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次世代型シンクライアントで切り拓く消防DX
端末二重運用を解消し、災害対応力を高めた仙台市消防局の取り組み

 自治体の情報システムは、セキュリティ確保の観点から、庁内LANと分離した形で運用されるケースが少なくない。消防業務を支える消防OAシステムもその1つだ。庁内LAN端末と消防OA端末の2台を使い分けるため、情報のやりとりが煩雑になり業務効率が下がる。その結果、端末台数が増え、コストや管理の手間も膨らむ。この改革に取り組んだのが、仙台市消防局だ。NECグループが提案した次世代型シンクライアントによって、消防業務はどのように変わり、どんな効果を実感しているのか。プロジェクトをけん引した仙台市及びNECグループのキーパーソンに話を聞いた。

SPEAKER 話し手

仙台市 消防局

鶴石 楽氏

警防部 指令課 情報通信係 係長

佐々木 康道氏

警防部 指令課 情報通信係 主査

仙台市 まちづくり政策局

濱道 一樹氏

デジタル戦略推進部 情報システム課 主任

新田 彰啓氏

デジタル戦略推進部 情報システム課 技師

NEC

劉 伯誠

BluStellar ビジネス統括部
プロフェッショナル

NEC フィールディング

阿部 和馬

東日本インテグレーション統括部
東北営業部 営業第二課
プロフェッショナル

消防業務の効率化を阻む「端末の二重運用」

──“万が一”の時に救いの手を差し伸べてくれる消防は、社会にとってなくてはならない存在です。仙台市消防局では、どのような業務を担っているのでしょうか。

鶴石氏:消防局の業務は多岐にわたり、消火・救急・救助・予防などのイメージが強いと思いますが、私と佐々木が所属する警防部指令課では、市民からの119番通報を受け付け、迅速に消防車、救急車を出動させる指令管制業務を行っています。また、指令管制システム、消防救急デジタル無線、ライブカメラなどの各種機器の運用・保守管理を行うほか、消防の事務業務を支える総合消防情報システム(消防OAシステム)の保守管理も所管し、消防業務をインフラの面から支えています。

仙台市 消防局
警防部 指令課 情報通信係 係長
鶴石 楽氏

佐々木氏:特に、消防OAシステムは、現場活動終了後の報告をはじめ、市民からの各種届出、建物の使用状況、消火栓や道路の利用規制等の入力に使用します。蓄積された情報は、災害発生時の支援情報として活用するほか、消防の統計事務、活動検証業務にも用いられるなど、消防業務の中心となるシステムです。

仙台市 消防局
警防部 指令課 情報通信係 主査
佐々木 康道氏

──社会環境の変化に伴い、消防業務を取り巻く環境も変わってきているのでしょうか。

鶴石氏:気候変動の影響により、近年は自然災害が激甚化・頻発化しています。また、高齢化が進み、高齢者からの救急要請も増えています。一方で、人手不足は慢性的な課題であり、限られた人員と予算で市民ニーズに応えなければならない状況です。

濱道氏:これは消防局に限ったことではなく、仙台市の課題、さらに言えば全国の自治体に共通する社会課題と言えるかもしれません。こうした課題の解消に向け、仙台市ではデジタルを活用した業務効率化など全庁的なDXに継続的に取り組んでいます。今回取り組んだ消防OA端末のモダナイゼーションも全庁的なDXの一環です。

仙台市 まちづくり政策局
デジタル戦略推進部 情報システム課 主任
濱道 一樹氏

──なぜ消防OA端末のモダナイゼーションが必要だったのでしょうか。

佐々木氏:消防局では、消防業務専用の「消防OA端末」と、仙台市の庁内LANにつながる一般行政事務用の「庁内LAN端末」の2種類があり、業務内容に応じてそれぞれを使い分けていました。

 消防局の職員数は約1,100人。消防OA端末と庁内LAN端末をそれぞれ約400台ずつ、合計約800台運用していました。一見、十分足りているように思えますが、それぞれの端末を共有して使用しなければならないので、空いている端末を見つけて、その端末で実施可能な事務をこなしていくことになります。

 使いたい端末がすぐには使えず、空くまで待たなければいけない――。そうなると、当然、業務はうまく回りません。

一般行政事務の作業は仙台市が管轄する庁内LANシステムに専用端末でログインし、消防業務は消防OAシステムの専用端末でログインが必要だった。2つの端末は別々に管理されており、必要に応じて使い分けていた

鶴石氏:端末間のデータ移動は、USBメモリを用いて実施していましたが、データ移動が煩雑なほか、USBメモリの紛失などがないよう保管していますので、持ち出し・管理にも負担が発生していました。これに加え、用途の異なる端末を管理するので、手間も経費も二重にかかることは大きな課題でした。

消防業務の課題を解決した「次世代型シンクライアント」とは

──課題解決に向け、NECグループの次世代型シンクライアントに着目した経緯を教えてください。

佐々木氏:端末の使い分けを解消するためには庁内LAN側の調整も必要になります。そこで情報システム課の濱道さんに相談しました。さまざまな議論を重ねた結果、行き着いたのがVDI(Virtual Desktop Infrastructure)方式です。詳しく調べようとWebで検索したところ、NEC主催の「次世代型シンクライアント」に関するウェビナーの開催を知り、それを視聴したのがきっかけです。

 従来のVDI方式の課題を解消できる新しい仕組みであることを知り、NECにコンタクトを取りました。ウェビナーを視聴したのが2024年夏ごろ。その後、次世代型シンクライアントがどういうものか技術的な説明を受け、10月には実機デモで確認させてもらいました。

──次世代型シンクライアントはどういう特徴を持つシステムなのでしょうか。

:基本的な仕組みは従来のシンクライアントと同じで、サーバ側の仮想マシン上で処理を実行し、その処理結果を端末側に表示します。ログインし直すだけで、物理的に分離されているシステムを1つの端末で利用できるようになります。

 次世代型シンクライアントはNVIDIA vGPU(仮想GPU)を搭載したサーバをベースにしたもので、1つのGPUリソースを数十台の仮想マシンで共有するのが特徴です。これにより、CPUの負荷を分散し、シンクライアントの弱点だったグラフィック性能の問題を解消します。

負荷の大きいグラフィック処理は高性能なGPUで処理し、CPU負荷を軽減する。シンクライアントの弱点とされてきたグラフィック性能を克服し、物理PCと同等のグラフィック性能を発揮する。CPUにも余裕が生まれるため、全体のパフォーマンスも向上する

──実機デモを確認した時の印象はいかがでしたか。

新田氏:庁内の一部の部署ではVDI環境を採用しているのですが、それと比べても負荷の大きい地図データや動画を開く場合の動作はずっと軽快でした。VDIは遅いという固定観念を覆されました。

仙台市 まちづくり政策局
デジタル戦略推進部 情報システム課 技師
新田 彰啓氏

濱道氏:CPU使用率も見せてもらいましたが、複数端末で映像コンテンツを開いてもCPU使用率はそれほど上がっていない。これならリソース不足で動作が遅くなることもありません。次世代型がこんなに高性能とは、正直、驚きました。

消防業務を変革し、災害対応力の向上につなげる

──導入までの時系列的な流れを教えてください。

鶴石氏:NECグループによる実機デモを拝見して仮想GPUベースのVDI導入を目指すこととしました。情報システム課さんの助言をいただきながら要件定義を行い、一般競争入札により、2025年6月にNECフィールディングが採択されました。そこからシステム構築がはじまり、テストや検証を経て、2026年2月より本格稼働しています。

──システム構築にあたり、NECグループとして工夫した点はありますか。

:セキュリティの観点から、庁内LANと消防OAシステムのネットワークは物理的に分離されています。相互接続させるためには、通常はファイアウォールにリモートデスクトップ接続用のポートを開けるのですが、このやり方ではセキュリティが損なわれる懸念があります。

NEC
BluStellarビジネス統括部
プロフェッショナル
劉 伯誠

阿部:そこで情報システム課様と協議し、ゼロトラストの考えに基づく対策を施しました。庁内LANをインターネットに見立て、インターネットアクセスに使うゲートウェイシステムを新たに導入したのです。物理分離ではなくゼロトラストの理念に沿った論理分離に移行したことで、セキュリティと利便性を両立できました。

 消防局は火災や救急要請に24時間365日体制で対応します。性能だけでなく、どんなことがあっても止まらない可用性も絶対条件です。こうした点も踏まえて全体のシステムを設計・構築していきました。

NECフィールディング
東日本インテグレーション統括部
東北営業部 営業第二課
プロフェッショナル
阿部 和馬

──システムが稼働して以降、どのような効果を実感されていますか。

鶴石氏:まだ改善すべき点はあるのですが、現場の評価も上々です。今回のシステム構築に合わせて、庁内に無線LAN環境も整備したので、場所を選ばず、庁内のどこでも接続可能です。

 それに加え、庁外に端末を持ち出しての使用も可能になりました。市・区に災害対策本部が設置された時は、対応にあたる消防署などから連絡員が派遣されます。このシステムを用いれば現場の“リアル”をダイレクトに伝えられます。同じ画面、同じ情報を見ながら議論できることで意思決定のスピードと質の向上が期待できると考えています。

1台の端末で庁内LANシステムにも消防OAシステムにもセキュアかつロケーションフリーでログイン可能。2台の端末を使い分ける必要がなく、利便性も快適性も大幅に向上した

佐々木氏:消防OAシステムの操作が軽快になりました。消防OAシステムでは、過去の災害映像を用いた検証や地図を用いた活動分析、統計情報の帳票出力も可能なのですが、今までは動作が重く活用に四苦八苦しておりました。今回のシステムで消防OAシステムがより身近になり、職員各自のDX環境が整備されたことによる災害対応力の向上に期待しています。

 また、今回のシステム構築により、庁内LAN端末と消防OA端末を使い分ける必要がなくなったことから、業務のペーパーレス化、BPRにも期待できるものと考えます。

鶴石氏:次世代型シンクライアントの端末は全部で約600台です。庁内LAN端末、消防OA端末合わせて約800台ありましたから、物理端末自体は200台ほど減りましたが、実質的な稼働台数は増え、利便性も格段に向上しています。端末台数を集約できたので、保守管理の手間も軽減できました。

新たな技術を活用して自治体DXを加速していく

──今回のプロジェクトに関連したNECグループとしての強みを教えてください。

阿部:NECフィールディングは既存端末の手配や保守などを通じて、長年にわたり仙台市様をサポートしてきました。業務を深く理解し、どのような課題をお持ちかもよくわかっています。そのことがより良い提案につながったと考えています。

:仮想基盤、サーバ、ネットワーク、セキュリティといった複数の技術領域を横断し、提案から構築、保守まで包括的に支援できることはNECグループならではの強みです。

 庁内LANと消防OAシステムは別々の端末で運用するものという固定観念を持たれている自治体様は少なくありません。それを仮想的に統合し、性能も利便性も向上させることができる。今回のケースはそのことを示すことができました。実際、プレスリリースの閲覧数は予想以上に多く、関心の高さを実感しています。

 業種横断の先進的な知見と最先端テクノロジーを体系化した価値創造モデル「BluStellar(ブルーステラ)」を軸に、NECグループは今後も同様の悩みを持つ自治体様の課題解決に貢献していきます。

──今後のシステム強化・拡充の予定やDXへの取り組みについて教えてください。

濱道氏:端末の集約化で利便性が上がり、運用や管理も効率化できる。このメリットを活かし、より効率的な市民サービスを提供するため、DXの取り組みにチャレンジしていきます。

新田氏:そうした取り組みには他部署との連携が欠かせません。今後も関係部署と連携しながら新たなDXの取り組みを進めていきます。

佐々木氏:新技術としてAIに注目しています。通報内容を間違いなく認識し、迅速、確実な指令につなげる。オペレーターをサポートする業務にAIを活用できないか考えています。

:AIに関しては、救急通報をAIで受信・分析してコールトリアージするシステムの開発が進んでいます。仙台市消防局様をはじめ、多くの自治体様にご提案していきたいと思います。

鶴石氏:消防業務は即時性が何より大事です。現場の情報を素早く取りまとめ、報告・共有も迅速に行う。今回、その基盤を整備することができました。今後もさまざまな領域でDXを加速させ、消防・防災という社会基盤を支え続けていきます。