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NEC Smart Connectivity CX関連ソリューションWebinar
第3回 共創編:「産官学のデータ連携による生活者のQOL向上への挑戦」

データの大連携が、人々の未来を快適にする。

 デジタル化が急速に進む中、次に進むべき方向は何か? それは、データの掛け合わせによる新しい価値の創造だ。そこで大きな成果を得るためには、多彩なデータの結合が求められている。もはや一企業、一自治体がもっているデータにこだわっている時代ではない。産官学の垣根を超えた「共創」。それこそが大きなムーブメントを生み出すのではないか。本ウェビナーでは、「東京のスマートシティ戦略」に携わっている東京都の松永 武志氏と、データ連携による価値創造に深く関わってきたNECの高木 隆弘、さらに東邦大学の西脇祐司先生などに加わっていただき、産官学の取り組みについて、大いに語り合った。

SPEAKER 話し手

NEC

高木 隆弘

デジタルサービス・ソリューション事業部
部長

野口 圭

ファシリテータ
NEC Future Creation Hub
センター長

中野 裕明

コーポレート事業開発本部
シニアマネージャー

東京都

松永 武志 氏

戦略政策情報推進本部
戦略事業部
先端事業推進担当課長

東邦大学医学部

西脇 祐司 氏

社会医学講座 衛生学分野
教授

東京電力パワーグリッド

田中 正博 氏

事業開発室
副室長

コロナ禍で劇変した社会では、データの活用がキーになる。

 ウェビナー3回シリーズの全体テーマとなっているのが「ニューノーマル」だ。いまは、リアルからデジタルへ急激にシフトし、デジタルが常態化。リアルを包み込んでいる状態になっている。その中で、ショッピング、イベント、移動、ワークスタイルなどの分野は、とくに変化が大きく、デジタルの活用が欠かせないものになっている。

 「そのデジタル化されたデータをどう活用していくかが、今後ますます重要な鍵になる」と語るのは、NECの高木 隆弘だ。単一のデータには、それほど価値がなくても、さまざまなデータを掛け合わせることで、大きな価値が生まれる。DXのチカラを使って産官学が協創すれば、これまで想像できなかった新しい社会価値創造活動が行える。

 「活動を継続していくには、ビジネスとして成立することも大事。いいことは、ずっとつづけていかなければ、意味がないですから」と高木は強調する。

東京版Society5.0がはじまっている。

 「東京のスマートシティ戦略」について、東京都 戦略政策情報推進本部 戦略事業部 先端事業推進担当課長の松永 武志 氏からお話をいただいた。

 内閣府などで、昨年からSociety5.0というワードが使われはじめ、東京都でもこのSociety5.0の実現を目指して、有識者会議を設置した。東洋大学 情報連携学部長の坂村健先生が座長となり、小池百合子知事も加わって議論が行われた。そして、昨年の12月には「未来の東京戦略ビジョン」を打ち出している。全体としては20ほどのビジョンのうち、12番目にあったのが、「デジタルの力で、東京のポテンシャルを引き出し都民が質の高い生活を送るスマート東京を実現していく」というビジョン。これは、東京版Society5.0、いわゆるスマートシティの取り組みで、都民、ビジネス界、自治体の皆様、そして国と、いろいろな方たちと連携して、データを活用した世界を作っていこう、という構想だ、と松永氏は語る。

 これを受けて、2020年2月7日には、短期戦略である「スマート東京実施戦略」を発表した。東京都がもっとも注力しているのが、上段に掲げてある「防災」「まちづくり」「モビリティ」など8つのテーマ。今回NECと共創するのは、この中のウェルネス分野である。

 これらのテーマのいずれにも、データ活用のためのプラットフォームが欠かせない。東京都では、データを仮想空間へ送り、多くの人々が使える形になるよう「官民連携データプラットフォーム」の構築を検討中だ。「個人だけのものでも、行政だけのものでも、民間企業だけのものでもなく、みんなが価値を共有できるように、さまざまな形でデータを流通させていきます。結果として今回のテーマでもある共創という形になっていくと思っています。」と松永氏は語る。

ウェルネスは、ますます重要な分野になる。

 「ウェルネス分野では、まさに個人を起点にして、パーソナルヘルスレコードや健康保険のデータ、レセプトデータを連携した事業ができないか、と考えています」と具体例を示す松永氏。一人ひとりの医療情報、健康情報を、いつでも自分で見られる形にしていきたいという。たとえば会社員の場合、退職後も自由に過去のデータがweb上で見られるようになる。政府の施策としても、マイナポータルを経由した健康情報の提供が推進されるので、これは追い風になる。

 東京都がNECと行っている事業は、「次世代ウェルネスソリューション構築支援事業」のひとつ。NECと大田区、東京電力パワーグリッド、三井住友海上火災保険、ローソン、東邦大学が取り組んでいる「都民の健康増進のための産官学データ活用ウェルネスサービス実証」である(詳しくは後述)。この取り組みは、どちらかというと個人の方に着目して、深く入っていく形。このモデルプロジェクトを推進していく上で、東京都としても 産学官連携、共創を強く意識していると、松永氏は語る。

健康寿命を延ばすことが、日本の急務である。

 日本の社会には、コロナ以外にもさまざまな課題がある。NECとしては、少子高齢化、超高齢社会、労働人口の減少、要介護者増加といった課題にとくに着目している。

 2030年という日本の未来を考えてみよう。高齢者数は3,500万人、3人に1人が65歳以上になる。要介護者、独居老人の数も増えることが予想されている。寿命が 年々伸びているのは喜ばしいが、一方で平均寿命と健康寿命、その差がなかなか縮んでいかない。「いかに健康寿命を延ばすか、いかに重症化を予防するか、が重要なのではないか」とNECの高木は説明する。

 上記は経産省のデータ。予防医療や介護予防の重要性がよく分かる数字だ。予防をきちんと行えば、何百億円単位で費用を削減できる。この部分でNECは貢献したいと考えている。

 「このスライドは、弊社がヘルスケアの分野において、データ利活用できる世界観をお伝えするもの。健康増進、診療、その後の予後・介護といったフェーズで、AI、ITシステム、IoTがお役に立てると考えています。しかし、医療ヘルスケア分野に関して、我々はまだまだ素人の部分があります。パートナー共創による新たな提供価値の創出が必要だと考えます」と高木は言う。

 いまヘルスケアや医療のデータは、いろいろな場所に点在している。これらのデータを有機的につなげることができれば、より適切・適格なサービスが行えるようになり、QOLの向上にもつながるはずだ。 

 「大切に守らなければならないことがあります。それは、ヘルスケアや医療のデータの扱いです。これは、非常にセンシティブ。データを活用させていただくにあたっては、やはりご本人の同意がなければなりません。その上で、データを活用して、ご本人の役に立つように還元したい。そして、社会にも還元・活用されていくサイクルを生み出したいと思っています」と高木は語った。

 今回東京都が採択し、NECが代表企業となっているプロジェクトは3つある。

 プロジェクト1は、「エリア分析とウェルネスサービスのニーズ探索」。三井住友海上火災保険、ローソンのデータを活用しながら、エリアの中でどういった傾向があるか調べる。たとえばローソンの購買データ等と生活、健康がどう関連しているか分析している。この分析については、東邦大学の知見も活用している。

 プロジェクト2は、「モニタリングデータを活用した新規ウェルネスサービスの検証」。この中身は2つある。1つは、東京電力パワーグリッドにご協力いただくもの。もちろん同意を得た上だが、要介護支援の方のお宅からもデータを取り、そのご家庭の生活リズムを見ながら、最適なケアプランの立案につなげていこう、というもの。

 もうひとつは、歩行の様態を可視化できるNECの技術を使う(後述)。整形外科の患者様に、センサーを設置した靴を利用してもらい、治療後、リハビリ後、どのように歩き方が変わっていくか検証している。この結果、よりよい治療法、リハビリ技術につなげる考えだ。

 プロジェクト3は、「データ活用プラットフォームの構築検証」。異業種のデータを流通させるためにはどういった課題があるのかを見極め、それに関連するルールや、留意すべきレギュレーションを考慮したうえで、どうすれば容易にプラットフォームを社会実装できるかを検証していく取り組みだ。

 これら3つは、別々のものではなく、相互に関連してひとつのプロジェクトを形づくっている。

「共創」こそが、大きなイノベーションを生みだす。

野口:さて、ここからは、さらに3人の方にご参加いただいて、ディスカッションしていきたいと思います。ご紹介します。右からお二人目、東邦大学医学部西脇先生、一番右側、東京電力パワーグリッドの田中さん、そして、一番左側、NECの中野です。

 まず東邦大学の西脇先生お願いいたします。

個人情報の取り扱いについては、住民の理解が不可欠。

西脇氏:私自身は医学研究をしていますが、地域単位、個人単位のデータを可視化することによって、地域や組織を改善できる点に着目しています。個人レベルで言えば、セルフオプティマイズ(自己最適化)できる世の中にしていきたい、というのが基本姿勢です。

 本日のテーマの「産官学連携」について、大学の立場からお話させていただきます。

 大学にいま求められているのは、先ほどもありましたが、社会実装や地域連携、社会連携、地域への還元というところだと思います。私どもが携わっている予防医学、たとえば生活習慣病予防や介護予防を考えたときには、行政との協働は不可欠です。また、ウェルネスの取り組みについては、企業のアイデア・技術も欠かせません。つまり産官学で共創していかなければならない、と強く感じているところです。

 大学が入るメリットを申し上げますと、1つは、先ほど高木さんから話がありましたが、個人情報の取り扱いに対する理解ですね。「世の中のお役に立つのですよ、あなた自身のお役に立つのですよ」ということを時間かけて、お示ししていきたい。それが結局は近道なのです。アカデミアが入っていることが、住民理解を得る上で大きな安心感につながると思います。

 もう1つは科学的に妥当かどうか、という検証をする役目です。私はデータに非常に魅力を感じるのですが、データだけで終わるわけではありません。たとえばレセプトデータには予後のデータがなく、病名も完全なものではないなどの問題点があるため、レセプトデータだけですべて完結できるわけではありません。他のデータで補完しながら、科学的に検証しながら解決すべきだと考えます。

野口:目からウロコでした。個人情報のコンセンサスという意味では、住民の理解が肝心。アカデミアが科学的検証するというのは重要ですし、そもそもアカデミアが入っている、ということで信頼性が高まります。やはり産官学の連携というのは大きなポイントですね。先生もおっしゃっていたように、「学」にできないアイデアを「民」に求める、というところが次のステップなのかなと感じます。そういう意味で、田中さん、東京電力パワーグリッドの観点から、ご説明をお願いいたします。

スマートメーターは、防災やウェルネスにも役立つ。

田中氏:東京電力パワーグリッドというのは、送配電を管理している会社。発電所から、皆様のお手元に電気を安定供給する役割を担っています。太陽光発電などの再生可能エネルギーも含め、たくさんの発電所から送られてくる電力を、あたかもひとつの大きな発電所から送られているような形にしています。

 そして、私ども事業開発室の使命は、送配電のデータをどのように提供していくか、電柱などの設備からどういう価値を生むか、というところにあります。

 電力使用量をデジタルで計測する電力量計、スマートメーターを、2020年度中に関東圏2900万世帯に設置する予定です。スマートメーターがあれば、30分ごとに自動検針し、その値がすべて集約できるようになります。この細かいデータは個人情報になるので、お客様の同意が必要ですが、実は、データを見ることで、各ご家庭の生活リズムまで知ることができます。

 今回の取り組みもその一環で、「ウェルネスのデータとの掛け合わせ」というのが私どものチャレンジです。たとえばスマートメーターのデータと保険会社のデータを掛け合わせると、QOLの向上に役立つだろうと考えています。

 データを取って、1次分析するまでが私どもの役割。そこから先は、西脇先生などのご指導の下、たとえば介護、ヘルスケアなどに活用できればいいなと。そのためには、どういうデータが必要なのかを検討しているところです。

 ここに荒川と隅田川に挟まれた、足立区北千住付近のデータがあります。左下の「8791」という数字は、ある夏の夕方7時ごろに、この地域にご在宅になっていた世帯数です。スマートメーターがリアルタイムに動いていれば、30分ごとにそこにいる人数が把握できるわけです。避難所の稼働状況と併せて見れば、この地域の住民がどこの避難所へ移動すればいいか、的確に分かるのです。

 実は、スマートメーターによって、どの家電がどれだけ電力を使っているかまで特定できます。電子レンジ、エアコン、電子レンジ、テレビ、照明などの家電は、出す波がそれぞれ違うためです。このグラフでは、テレビはオレンジ色です。ご家庭でテレビを消す、その瞬間が分かる。それが深夜であれば、就寝するのだな、電子レンジが立ち上がれば、起きたのだな、と推測できます。つまりそういうライフログが、電力データを見ているだけでつかめるのです。このデータは、たとえばヘルスケアやウェルネスの分野でご活用いただけると考えています。

 今回の東京都様のプロジェクトで、スマートメーターを使っていただければ、面的にライフログが取れるようになって、住人の皆様のQOLが上がっていくのではないかと考えています。

野口:スマートメーターのデータで生活の様子まで分かるというのは、驚きです。そのデータと他のデータを組み合わせることで、新しい価値がつぎつぎに生み出していけそうですね。つぎにNECの中野が取り組んでいるプロジェクトも紹介させてください。

歩き方のデータが、健康サービスにつながる。

中野:NECで、健康領域の事業開発をやっております中野です。先ほど高木から説明があったように、靴の中敷き(インソール)にセンサーを入れて、歩幅やピッチ、接地角度や離地角度などさまざまな視点から歩き方の質が簡単に計測できるような仕組みをつくっています。

 健康のために歩数を気にされている方は多いですが、歩き方となると、なかなか自分では気づきにくく、手軽に計測することも難しい。このことを、西脇先生にお話しすると、「日常の歩き方については、医療現場や大学でも把握できていないので、リモートでデータが取れるのならば、新しいサービスにつながる可能性がある」と言っていただきました。

 たとえば先ほどのスマートメーターのデータと組み合わせると、家の内外に渡りその人の健康状態、活動状態を把握できる。これを地域の健康関連サービスやイベントにつなげて、一人ひとりにレコメンドできるようになればいいなと考えています。

産官学の共創により、データと知恵を結集させる未来へ。

野口:これまでで有用なお話がうかがえました。まず、データは取れただけではだめで、さまざまなデータと組み合わせて何ができるのか、というところが重要。そして、アカデミアの先生方とともに、仮説を作っていかなければならない。社会実装するためには、まずは小さな地域を指定して、プラットフォームをつくっていくことも大切になりますね。

 データをもっているステークホルダーが、お互いに補完し合いながら、本当の社会実装というのを進めていかなければいけない。というのが本日の議論だったのかなと思います。

 今日は、東京都の取り組みから始まりまして、NECの取り組み、各ステークホルダーの皆様の観点から、産官学のポイントというものについても述べていただきました。あっというまの1時間でした。皆様、本当にありがとうございました。