「経験・勘・度胸」からの脱却
成功企業の共通点から学ぶ「データドリブン経営」実現のカギとは
データドリブン経営に注目が集まっている。ビジネス環境が激しく変化する時代においては、経験や勘ではなく客観的なデータに基づいた経営判断を行うべきではないか――。多くの企業にこうした考えが浸透してきたからだろう。しかし、いざそのための環境を整えようとすると、さまざまな課題に直面するのも事実だ。どのような組織体制で取り組みを進め、収集・分析したデータをどう経営判断に活かせばよいのか。顧客企業やNEC自身のデータ活用戦略に携わっているNECのキーパーソンたちに話を聞いた。
データを経営判断に活かせている企業はわずか15.5%
「VUCA(ブーカ※1)の時代」と呼ばれるように、変化がめまぐるしい今日のビジネス環境で競争優位性を保つには、迅速かつ正確に市場や自社の状況を把握して臨機応変な経営判断をすることが欠かせない。
かつては意思決定に際して経営層や現場責任者の経験・勘・度胸(KKD)が尊重されたが、情報を多角的に収集・分析できる環境が整うにつれ、データが示すエビデンスに基づいて判断を下す「データドリブン経営」が重要視されるようになってきた。
ただし、必ずしも成功している例ばかりではない。「業界や業種あるいは規模を問わずデータに向き合おうとする企業が増えていますが、ノウハウやリソースの不足などから単なる『状況の可視化』で終わり、分析結果を的確な経営判断や戦略策定に活かせている成功事例はそれほど多くないのが実情です」と多くの企業の戦略や企画に携わって来たNECの安藤 美紀は言う。
そんな現状を裏付ける調査結果もある(※2)。データ活用に携わったことのある社員約500名に、集計・分析した業務データを意思決定や経営判断に活かせているかどうか質問したところ、「活かせている」とする回答はわずか15.5%に過ぎないのだ。
またデータ活用のレベルがそれほど成熟していないことも見てとれる。「データ活用のレベルは状況把握までが約7割を占め、予測、原因分析やPDCAといった成果活用まで実践できている企業は3割に留まっているのです」(安藤)
さらに同調査では、データ活用業務に要する時間の約6割が、分析の前段階にあたるデータ収集・前処理・集計に割かれている状況も浮き彫りになった。これは多くの企業が分析前の業務にExcelをはじめとしたスプレッドシートを使っており、本来自動化できる処理に人手をかけている実態を示している。
- ※1 VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語
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※2
出典:ClipLine株式会社【調査リリース】企業のデータ活用に関する実態調査
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000161.000011390.html
成功している企業に見られる共通項
なぜ多くの企業でデータ活用がそれほど進展していないのか。安藤はその課題を大きく3つに大別する。
まず1つ目が「データの問題」だ。「データ量の不足」「データが社内に散在して一元化されていない」「フォーマットがバラバラ」といった課題がこれに当たる。
2つ目は「リソースの問題」だ。「担当者の通常業務が忙しくデータ分析に十分な時間を割けない」「分析スキルが不足している」といった悩みを抱える企業は少なくない。
最後に3つ目が「活用の問題」である。「分析対象の選定や決定ができていない」「ROI(投資利益率)の効果測定が困難」といった声がそれだ。
それではこうした課題を乗り越え、データ活用を推進するにはどうすればよいのか。米国の大手コンサルティング会社マッキンゼー&カンパニーが1,000社以上への調査を基に、「データ活用に成功している8%の企業」に共通した特徴を抽出したところ、3つの特徴が浮き彫りになった。それは明確なデータ戦略を策定してデータ基盤を整える「戦略と投資」、分析担当者のスキルアップや部門横断的なプロジェクトチームの構築など「人材確保と組織化」、効果検証を経て意思決定プロセスへの組み込みを行う「成果のラストマイル」である。
「この『戦略と投資』『人材確保と組織化』『成果のラストマイル』はそれぞれ、『データの問題』『リソースの問題』『活用の問題』と呼応関係にあることがわかります。これは、NECが支援してきた社内外の取り組みを鑑みても明らかです。したがってこれら3つの課題に対処することは、データ活用を成功に導く手段そのものだといえるでしょう」(安藤)
「戦略と投資」や「成果のラストマイル」と比して手薄になりがちな傾向にある「人材確保と組織化」も極めて大切な要素だ。データ活用は組織を挙げて注力すべきミッションであるだけに一部の担当者のみに任されるのではなく、各役割を担うメンバーで構成されるアジャイルチームを設置して推進することが望ましい。
「できれば、人材やノウハウを集約して組織横断的に機能するCoE(センター・オブ・エクセレンス)を置くべきでしょう。そうした組織体制を整備して個々の経営課題に即したデータを収集し、分析結果をしっかりラストマイルに落とし込むことが、データドリブン経営の実現につながるたしかな道筋となるはずです」と安藤はアドバイスを送る。
取り組みに不可欠な「5つの柱」とは
とはいえ、データに立脚した経営は一朝一夕で実現するものではない。実はNECも自身の体験からそのことを深く認識している。
2000年代後半に経営危機に直面した際にCX(コーポレートトランスフォーメーション)を断行し、データ活用ができる環境構築を目指したが、当初はそのための基盤がまったく整っていなかったのだ。
「データドリブン経営で目標にしている『データの民主化』とは、社員の誰もが必要なときに必要なデータにアクセスできることです。しかし、かつては組織が縦割りで、各事業部門がそれぞれシステムを構築していたことにより、データがバラバラな状態で存在、いわゆるサイロ化していたため、全社的にデータを共有し活用するのは困難でした。現在では、One Dataプラットフォームにファクトデータを集約。部門の壁を取り払いつつ全社横断での活用を徐々に進めていますが、ここに至るまではかなりの歳月を費やさなければなりませんでした」とNECの渡邉 一輝は振り返る。
NECでは各領域のCxOがデータオーナとなって、社内のデータの標準化を主導し、受注や売上・利益などの財務情報から、人事、社内IT、サイバーセキュリティを含む非財務情報まで多種多様な経営データを整備。経営ダッシュボードでの可視化により意思決定を行い、アクションにつなげている。
さらにアドホックな分析は整備された標準データでクイックに実行できるため、目的に応じたデータ活用が行われるようになっている。
「これまでの取り組みを通じてわかったのは、データ活用には『組織/統制』『文化』『人材育成』『分析/活用』『基盤』の5つの柱が不可欠だということです。これらの要素は互いに密接にかかわり合っていますが、企業によって状況は異なるため、優先順位や、重要度に応じて的確に対応することが重要です。弊社では経営課題の解決を目的とし、クイックウィンと改善サイクルを意識して取り組むことで、データドリブン経営を加速させています」(渡邉)
だが、「どこから着手すべきか見当もつかない」という企業も少なくないだろう。そこでNECでは、価値創造モデル「BluStellar(ブルーステラ)」のもと円滑なデータ利活用をサポートするコンサルティングサービスも提供している(※3)。
「ノウハウやリソースのない状態から変革を成し遂げるのは容易ではありません。私たちは身をもってその難しさを知っているからこそ、お客様と同じ目線に立って戦略構想策定から実装・運用まで一貫して伴走できるのです」と渡邉はその想いを語る。
- ※3 NECは自社の改革を通じて蓄積されたノウハウとグローバルパートナーの最先端テクノロジーを活かし、顧客企業の変革を成功へ導く価値創造モデル「BluStellar」を推進。データドリブン経営の実現を支援するサービスは、その主要なメニューの1つとして位置づけられている。
データを活用する文化の醸成も重要課題
そうしたサービスを支えるのが、多種多様なビジネス領域に精通する1,000名ものコンサルタント部隊だ。DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や新たな事業価値創出に向けて、企業・組織を上流コンサルティングからEnd to Endで丁寧にフォローしている。
そんなコンサルタントの1人が宮澤 崇だ。宮澤は、多くの企業のデータマネジメント推進に携わっている。
そうした企業に共通する悩みが、データ活用をするための基盤は用意するものの「データが順調に蓄積していかない」「データに関するルールが統一されていない」「業務部門で分析を行いたくてもその人材がいない」といった課題だという。
「データマネジメントを行うには、その推進役となるDMO(データマネジメントオフィス)が不可欠です。そこでまずは組織の立ち上げと、データ運用に関するルールやガイドラインの策定を支援させていただくケースが多いです」(宮澤)
また社内に「データ分析ができるスペシャリストがいなかったため、自社でデータ分析を行うことが難しい」というケースも少なくない。そうした場合は、サービスの運用においてNECがDMOにデータサイエンティストやデータ管理者(データスチュワード)を派遣。ワンチームとなって現場の課題のヒアリングや過去事例のデータ開示、分析サポートなどを実施していくという。
「データ活用を全社的に推進するには、誰もが積極的にデータに向き合う姿勢を養うことも大切です。そのために効果的なのがデータ活用に関する情報交換やコラボレーションなどを促進する『データコミュニティ』の組成です。『意識の壁』や『スキルの壁』など、データ活用の推進プロセスではいくつもの壁に直面するはずなので、データコミュニティで課題ごとの最適な施策を講じることは有効な手段となります。また、取り組みが進展するにつれてDMOだけでは手が回らなくなるので、業務部門にDMOの代わりを務める『伝道師』を育て、社内にデータ活用文化を定着させることも重要です」と宮澤は話す。
End To Endで伴走し、企業変革を成功に導く
BluStellarは、社内に培われた有形・無形のアセットや人材、そしてお客様や自社での実践経験から蓄積された膨大なノウハウやエッセンスをブラッシュアップして集大成したもの。今後もNECは、それらを軸にお客様と一緒に課題を考え、企画し、具体的な形や価値が創出されるまで、お客様の変革と成長を目指し共に伴走していく考えだ。