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The Economist EVENTS
安全な都市~明日とその先の未来を見据えて~

Safe Cities Index 2021

 2021年に最新版が発表された「 Safe Cities Index(都市の安全性指数=以降SCI)(第四版)」は、ザ・エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が2015年以来、世界的な政策ベンチマーク・ツールとして継続的に実施してきた調査です。 SCI 2021では都市の安全性を、サイバーセキュリティ、医療・健康環境の安全性、インフラの安全性、個人の安全性、環境の安全性という5つのカテゴリーにまたがる、76指標を採用しています。版を重ねるごとに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)などの新たな課題を反映させ、調査内容を精緻化してきました。今年は、アフリカ、南北アメリカ、アジア太平洋、ヨーロッパ、中東の60都市を対象にしており、各都市の規模、地域、所得水準は様々です。

新たな時代の都市と安全性

 Covid-19は、人類の大半が都市に住むようになった2007年以降に初めて発生した世界的なパンデミックです。今回の危機は、都市のリソースに大きな負荷をもたらし、社会・テクノロジー分野のトレンドを加速させただけでなく、都市のレジリエンスという概念を大きく変えました。

 ザ・エコノミスト・グループは、COVID-19や環境問題が都市の安全性に及ぼす影響と、より持続可能性の高い都市の実現に向けた方策について検証するため、 KMD最高技術責任者(CTO)であるハンス・ヤヤティサ氏、UN-Habitat(国際連合人間居住計画) 都市レジリエンス・グローバル プログラム 統括責任者のエステバン・レオン氏、南デンマーク大学(SDU) 都市レジリエンス担当二コラ・トーリン教授らの専門家と意見交換を行いました。

左から
国際連合人間居住計画(国連ハビタット) シティ・レジリエンス・グローバル・プログラム代表 エステバン レオン 氏
南デンマーク大学 都市レジリエンス教授 ニコラ・トーリン 氏
The Economist Intelligence Unit シニアコンサルタント プラティマ・シン 氏
KMD CTO ハンス・ヤヤティサ
The Economist Intelligence Unit シニアエディター 近藤 奈香 氏

グローバルな課題とテクノロジーと柔軟性の重要性

 グローバルな課題に対応するため、政府に今求められているのは柔軟な対応能力、そして様々な脅威を想定し、複雑かつ関連性の高い都市システム全体を視野に入れた包括的アプローチです。今回のパネルディスカッションでは、SCI 2021で総合ランキング1位となったコペンハーゲンを例として取り上げ、特に昨年のCOVID-19危機対応において成功の鍵となる要因を検証しました。

 コペンハーゲンによるCOVID-19危機・気候変動への対応で重要な鍵となったのは、テクノロジーの効果的活用です。世界の都市が現在直面する様々な脅威へ対応するためには、政府・市民社会・企業との協力関係が不可欠となります。そして連携を通じた取り組みを進める上で、データや専門知識の共有は極めて重要です。 

 デンマークは、国連が隔年で発表する世界電子政府ランキングの2018年・2020年版で1位に選ばれており、 COVID-19危機の発生後、COVID-19禍の行動や状況についてデジタル広報サービスを使用し、全市民へ情報提供し続けました。医療環境については遠隔医療の拡大を実施、COVID-19対応だけでなく、薬物・アルコール中毒などの社会的問題にも発展させました。また、「My Health」という医療アプリが改良され、国民はCOVID-19の抗原検査結果を受け取ったり、ワクチン接種を受けたことを証明したりできるようになったほか、ユーザーインターフェースの改善によって、国民がより簡単に操作できるようになりました。トーリン氏は、COVID-19の感染拡大の監視にデータが活用されているのは、市民社会と行政の間に信頼関係があるからだと述べています。

 都市のデジタル化に伴い、サイバーセキュリティはより重要になってきています。効果的なサイバーセキュリティ体制の構築には、データ・ネットワークの保護とユーザーの利便性を両立させることが不可欠です。ITスキルが必ずしも高くない高齢者や障害者にとって、後者は特に重要となります。デンマークでは、パンデミックの中でもオンライン上で公共サービスを利用できるよう、自治体が市民に研修サービスを提供しました。またコペンハーゲンは、縦割り行政の解消と医療データの効率的共有に向け、ITシステムの統合を進めています。

 公共セクターにおけるデジタル化の推進は必ずしも容易ではありません。しかし、KMDのハンス・ヤヤティサ氏は、デジタル化は現在のような危機下で「都市・国の対応能力を大きく左右する要因となる。」と指摘します。また、南デンマーク大学の二コラ・トーリン氏によると、コペンハーゲンでは緑地の多いオープンな公共スペース、近隣住民の強い結束力、優れた公共サービス、無料の医療・社会サービス、市民社会への高い信頼など様々な要因がプラスに働きました。また民族的マイノリティやホームレスなど、社会的弱者への支援も継続的に行われたと述べています。

科学的根拠に基づく意思決定

 さらに、気候変動などのグローバルな環境問題の克服には、データが極めて重要な役割を果たします。例えばコペンハーゲンは、公共施設の電気・熱・水道使用量の測定にテクノロジーを活用し、利用傾向を把握することで、消費量削減と効率化につなげています。 国連ハビタットのエステバン・レオン氏は、こうした取り組みを実現するためには、データの活用を通じた政治レベルの“科学的根拠に基づく意思決定”が不可欠だと述べます。

 新興国の都市の多くは、データの収集・活用に必要なスキル・テクノロジーを先進国都市ほど備えていません。しかしコペンハーゲンをはじめとする先進都市がデータやベストプラクティス、ノウハウを(特に発展途上国の都市と)共有すれば、課題の克服につながると思われます。

 また中央政府・市民社会・民間セクターによる法規制・リソース・体制面の支援も大きな役割を果たしています。トーリン氏が指摘するように、「連携を通じた取り組みと責任分担は」都市の安全性強化に欠かせない要因なのです。

新たなアプローチの必要性

 COVID-19や環境問題など世界が現在直面する多くの問題は地球規模でありながら、ローカルな対応を必要とする特徴を持っています。こうした深刻な脅威への対応には、新たな思考とアプローチが不可欠です。超国家組織・国・地域・自治体がコミュニケーションと連携を効果的に推進し、環境の変化へ柔軟に対応することが求められています。またトーリン氏は、世界の消費・製造のあり方を抜本的に変える必要があると指摘しています。

 協力体制の推進と同様に重要となるのは、システム思考の考え方です。 複雑な都市システムは相互に関連しており、「様々な形の脅威に対し、複数の組織・ステークホルダーが関与するというアプローチが必要だ」と レオン氏は指摘します。そして「COVID-19」といった差し迫る危機対応に追われ、より長期的かつ本質的に重要な課題を見失うことがあってはならない」と述べました。

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ザ・エコノミスト・イベント(The Economist Events)は、The Economist の発行元であるザ・エコノミスト・グループ(The Economist Group)の一部門です。正確な情報に基づき、一貫性の高い独自の視点を提供するというThe Economist の理念を共有し、産業フォーラム、エグゼクティブ・ミーティング、政府との円卓会議など、インタラクティブ性の高いイベントを世界各国で企画・運営。戦略的な重要問題について質の高い知見を求める企業リーダーの高い評価を確立しています。

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