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デジタルシフトの実践と進化
~社会に求められるデジタルトラスト~

 「メタバース」と呼ばれるインターネット上の仮想空間が急速に広がる中、より安全で信頼性の高いデジタルプラットフォームが求められてくる。2022年7月15日、「デジタルトラスト」をテーマに、日本経済新聞社主催の「世界デジタルカンファレンス2022」がWEBライブ配信によって開催された。NECの執行役員常務 吉崎 敏文が講演で語った、社会・企業・個人の視点によるDX推進におけるデジタルトラストの捉え方、そしてNECの取り組みを紹介する。

NEC
NEC 執行役員常務
デジタルビジネスプラットフォームユニット長
吉崎 敏文

今後も急速に進むデジタルテクノロジー

 デジタルトランスフォーメーション(DX)をはじめ、社会やビジネスの領域でデジタルシフトが急速に拡大している。そうした流れを受け、吉崎はまず、社会・企業組織・個人という3つのレイヤーにおける大きな変化を指摘した。

 社会では、透明性やガバナンス、サスティナブルといった要素が重視され、また企業では業界を超えたさまざまなエコシステムが誕生している。また個人では、リモートワークをはじめとする働き方改革が普及し、個人の自由と選択を尊重する動きが広がっているという。

 一方で、ウクライナ紛争や経済圏の勢力拡大など世界的な分断も広がり、新たなリスクを生み出すことも懸念されている。

 そうした中、社会やビジネスを支えるテクノロジーの進化について、吉崎は次のように説明する。

 「テクノロジーは今後10年で、これまでの20年をはるかに凌ぐスピードで変化していくでしょう。ソフトウェア分野ではAIがますます進化し、ハードウェアでは量子コンピューティングによって計算速度が1億倍に上がるといわれています。また、ネットワークでは6Gによって通信スピードが100倍になるなど、テクノロジーのパフォーマンスは、これからも劇的に向上していきます。」

 デジタル化の加速を表すさまざまなデータもある。全世界のデータ総量は2010年から2020年にかけての10年間で約60倍に増加している。一方で、2020年から2021年の1年間で国内ランサムウェアの被害は4倍※1に増えている。さらに1年以内にサイバー攻撃を受けた企業は36%※2以上に上るとの調査もある。

※1出典:警察庁(2022.2) ※2出典:帝国データバンク

デジタルシフトの加速で、直面する課題とは

 自動化・自律化の進展に伴う膨大なデータトラフィック、高速・大容量化が一段と進む通信ネットワーク、そして広がるメタバース…。デジタルシフトが加速する中、新たな課題も見えてくる。それは、社会やビジネスの根幹を支えるデジタルプラットフォームにおける信頼性や安全性という課題だ。それこそが「デジタルトラスト」である。

 では、これまでのトラストとデジタルトラストにはどんな違いがあるのか?

 「まずは、トラストそのものの捉え方が従来と異なるという点が挙げられます。さらに説明責任や透明性といった新たな価値も求められてきます。デジタルトラストでは、『データの分散化』『ゼロトラスト』『フィジカル/サイバー空間』といった視点に立ち、安心安全に対するより強固な対策が特に重要になってきます」と吉崎はいう。

デジタル化によって変化するトラスト/デジタル

 続いて、社会・企業組織・個人という3つのレイヤーにおいてデジタルトラストの先進事例が提示された。

 まず、社会の事例として紹介されたのは、デンマークだ。国を挙げてデジタルシフトが進むデンマークでは、デジタルの利用が義務化され、行政と企業間では100%、行政と市民のやりとりは92%のデジタル化を実現。2008年と2010年には世界電子政府ランキングの1位を獲得しているという。

 企業組織としての事例では、世界で最も進んだデジタル銀行のひとつとしてシンガポールのDBS銀行が紹介された。当銀行では、高信頼性のプラットフォームをベースに、デジタル経由の顧客事業収入が実に72%を占めている。

 個人に対する事例では、Appleの「アップル・プライバシー・リポート」を例に挙げた。プライバシーを「基本的人権」と位置づけて、アプリによる個人情報の活用状況をユーザ自らが管理できる新たな仕組みが話題となっている。

NECが実践している、先進の取り組み

 ではNECは、社会・企業組織・個人という3つのレイヤーでどんな取り組みを行っているのか。その事例は次の通りだ。

 「社会・組織・技術などの変化が進む中、データを含めその繋がりはより広く、深くなっていきます。そうした中で安心安全な社会の構築においては、自治体・行政・まちなどが、共通のネットワークインフラやOSによって繋がり、保有するデータを集約・連携することにより、さまざまな社会価値やサービスを生み出すことが重要になってきます」と吉崎は強調する。

安心安全な社会の構築にむけた取り組み

 社会におけるNECのDXの取り組みとして、吉崎が例に挙げたのはさまざまな自治体におけるスマートシティの実践だ。NECでは、トラストなインフラを基盤として、多くの自治体とともにデジタル田園都市構想、スマートシティ、スーパーシティなどの取り組みを推進。「健康・医療」「防災」「観光」など、データ利活用によるまちの進化を今後も広げていく。

 テクノロジーで企業を守る事例としては、キャッシュレス・パスワードレス・タッチレスを実現する取り組みが紹介された。NECでは、長年の強みである顔認証虹彩認証を組み合わせたマルチモーダル認証で、エラー率1/100億以下という高精度な認証を可能にしている。大量のIDやパスワード管理をなくし、利便性とセキュリティを両立するこうした生体認証は、企業における入退出や銀行・ATMなどでの決済、医療機関におけるセキュリティエリアの入室制限、空港などでのチェックイン・保安検査など、幅広いシーンでの活用が期待されている。

生体認証で実現する 安全安心セキュアな`手ぶら'社会

 また、NECではAWS社やマイクロソフト社との協業によるハイブリッドプラットフォームの提供を進めているほか、クラウド環境のセキュリティを一段と強化するために、データサイエンティストやサービスマネージャーなど専門家の知恵とスキルを集め、上流から顧客を支援することでデジタルトラストの実現を支援していく。

 最後に、個人の情報を適切に取り扱うための取り組みが紹介された。NECでは、2019年にAIと人権に関するポリシーを策定。人権尊重を最優先したAI提供と利活用の推進、さらにガバナンス強化を目的として、新たに「デジタルトラスト推進本部」を発足させたほか、プライバシーやセキュリティなどトラスト技術の研究、さらに社会課題を解決する人材育成などに力を注いでいる。

個人の情報を適切に取り扱う

DX推進の軸を支える、デジタルトラスト

 「DXやデジタルシフトを推進する上で、ビジネスモデル・テクノロジー・人材の3つの軸が重要だと、以前から私は繰り返しお話してきました。そしてこの3つの軸の基盤として不可欠なのが、まさにデジタルトラストなのです」と、吉崎は主張する。

DX推進を支える3つの軸を進化させ続ける

 NECでは、現在「DX Innovator 100」と題し、業界トップクラスのプロフェッショナルが顧客のDX推進を要望に応じて具体的に支援する取り組みを進めている。その領域は、セキュリティ、データサイエンス、AI、生体認証などのテクノロジーだけでなくブロックチェーン、デジタルガバメント、スマートシティ、デジタルマーケティング、データドリブン経営など、多岐にわたる。2023年には、DX Innovatorの目標である100名に達する見込みだ。

ビジネス×テクノロジーで未来を牽引するトップリーダー

 講演の締めくくりとして、吉崎は次のように語った。

 「NECは、ソフトウェア・ハードウェア・ネットワークのさらなる進化を通じて、お客様や社会のDX推進をこれからもご支援していきます。お客様からさまざまな声をいただき、それを糧として改善や変革を図り、より高い価値として社会やお客様にお届けしていく。こうしたループによって、デジタルシフトをさらに加速させていきます」