ビジネスの変化に強い仕組みをつくる
モダナイズのカギ「コンポーザブルモデル」とは
DX戦略をどう整理すべきか。NECはDX戦略をモダナイゼーションとデジタルシフトの二つに分けてとらえている。モダナイゼーションとは、新しい技術によってレガシーシステムを刷新したり、移行したりすること。一方、デジタルシフトは競争優位のためのデジタル活用である。当然、両者は密接な関係にあり、どんなデジタル活用を目指すかによって、レガシーシステムのモダナイズの方向性が決まる。ここではNECが開催したオンラインイベント「NEC Visionary Week」の中からモダナイゼーションをテーマにした講演をピックアップしてポイントを紹介する。
SPEAKER 話し手
NEC
淺野 友彦
デジタルビジネスオファリング事業部
上席事業主幹
川又 健
DX戦略コンサルティング事業部
エグゼクティブコンサルタントリード
DXに向けて技術的な負債をいかに解消するか
淺野:少し前までDXというと新しいビジネスやサービスを創出するための取り組みが主流でした。しかし、最近はデジタルを活用して既存ビジネスの強化を目指す企業も増えています。
私は、この傾向をDXが本格化してきた現れだと考えています。なぜなら、多くの企業が新規ビジネスの立ち上げを目指すのと並行して、既存ビジネスの強化やデジタル化にも着手したと考えられるからです。
しかし、課題もあります。その一つがレガシーシステムです。ある調査によると約9割の企業が、まだレガシーシステムを保有していると答えています。そして、さらに回答を見ていくと、そのうちの約7割の企業は、そのレガシーシステムがDXの足かせになっていると感じているようです。
DXを推進するには、システムの刷新や移行によって、この技術的な負債であるレガシーシステムを解消しなければなりません。そのためには、どのような企業に変革したいのか、また変革した姿に適した新たなITシステムとは、どのようなものかを考えて実現していかなければなりません。それが「モダナイゼーション」です。
徹底した標準化で、変化に強いシステムを実現
淺野:私は2年前からNECのモダナイゼーション専門組織でリーダーを務めていますが、残念ながら、どの企業にも通用し、しかも安くて効果的というモダナイゼーションの方法はありません。なぜなら、モダナイゼーションは、これからどんな企業を目指すのか、経営戦略をベースに行う取り組みだからです。つまり、企業ごとに最適なアプローチが異なるのです。
川又:モダイゼーションは、使っているハードウェアやソフトウェアのサポート/保守切れが直接の原因になることが多いため、ともすると近視眼的になってしまいがちです。しかし、淺野が述べたとおり、どのような企業に変革したいかによって、各企業のDX戦略やモダナイゼーションの方法は、大きく異なってきます。DX戦略に沿って、予め目指すアーキテクチャや計画の全体像を描いておくべきです。
例えば、DX戦略はモダナイゼーションとデジタルシフトの二つのフェーズに分けることができます。モダナイゼーションは、前述した通り新しい技術によってレガシーシステムを刷新したり、移行したりすること。一方、デジタルシフトは競争優位のためのデジタル活用と定義できます。
この二つのフェーズを意識して、将来のデジタル活用のためにレガシーシステムをどこに導くべきかを考えることで、計画を立てやすくなります。
実は、NECもこのアプローチでモダナイゼーションに取り組みました。 NECはデジタルシフトの本質を「ビジネスの変化に強い仕組みづくり」ととらえ、そのために必要な力を「レジリエンス(強さ)」と「アジリティ(しなやかさ)」と考えました。 ですから、変化するビジネスや組織に対応し続けられる構造を持つシステムに生まれ変わらせることをモダナイゼーションの方針に据えました(図1)。
そのために、採用したのがシステムのコンポーザブルモデルです。
コンポーザブルモデルの基本コンセプトは、業務アプリケーションと共通サービスに分離すること。これまで、業務アプリケーション単位で設計・構築を行ってきたデータやAPI(システム間連携)などを共通サービスとして、業務アプリケーションと切り離す。新規事業でのシステム構築や市場変化による業務アプリケーションの改修の際には、業務アプリケーションのみを実装・回収することで迅速な対応が可能になる上、コンポーネントを柔軟に組み合わせることによって変化への強さを備えることができます(図2)。
ほかにも、モダナイゼーションは、拡張性を考えて、できるだけSaaSやPaaSを前提にすること、できるだけデファクトとなるクラウドサービスや標準となる機能を活用することが大切です。そうすることで将来のさらなる技術負債化を防ぐことができるからです。
淺野:共通化を行うという観点では、オブジェクト指向、SOA(Service Oriented Architecture)などが過去に提唱されました。コンポーザブルモデルは、それらと基本的な考え方は同じです。しかし、以前と今とでは環境が大きく違います。
川又:例えば、以前のコンポーネント化の考え方においては、変更管理や組み合わせテストなどに工数がかかってしまい、開発工数削減のメリットよりも変更管理の工数が大きくなるという課題がありましたが、現在はこれらを補完し、省力化する各種のツールが整っています。
また、SaaSでも外部サービス(aPaaS)を付加できるサービスも数多く提供されています。これにより、組み合わせテストが不要になりますし、またSaaSのバージョンアップの際には提供元が行いますのでリグレッションテストの実施が不要になるなど、IT業界全体としてもコンポーザブルモデルを意識した構造にしている製品が増えています。
DX推進部門が中心となって全社の意思統一を図る
川又:ある小売業者のお客さまは、グループとしてさまざまな業態を保有しており、多数の種類の商品を扱っているのですが、以前は、すべて1つのECサイトパッケージを利用されていました。そうすることで、グループ全体として共通の画面設計でブランド訴求があると同時に共通の顧客体験を提供する事を価値としていました。しかしながら、商品が多様化・詳細化していくにつれ、日雑品と洋服を同じ画面で表示する事が困難になり、商品ごとの競合である専業ECと比較すると検索性などで劣るという課題が出てきました。
そこで、コンポーザブルモデルを採用。顧客IDや購買履歴などのデータは共通サービスとして整備しながら、ECフロントだけを商品ジャンルに応じて強化できるようにしました。
淺野:コンポーザブルモデルは非常に有用ですが、難易度が高いという指摘もあります。理由の一つが「現場の反発」のようです。
川又:現場の反発については、「業務アプリケーションの統制」を強調しすぎると、事業部の反発を招いてしまうかもしれません。しかし、共通サービスを基盤にすることで、事業部はフロント部分だけの業務アプリケーションを低コストで迅速に導入する事ができ、システムの費用対効果を高めることができます。
あくまで共通サービスはDX推進部門(IT部門・情報システム部門含む)が提供することであり、業務アプリケーション導入プロジェクトとは切り離して実行することで、事業部の反発は軽減すると考えています。
淺野:加えて重要なのは、全社の意志を統一することです。DX推進チームはIT領域のプロジェクトではなく、ビジネス全体、つまりDXに向けたプロジェクトなのだというメッセージを強く発信するべきだと考えています。NECは、自身のモダナイゼーションの経験も活かしながら、お客さまのモダナイゼーションに向けた構想策定から実際の刷新・移行までをトータルにサポートしています。ぜひお声がけください。