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NEC Smart Connectivity CX関連ソリューションWebinar
第2回 人(くらし)編:「『個』が原動力となる変革のサイクル」

withコロナ時代のイノベーションの起こし方。

 コロナ禍で、ICT化が急激に進む中、これからの時代のイノベーションをどう起こしていくべきかが、大きな課題となっている。大企業の新規事業創出を支援するインキュベーションセンターARCHの運営を行っている森ビルの飛松 健太郎氏と、ネットワークという観点から働く環境をサポートしてきたNECの松田 尚久が、イノベーションや新しい「豊かさ」について、大いに語りあった。

SPEAKER 話し手

NEC

松田 尚久

デジタルサービス・ソリューション事業部
事業部長代理

野口 圭

ファシリテータ
NEC Future Creation Hub
センター長

森ビル株式会社

飛松 健太郎 氏

ARCH企画運営室
室長

コロナ禍でワークスタイルは劇的に変化した。

 いま世界は、コロナ禍という同じ課題に直面し、人々の行動は大きく変化している。コロナ後に、以前と同じような日常はもはや戻らないといわれている。「とくに大きな変化を受けているのが、ショッピング、移動、イベント、ワークスタイルの4分野だ」と話すのは、NECの松田尚久だ。

 その中でも、ワークスタイルの変化には目をみはる。今までは通勤ラッシュに揺られて出社し、昼休みは昼食渋滞、会議となれば大人数で部屋に閉じこもっていたが、いまでは遠隔分散が当たり前。半数以上の企業がテレワークを推奨・義務化している。テレワークについて、NECで社内調査したところ、「毎日会社に行きたい」という人は18%に対して、「週1回の出社を望む」と「週3回の出社を望む」の合計が、8割近くに達している。この意識は、職種によっても異なっている。営業スタッフは、出社率が、半分から1/3程度であり、「お客様とコミュニケーションさえとれるなら、テレワークでも問題ない」と答える人が多いのに対して、システム開発などの技術職や研究職の人の出社率は高い。お客様と直接会って説明する必要があり、機材、セキュリティの問題などで、出社せざるを得ない人は多いためだ。これは NEC に限らず、多くの会社で同じような状況だろう。

 「以前はリアルの世界の中にデジタルが点在していたが、いまではデジタルの中にリアルが点在しているように見える。今後もこれが継続し、DXが加速していくことは間違いないだろう」と松田は説明する。いまテクノロジーカンパニーとして考えなければならないのは、(1)オンラインを使いながら、いかにコミュニケーションやビジネスを活性化していくか、(2)従業員やお客様の安全・安心をいかに確保していくか、という2点であるという。

オフィスでの仕事の内容が、変わっていく。

 森ビルは、2020年4月1日に、虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーの4階にARCH(アーチ)をオープンさせた。大企業の事業改革や新規事業創出をミッションとするインキュベーションセンターという位置づけだ。その責任者が、森ビル株式会社ARCH企画運営室 室長の飛松健太郎氏だ。

 まず、なぜARCHをつくったのか、そもそもの話をするために飛松氏が提示したのが、「時価総額の企業ランキング推移」だった。

 バブルと言われる時代は、日本企業がこのランキングの上位30社の中に多数入っていた。ところがバブル崩壊後の1995年くらいから日本企業は姿を消していく。代わりに台頭してくるのが、米国を中心とする IT 企業。さらに2010年ごろからは中国企業の存在感が増してくる。業種を見てみると、昔はメーカーや金融が上位にいたのが、いまではGAFAなどの企業が上位を占める。ビジネスの中心が ICTへシフトしているのがよく分かる。

 オフィスはどう変わったか? オフィスの在り方に最初に大きな影響を与えたのはPCの普及である。PCがオフィスに入ってきたのは、1990年代で、後半には1人1台のPCが配布されるようになり、さらにタワー型からデスクトップ、ノート型に変遷するのに応じて、オフィスの形も大きく変容した。2000年代後半からは、さらに、Google などがキャンパスオフィスという概念を導入し、カフェ的な空間で社員が一日中過ごせるようになった。この狙いは、偶然性のコミュニケーションから、新しいアイデア、イノベーションを生みだしていこう、というところにある。そしていま、コロナ禍で、テレワークする人が多くなった。オフィスでどういう仕事をするべきか? 改めてその意義が問われる時代になったのだ。

オフィスの進化

 「この図は、オフィスでの仕事を横軸にチーム×個人、縦軸にクリエイティブワーク×ルーティンワークをとった2軸で整理したものです。コロナ前の時代は、多くの人は、オフィスで個人ルーティンワークをやっていました。それがポストコロナの時代になると、オフィスでは主にクリエイティブワークやチームでの仕事を行うようになるでしょう」と飛松氏は予測する。つまり、オフィスに来る目的はイノベーション創出が大きなテーマになってくる。そのうえで変化より保持することが得意な日本の大企業は、ここをどう進化させていくのかが、成長の大きな分かれ目になるのだ。

大企業がイノベーションを起こせば、日本は変わる。

 森ビルのイノベーションについての戦略は、 (1)イノベーションのハブとなる人々を集め、(2)連携する仕掛けをつくり、(3)生まれたイノベーションを実証実験し、社会に実装していくショールームとしての役割を果たし、 (4)それらの取り組みを情報発信する。これらの循環を通じて (5)イノベーションのエコシステムの拡大を目指す。これを具現化した施設のひとつが、ARCHである。ARCHは一見、ワークスペースの提供という業態に見えるが、実はこの大きな戦略の下につくられている。

 ARCHのターゲットは、大企業である。「結局のところ、日本は大企業中心に経済が成り立っています。大企業が変わらなければ、日本は変われない」と、飛松氏は懸念する。そこでARCHでは、大企業で新規事業に携わっている方々だけを集め、スタートアップの方々とマッチングしながら、さまざまなイノベーションを起こそうとしているのだ。現在約50社、約450名が入居している。

 大企業自ら新規事業を立ち上げる場合は、領域・テーマ設定だけで1年~2年かかってしまう、というのが現実である。これらの問題を解決するために、ARCHでは、トレーニング、メンタリング、ネットワーキングという3つのサービスで、具体的に新規事業の立ち上げの支援している。

 例えば、ネットワーキングという面では、ARCHは、施設版Facebookのような会員専用サイトがある。知りたい情報をARCH会員の中から検索し、その人に直接話を聞きに行けばいい。すでに事業を行っている方や特定分野のエキスパートに話を聞けば、「なるほど、そのやり方があったか!」ということになる。イベントに参加して名刺を交換し、多くの人と話すのも、イノベーションのヒントをつかむ近道だ。

 一方でジャパンエントリー企業やスタートアップ企業の方の悩みのひとつに、「大企業と組んで新規事業を行いたいが、どの部署の誰と話をしたらいいのか、分からない」というものがある。話を持ち込んだとしても、大企業側の適切な窓口に行きつくまでが大変で、間違ったところから交渉を始めると「未知の領域の話をされても判断できない」「上の承認が取れないので先に進めない」ということになりかねない。ARCHの存在が、大企業にとっても、スタートアップやジャパンエントリーの企業にとっても、企業間のギャップを解決し、コミュニケーションを円滑にする役割を担い、日本のイノベーション創出を促進させる存在でありたいと考えている。

イノベーションを生みだすのは「共創」である。

野口:ここからは、ディスカッションしていきたいと思いますが、その前に、先程飛松さんのお話にもあったように、「大企業内で新規事業をやらざるを得ない時に、どうしたらいいのか?」という質問を多数いただいています。松田さんは、いかがでしょうか。

松田:NECの中の事例をご紹介します。アプローチとしては2つ。1つは、「社内共創」。社内で実証して、消化できたものをお客様に紹介していくという方法です。もう1つは、森ビルさんのARCHのように共創できる場で、社外のパートナーと新たなものを生み出していく「社外共創」です。

 1つ目の「社内共創」の例としては、 顔認証技術を中心に、社内のさまざまな組織の技術を持ち寄って、システム実証実験を行いました。まず、顔認証だけでゲートを入れるようにしました。マスクをつけていても認識され、同時に検温も行います。地下のコンビニでは、レジを通すことなく、Grab & Goで買い物が可能。自販機やロッカーでも、居室に入るときも、PCにログインするときも同様で、社員証も、パスワードも不要になりました。つまり、あらゆるサービスを「顔パス」で利用できる、という大きな利便性を実現しています。

 もうひとつのアプローチは、「社外共創」です。NECでは、5G Co-Creation Workingという社外共創の場を主催しています。5Gという新しい通信方式のインフラを我々は提供していますが、どういうユースケースを使い、どう活用するか、というところでは、すべての領域でNECが強いわけではない。そこで、ユーザー企業さんや、それぞれのエリアにモノを提供しているベンダーサプライヤーさんに集っていただき、5Gをどう活かしていくか、共創活動しているわけです。

 一例として、教育の領域での5G活用を紹介します。オンラインで授業をする場合、どうしても一方的になりがちです。これを、インタラクティブにできないか、ということで、上智大学さんと組んで実証実験を行いました。授業を行っていると、理解が進まない子がいたり、体調の悪い子がいたりする。それを、個別にケアしながら授業を進めていくことのできる取り組みです。

 このように、小さく始めて、検証しながら、価値を高めていくという方法なら、大企業でも着手しやすいのではないかと思います。

野口:「社外共創」で重要なのは、自分をどれだけさらけ出せるか、なのかもしれませんね。ついNECの場合は「何でもできます」と言いがちですが、むしろ弱点をさらけ出した方がいい。想像もしなかったイノベーションは、共創からの方が生まれやすいですからね。ARCHは、まさに「社外共創」の場。いままさにそれを仕掛けようとしている観点から、アドバイスいただけますか。

飛松氏:イノベーションを起こすのに、人と人とのつながりは本当に大切ですが、従来はそのためのスペースに、あまり投資されてきませんでした。投資されない理由は「効果が見えづらい」から。ROI(投下資本利益率)がすぐに向上するものでないと、なかなか投資しづらいのです。しかし、いまはセンサリングやデータの蓄積、分析などの技術進化により、投資の効果測定をし、改善をすることができるようになりました。また、コロナ禍で各企業も「今変わらなきゃいけない」と考えています。この時期だからこそできる共創のための「つぎの一手」を打っておくべきではないでしょうか。

野口:ICTプラットフォームについても、同様のことが言えます。お客様は「そのプラットフォームを導入すると、どれくらい利益がでるの?」とよくおっしゃいます。確かに初期投資額を短期的に回収するのはなかなか難しいのですが、我々はお客さまと何度もディスカッションしながら、長期的に、総合的見て、プラスになるポイントを探りながら、プラットフォームのご提案をさせていただいています。

今回のウェビナーは、虎ノ門ヒルズ内のARCHから発信された

野口:先程松田の方から、上智大学さんとの共創について話がありました。産官学のうちのもう一つ、官との共創、国が描いている日本の未来図に参加する方向についてはいかがですか。

飛松氏:新しいビジネス分野を、国が育成するケースもあります。その場合、重要なのは規制緩和と助成金です。新しい分野には、だいたい規制がありますが、ただそれをすべて撤廃すればいいのかというと、弊害もあって、そう簡単ではありません。霞が関側から見ると、どこを規制緩和すれば、新しいビジネスが動きだすのか分からない、という面もあるようです。そこで、我々としては、新規ビジネスに取り組む方々と霞が関の方々が情報交換できる勉強会なども開催し、各方面の連携を図っています。

テクノロジーが「共創」を支援する。

野口:人と人との結びつきということでは、1to1などのICTプラットフォームも力になれるのではないかと思います。松田さん、いかがですか。

松田:1to1という観点は非常に重要だと思っています。1to1の価値は、大きく分けると2つになります。1つは、直接的に価値が見いだせる場合です。たとえば便利になるとか、お客さんがお金を落としてくれるパターンですね。もう1つは、回り回って間接的に価値を生むパターンです。上申が難しいのは、当然、後者です。打開策としては、短期的にも価値を生み出せる仕組みをつくっておいて、最終的に本来の価値を取りにいく方法がいいと思います。

 説得が難しいのが、当然ながら後者の場合です。「場所の価値が上がるまで、とことん我慢強く待とう」と言える森ビルさんは、会社として、なかなかの文化をお持ちだと思いますね。ほとんどのお客様は、短期的に、直接的にROIを実現するようなプラットフォームをお望みです。そこで、長期スパンで考えながら、短期的にも価値を生み出していける方法を考えていく、というのが、現実的なパターンになっています。

野口:松田さんは、第1回ウェビナーで「デジタルとリアルが融合しながら、ちょうどいいところに収斂されていく」と話していました。デジタルはロジックの世界なので、目的がはっきりしている場合には効率的で気持ちいい。リアルは感性の世界なので、目的は必ずしも必要ない。しかし、人にとって、なくてはならない価値がある、ということが、このウェビナーを通して分かってきました。

森ビルの新事業、虎ノ門・麻布台プロジェクト。

野口:森ビルさんの現在進行中の計画についても、ぜひうかがいたいです。

飛松氏:ARCHを含めた虎ノ門ヒルズエリアでは、「グローバルビジネスセンター」形成を進めていますが、六本木一丁目駅から神谷町駅にかけてのエリアでは「虎ノ門・麻布台プロジェクト」を進行中です。コンセプトは、“緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街 - Modern Urban Village -”。人の流れを考え、街の中心に広大な広場をと緑あふれるランドスケープを設計したうえで、3棟の超高層タワーを融合させるという、従来と全く逆の順番で街のデザインをしました。特徴的なのは、よくディベロッパーは「オフィスと住宅、ホテル…を作ります」といいがちですが、そうではなく「暮らす、働く、遊ぶ、学ぶ、憩う、楽しむ、集う」という人の営みをシームレスに繋ぐことにフォーカスしていることです。我々は、都市における豊かさはどうあるべきか、ということをずっと探し続けています。時代に応じ、つねに都市の未来を提案していく。これは森ビルが長年育んでいる文化だと思っています。虎ノ門・麻布台プロジェクトの竣工は2023年3月末を予定しています。

写真は完成予想図です

野口:「人の豊かさ」というものに、森ビルさんずっと寄り添い続けてきたのですね。

 時間がきてしまいました。おふたりからも、最後に感想などをいただけますか。

いまこそアフターコロナの準備を。

松田:先日、学習塾のポスターを見つけまして、「夏を制するものは、受験を制す」と書いてありました。夏休みにサボるかサボらないかで、合否が変わるということですね。それを見た時にピンと来ました。いまのコロナ禍は、企業にとっては夏休み。準備をしている企業とそうでない企業で、差が出てくるに違いない。いまデジタル化などに取り組んでおくのは、本当に重要だと感じます。

飛松氏:NECさんの話をうかがっていて、改めてテクノロジーの進化はすごいと思いました。我々もテクノロジーを取り入れながら、お客様にさまざまなサービスを提供していこうと、改めて思いました。NECさんとも相談しながら、面白い未来をつくっていければと思います。

 それと、あんまりナショナリズム的なことは言いたくはないですが、日本の存在が希薄になっているのはくやしい。できれば、もう一度世界に打ってでて、日本ここにあり、と存在感を示していきたいですね。

野口:今日のテーマは「人とくらし」。その中に働き方やイノベーションというものもいくつか交えながらお話させていただきました。

 リアルとデジタルが融合することで生まれるイノベーションについて語ってまいりましたが、その一方で、まだデジタル化が進んでおらず活用できないものが多いことも課題であると改めて認識されました。

 この課題を解決するのが、現実世界のアナログなデータをデジタル化し、価値化してフィードバックするネットワークサービスである、NEC Smart Connectivityです。

 NECはネットワークで豊かな世界の実現に貢献していきたいと思います。