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モノリシックな巨大基幹システムをどう変革するか
キヤノンマーケティングジャパンのモダナイゼーション戦略に迫る

 長年の増改築を経て複雑化した基幹システムにおいて、ビジネスの変化に迅速に対応しDXを推進するためには、どのような対応が必要か。こうした状況に直面していたキヤノンマーケティングジャパンは、基幹システムの刷新を軸としたモダナイゼーションに踏み切った。その一環として、NECのBluStellarのアプローチのもとMicrosoft Azure(以下、Azure)をベースとしたクラウド共通基盤を構築。単なるクラウド移行にとどまらず、ITやそれを支える組織のあり方を見直し、インフラの柔軟性・拡張性・可用性を高めるとともに、開発やサービス提供のアジリティ向上を実現している。本プロジェクトは同社のモダナイゼーション戦略においてどのような意味を持つのか。キーパーソンに話を聞いた。

SPEAKER 話し手

キヤノンマーケティングジャパン株式会社

本間 悟氏

情報通信システム本部
基幹システム刷新部
基幹システム刷新第三課 課長

小林 賢人氏

情報通信システム本部
基幹システム刷新部
基幹システム刷新第三課 チーフ

NEC

北川 泰平

共通SIサービス事業部門
エンタープライズデジタル基盤統括部
ディレクター

越川 哲平

共通SIサービス事業部門
エンタープライズデジタル基盤統括部
プロフェッショナル

石塚 慎也

第一製造ソリューション統括部
第三インテグレーショングループ 主任

モノリシックな大規模システムを変革し、DXを加速させる

──キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)で推進されている既存システムのモダナイゼーションにおける背景や目的を教えてください。

本間氏(キヤノンMJ):近年はお客様のニーズが多様化し、より価値あるソリューションの提供が求められています。当グループはITソリューション事業に力を入れていますが、それを支える基幹システムの課題が顕在化していました。ビジネスの成長に伴い、これまでの基盤をさらに変化に柔軟に対応できるよう進化させる必要性が高まってきたのです。

 現行の基幹システムは約20年前に当社の業務に適合するようスクラッチ開発したシステムで、長年運用してきました。その間、事業の拡大や法令改正に対応するための改修を継続的に実施し、モノリシックな大規模システムへと成長していきました。

  • ※1 モノリシックなシステム:システムやアプリケーションのすべての機能が1つの大きなプログラムとして一体化して構築されているアーキテクチャのこと
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
情報通信システム本部
基幹システム刷新部
基幹システム刷新第三課 課長
本間 悟氏

小林氏(キヤノンMJ):基幹システムを支えるインフラ基盤も更なる進化が必要でした。本取り組み以前のクラウド環境は、クラウドシフトを実行し始めた時期に構築したもので、見直したいポイントが大きく2つありました。

 1つ目は、基盤全体の統制が効きにくい状況となっていた点です。クラウドの普及を第一と考えて展開したことで、標準化やルール整備が不十分な状態でシステム開発を行ったことがありました。より長期的な利用を見据えた環境として、ガバナンスを強化し統一された強固な基盤へと進化させたいと考えました。

 2つ目は、クラウドをオンプレミスの延長のように利用していた点です。ガイドラインの整備よりもクラウドの利用拡大が先行した結果、クラウドネイティブ化を十分に進められませんでした。そのため、クラウド本来のメリットを活かせる基盤を整えたいという思いがありました。

本間氏:DXを加速し、ビジネスの変化に迅速に対応するためには、社員が日々の業務で利用する基幹システムとそれを支えるインフラ基盤の変革が必要だと考え、利用中のクラウドを含む既存環境のモダナイゼーションに舵を切りました。

システムだけではない、“真のモダナイゼーション”の全貌

──今回のモダナイゼーションは、「脱レガシー」を目指した取り組みだったのでしょうか。

本間氏:単なる脱レガシーではなく、ITのあり方そのものを見直す取り組みです。

 既存のスクラッチシステムを、パッケージソフトウェアベースの新システムへ刷新し、変化への対応力を備えた疎結合な構造へ移行。同時に、全体最適と統制を前提としたクラウド共通基盤を新たに構築します。

 改革の対象はシステムだけではありません。「Fit to Standard」の考えに基づき、業務プロセスの見直しと標準化も進めています。

 クラウド共通基盤は、こうしたモダナイゼーションを支える重要な施策の1つです。システム全体を支えるインフラ基盤として、継続的にアップデートしながら利用し続けることを前提としています。

 パブリッククラウドならではの柔軟性、コスト最適化、開発・運用の省力化を評価し、基盤には既に業務系クラウドとして利用しているAzureを採用しました。Microsoft 365との親和性に加え、将来的な運用統合を見据えています。

小林氏:システムの開発・運用にかかわる人材や組織もモダナイゼーションの対象です。

 現在のシステム開発・運用体制は、オンプレミスで培ってきた強みを背景に、アプリケーション担当、インフラ基盤担当と役割を明確に分担しています。今後、クラウド活用をさらに推進するためには、それぞれの領域の垣根を越え、1つのチームとして連携していくことが重要です。

 そのため、現在進めている基幹システム刷新プロジェクトでは、これまでの開発体制を見直し、アプリケーションからインフラまでを同じチームが一貫して担う体制へと変更しています。人材育成は本プロジェクトの重要な狙いの1つです。私たちが目指しているのは、特定領域だけでなくシステム全体を俯瞰し、最適な判断ができる人材を増やしていくことです。領域を超えて協力しながら価値を創出する、より高度で柔軟な開発文化を構築していきたいと考えています。

キヤノンマーケティングジャパン株式会社
情報通信システム本部
基幹システム刷新部
基幹システム刷新第三課 チーフ
小林 賢人氏

NEC自身が取り組んだプラットフォーム変革に共感

──今回のプロジェクトでNECをパートナーに選ばれた理由をお聞かせください。

本間氏:幅広い領域にわたって伴走してくれるパートナーを探しているとき、NECから社内事例を紹介してもらいました。単なる技術提案ではなく、モダナイゼーション全体の方向性を示す内容だった点が印象的でした。中でも次世代データプラットフォーム「One Data プラットフォーム」は我々が目指す方向性に非常に近いことを知り、共にプロジェクトを進めていくイメージを掴めたことが選定の決め手になりました。

 加えて顧客との共創実績が豊富で、その領域も幅広い。目指すゴールに向けて最適な全体像を一緒に描くことができると実感できました。

──NECはどのような提案を行ったのでしょうか。

北川(NEC):まず、我々のコンサルティング部門がエンタープライズ・アーキテクチャの将来像策定を支援しました。技術面に加え、NEC自身のIT組織統合などの事例も紹介しながら、将来のIT組織のあり方について議論を進めました。

 これに並行して進んでいた基幹システム刷新プロジェクトにおいて、刷新後のシステムを支えるクラウド共通基盤の提案と設計を行いました。

 クラウド共通基盤の構成には、NECの実践知を活かした、ハブ・アンド・スポーク型の「三階建て」構成を提案しました。ネットワークやセキュリティ、運用機能を共通機能として集約したハブ領域(一階)と、業務システムごとのスポーク領域(二階、三階)に分離し、セキュリティやガバナンスを全体で統制しつつ、各システムは柔軟に開発・運用できるようにしました。

NEC
共通SIサービス事業部門
エンタープライズデジタル基盤統括部
ディレクター
北川 泰平

──基幹システムやインフラ基盤は長期にわたって利用するものだからこそ、“今”の課題解決だけでなく、“将来”を見据えた視点も重要だったのではないでしょうか。

北川:もちろんです。「将来はこう変えたい」という要望も組み入れて、“成長していく”基盤づくりを考えました。いま必要なクラウドサービスだけでなく、将来使うであろうサービスやクラウドの成長も考慮して設計しています。

越川(NEC):進め方も工夫しました。キヤノンMJ様が設計・構築に主体的に関与することで、ユーザー視点を取り入れた最適な基盤づくりを目指しました。

 また、クラウドに関するスキルトランスファーも実施しました。設計・構築の段階から双方の知見を共有しあうことで、運用まで見据えた支援をしています。キヤノンMJ様が推進するクラウド戦略を担う「CCoE(Cloud Center of Excellence)」活動についても、スキルトランスファーや技術支援を通じて後押ししています。

NEC
共通SIサービス事業部門
エンタープライズデジタル基盤統括部
プロフェッショナル
越川 哲平

あえて特徴をつくり込まず、進化し続ける共通基盤へ

──今回のプロジェクトを進める中で、苦労された点や特に配慮された点があれば教えてください。

小林氏:Azureは200以上のサービスが提供されているため、想定以上に検討範囲が広く、設計・実装対象とするサービスの選定が非常に難しいと感じました。それぞれのサービスの目的や機能を正しく理解して採用する必要がある上に、コストや業務負荷、運用負荷といった観点など、単純な機能比較だけではない総合的な判断が求められる点も難しさの1つでした。

 そのような中で、NECには一般的なベストプラクティスの提示にとどまらず、これまでの実績や事例を踏まえた具体的な提案と伴走支援を提供いただきました。その結果、サービスへの理解を網羅的に深めることができ、自社の要件や将来像に適した基盤構成を選択できたと感じています。

越川:クラウド共通基盤上には、さまざまなシステムが収容されるため、基盤と個別システム双方のセキュリティを考慮する必要があります。1つのやり方では全部の業務やシステムに適用できず、時間をかけて検討を重ね、キヤノンMJ様とNECが一体となって最適解を模索していきました。

石塚(NEC):クラウド共通基盤で利用するデータベースについても、当初想定していたIaaS上の運用ではなく、運用性や拡張性を考慮して、当時新しく発表されたマネージドサービスを採用するのが最適と判断しました。当初の考えに固執せずベストな構成を選択することで、将来を見据えた柔軟性の高い基盤を実現することができたと考えています。

NEC
第一製造ソリューション統括部
第三インテグレーショングループ 主任
石塚 慎也

──今回構築されたクラウド共通基盤にはどのような特徴がありますか。また、現在の利用状況についても教えてください。

小林氏:従来の基盤は共通のサブスクリプション上に複数のアプリケーションを構成していましたが、クラウド共通基盤ではアプリケーションごとに分離するように設計し、統制と柔軟性を両立できる構造を実現しています。

 加えて、特定の用途に最適化した“特徴的な構成”をあえてつくり込まず、さまざまなユースケースに対応できるよう、汎用性の高い設計とした点もポイントです。

本間氏:この基盤の活用に向けては、段階的な展開を実行していきます。

 クラウド共通基盤上での本格的なシステム運用はこれからですが、その効果は既に現れています。特に、クラウド環境の払い出しにかかるリードタイムが大きく短縮されました。従来は最低でも数週間を要していた環境構築が、現在では承認を含めて3日以内で完了できるようになりました。

描いた“あるべき姿”に向けて、更なる変革に挑戦

──今回のプロジェクトを通じて、NECの対応をどのように評価されていますか。

本間氏:クラウド共通基盤の運用設計に入る前に、NECから、「現行システムの運用に加え、新基盤の運用が重なると負荷が高まり、将来のサイロ化の要因にもなりかねない。まずは現行システムの運用を整理し、統合できる作業は統合しましょう」とシステム運用全体を考慮した提案をいただきました。これは我々の目指す方向や課題を深く理解しているからこそできる提案だと感じ、強く印象に残っています。

小林氏:クラウド共通基盤の方向性や進め方で悩んでいるとき、NECの成功事例などをもとにアドバイスしてくれる“血の通った”対応は本当にありがたかったですね。

 今回のプロジェクトでは人材育成の目的から、若手メンバーをアサインしました。NECのサポートもあり、クラウドの基礎から設計・運用まで担える人材へと成長しました。また、技術面だけでなく意識面でも大きな変化が生まれ、自らこの基盤をつくり上げたという自覚を持って業務に取り組んでいます。

北川:NECのBluStellarが重視する企業変革の視点を踏まえ、キヤノンMJ様の環境やビジョンに照らして“あるべき姿”を提案しました。

 NECは、自社をゼロ番目の顧客(クライアント)として実証・実践する「クライアントゼロ」の考え方のもと、クラウド活用を進めています。その経験をリファレンスとして活用できるからこそ、実運用に根差した提案ができたと考えています。

──今後、NECとしてどのような支援を提供していく考えですか。

石塚:クラウドとはいえ、Azure上のシステムが増えると、運用負荷も上がっていきます。NECはAIを活用した運用効率化も支援しています。今後は人手に依存しない運用モデルへの転換も見据えながら、継続的な運用の効率化を支援していきたいと考えています。

北川:システム運用の現場は人材の高齢化や属人化が進み、多くの企業が作業負荷の増大とコストのバランスに悩んでいます。石塚が触れたように、キーになるのがAIです。クライアントゼロとして得たリファレンスを、キヤノンMJ様をはじめ多くの企業にご紹介していきたいと思います。

──最後にキヤノンMJ様の今後の展望をお聞かせください。

小林氏:クラウド共通基盤を活用し、モダナイゼーションを加速させていきます。加えて、クラウドネイティブ化を実現し、さらにはAIをはじめとする新しい技術を積極的に取り込むため、アプリケーションからインフラ基盤までの知見を併せ持つ人材の育成にも力を入れていきます。

本間氏:今回構築したクラウド共通基盤によって、新サービスや新技術を柔軟に活用できる環境が整いました。この基盤を土台として、“人と技術の力で明日を切り拓く”当グループのビジネスを力強く支え続けていきます。