます。もちろん効率的とはいっても簡単なことではありません。しかし、現場の努力もあり、実際のビジネスで使えるようになりました。

川地:NECもぜひ企業規模や業種に関係なくデータ活用に挑戦していただきたいと考えています。たとえば、今回、NECライベックスにはMicrosoft Power BIを使った分析に挑戦してもらいました。データ活用というと、高価なAIや複雑なシステムなどを想像してしまうかもしれませんが、さまざまな選択肢があります。またNECは、過去のプロジェクトで作成した分析モデルを「レシピ」としてオンデマンドに活用できるようにするなど、簡単にデータ活用に挑戦できる環境整備をし「NECアカデミー for AI」として研修体系をまとめています。データやAIを活用するための人材育成に取り組みたいとお考えなら、ぜひNECアカデミー for AIを活用ください。

──今後の展望をお聞かせください。

林(哲也):NECライベックスとは、既に次のテーマの準備に取り組んでいます。商品の組み合わせ傾向を把握するバスケット分析など高度な分析に取り組んだり、分析結果を踏まえたマーケティング施策を企画したり、さらに一歩進んだ挑戦を計画しています。

取屋:現場も、私たち経営陣もNECとの取り組みは大きな手応えを感じています。グローバル化する経営環境の中で、多くのお客様は地球規模、場合によっては宇宙規模の社会課題の解決に取り組んでいます。データを活用して社員食堂や売店の最適な運営を実現し、大きな仕事に立ち向かうお客様の力になりたいと考えています。