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2021年03月08日

日本の課題を強みに変えるBeyond MaaS
~MaaS×異業種は日本の価値観をどう変えるのか?

 モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)が世界的に広がり始めている。日本でも地域活性化や交通課題を解決する手段の1つとしてMaaSが注目され、多くの実証実験が進められている。JR東日本での経歴を生かし、MaaSのプラットフォーム開発などを行うMaaS Tech Japanを立ち上げた日高洋祐氏は、2020年3月に共著『Beyond MaaS 日本から始まる新モビリティ革命』を上梓。MaaSに留まらず、モビリティ産業と異業種の連携によって幅広いビジネスを創出する「Beyond MaaS」を提唱する。Beyond MaaSは人口減少や高齢化といった日本の課題を乗りこえつつ、生活を豊かにできると語る日高氏にその世界観や日本人へのメッセージを聞いた。

多様なモビリティサービスを統合し1つのサービスとして自由に利用

 ──既にMaaSの取り組みはさまざまに広がっていますが、改めてMaaSとはどういったものなのか、教えていただけないでしょうか?

 MaaSは多様なモビリティサービスを統合して利用者が「1つのサービス」として自由に利用できることを言います。モビリティサービスとは鉄道、バス、タクシー、航空、自動車、自転車など移動に関する乗り物すべてを指します。一部、ライドシェアやオンデマンド交通をMaaSと呼ぶ人もいますが、それらはモビリティサービスの1つです。

 「アズ・ア・サービス」とは分割化されたサービスを仮想的に統合して1つとみなす考え方ですが、これにより利用者は簡単に最適な移動行動が可能となります。さまざまなモビリティサービスがデジタル化されることで、既存の事業も新しい価値を生み出すようになります。

 ビジネスの観点から考えると、従来の製品販売はメーカーが作って売り切って終わりのため、売上がKPI(重要業績評価指標)になっていました。しかし、アズ・ア・サービス化になると、所有権は事業者側にあるままで、サービスが顧客に提供されます。契約形態や顧客接点も異なり、顧客の手元にサービスが届いたところからビジネスがスタートし、いかに長く使ってもらうか、顧客生涯価値(LTV)がKPIとなります。長く契約が続くため、どのような顧客がどのように使ったのかビッグデータとして蓄積することも可能で、それを元にサービスの改善や開発につなげることができます。電気自動車のテスラ社のモデルと同じですね。

 次に技術の観点からアズ・ア・サービスを考えると、ユーザー自身およびユーザー群の「移動したい」というニーズに対して、それを実現するモビリティというリソースを一元的に統合、AIなどテクノロジーを活用して最適化し、配分するようになります。

MaaS Tech Japan代表
日高 洋祐氏
東京工業大学総合理工学部卒業後、2005年にJR東日本に入社。ICTを活用したスマートフォンアプリの開発や公共交通連携プロジェクト、モビリティ戦略策定などの業務に従事。2018年、MaaS Tech Japanを創業。MaaSプラットフォーム事業を手掛け、国内外のMaaSプレーヤーと積極的に交流し、日本国内での価値あるMaaSの実現を目指す

移動コストが安くなれば買い物などの行動も変わる

 ──さらに、「Beyond MaaS」となると、どのようにMaaSから変わってくるのでしょうか?

 Beyond MaaSはMaaSをインフラとしてさまざまなビジネスやサービスが花開く次の段階になります。

 現在のMaaSはインターネットの黎明期と似たような段階にあります。昔の通信インフラは使った分だけお金のかかる従量制でしたが、現在は定額制や無料など安価になり、Googleやアマゾンといったさまざまなサービスが花開きました。交通インフラは現在、鉄道もタクシーも距離や時間によって料金が増える従量制です。しかし、MaaSになると定額制であるサブスクリプションモデルの導入が可能になります。移動する度に料金を支払うのではなく、1回支払えば何回移動しても料金は同じということになります。ユーザーからすると移動に対するコスト感がなくなり、人と物が移動しやすくなる。その結果、物流、都市づくり、働き方などに影響を与え、新たなサービスが生まれてきます。

Beyond MaaSの可能性
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Beyond MaaSの可能性
インターネット黎明期から起きたことは、MaaSの世界でも起きると日高氏は予測する

 JR東日本企画が2019年に実施した「交通機関の定額乗り放題」に関するアンケート調査では、定額制によって移動の頻度と移動の範囲が広がる可能性が見えてきました。例えば、ショッピングに行く際に重視する要素として、従来は「近さ(アクセス)」が1位でしたが、乗り放題になると「品揃え・店舗数」が1位になったのです。つまり、少し離れていても品揃えのいい店や好きな場所・店に行くようになるということです。

 電子政府先進国として知られるエストニアでは2013年に公共交通の無料化に踏み切りました。世界的な経済危機の影響で同国のGDPが20%近くも下落したことがきっかけでした。公共交通の運賃が重荷になって郊外に住む人が街中へ買い物に出掛けなくなり、消費が落ちたのです。無料化したところ、街への人出が増え、消費が回復しました。

 Googleが行った無料送迎タクシーの事例も参考になります。これは、スマートフォンで「ランチを注文したお客様は前菜50%引き」というeクーポンを発行し、併せて無料送迎タクシーサービスも付加しました。クリックするとGoogle社が手配したタクシーがユーザーのところまで出向いてレストランへ利用者を送り届ける仕組みです。席が埋まらず困っているレストランと利用者のいないタクシーをプラットフォーム上でマッチングさせ、移動を無料にしたことで遊休資産を活用し、新たな価値を生み出したわけです。

 もう1つの事例はサンフランシスコ市郊外にある集合住宅の「パークマーセード」です。近くにはバスとトラムの停留所がありますが、建物には駐車場がありません。実は不動産会社がUberと提携して、「カー・フリー・リビング」(自動車を持たない生活)を提案しています。住人に毎月100ドルの交通費補助を行います。住人は公共交通の他、Uberを使って配車サービスを利用することもできます。サンフランシスコ市は渋滞に悩んでおり、その解消に役立つだけでなく、不動産会社も駐車場用地を確保しないですみ、住人は100ドルまで自由に交通を利用できるなど三方得の結果を生みました。

不動産×MaaSの事例
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不動産×MaaSの事例
不動産×MaaSは相性が良いという日高氏。日本での立ち上がりが期待される

 このようにMaaSをインフラとして活用することで、社会課題を解決しながら、新しい事業やサービスが生まれてくる。これがBeyond MaaSの世界です。

人口減少と高齢化による社会課題を解決しながらビジネスを生み出す

 ──世界を見渡した時に、MaaSが進展する際に日本ならではの特徴はあるのでしょうか?

 海外と大きく違うのは公共交通インフラの発展の仕方です。日本では民間が中心となり、鉄道などを全国に整備、利益を再投資することで発展してきました。海外では公営が中心です。日本は民営のおかげでこれだけ全国に鉄道が敷かれ、研究開発も進んで、新幹線を輸出できるようになりました。

 しかし、その好循環は人口増加を前提としたものです。現在のように人口縮小の時代を迎えると、モビリティ・マーケットも縮小する。ただし、それはモビリティ単体の話であって、MaaSを導入すると、いろいろなモビリティ事業者が連携して地域を支えることになります。人口縮小という変化に対してMaaSが調整弁になり得るのです。

 特に人口減少と高齢化の影響が大きい地方では、公共交通をめぐる課題を解決しながら、Beyond MaaSで新しいビジネスが生まれ、投資が進みやすくなります。つまり、日本の弱点をBeyond MaaSで強みに変えることができます。

 通信網と同じようにMaaSのインフラを全国に広げ、その上に民間事業者が地域課題解決型のMaaSを展開、さらにスタートアップがBeyond MaaSで参入すると、多彩なサービスやビジネスが生まれます。日本は全国に鉄道が整備されているからこそやりやすいし、取り組まないと生き残ることはできません。日本政府は、そのことを理解し、社会のデジタル化を目指すコンセプト「Society5.0」の中で交通の課題解決を取り上げ、総務省や国土交通省、経済産業省などが連携して政策立案を進めています。

 さらに、重要なことは自動運転技術とMaaSがセットになるということ。日本の大手自動車メーカーは自動運転に取り組んでいますが、今後自動車は自家用車からサービスカーになるでしょう。つまり、個人が自動車を所有する形態は減り、必要に応じて自動運転の自動車が行きたいところに運んでくれるようになることが想定されます。MaaSがインフラ化されないと自動運転も普及しないでしょう。

 私は以前、JR東日本に勤務しており、独立していまのスタートアップを起業しました。私は今後のMaaSやBeyond MaaSのために思い切った青写真を描くのはスタートアップの役割だと思っています。将来こんなことを実現したいと夢を描いて走るのはスタートアップであり、大手企業の皆さまと一緒にビジネスを展開するようになればいいと思っています。

 コロナ禍で世界は混乱していますが、冷静に見れば生活様式が変わって、人の移動も交通のあり方も変化せざるを得ない。いまこそMaaSとBeyond MaaSでピンチをチャンスに変えなければいけないと思っています。

Beyond MaaSを実現するためにはあらゆる業種からの参入が必要

 ──いま注目されているBeyond MaaSの事例はございますか。

 1つは、群馬県太田市にある「太田デイトレセンター」(運営:エムダブルエス日高)の取り組みに注目しています。ここは要介護者用のデイサービス施設になるのですが、1日当たり100人を超える利用者がかなり遠方からも集まるため、送迎サービスも労力とコストがかかっていました。そこで、AIを活用した独自の送迎配車システムを開発。効率的に送迎することで必要な車両台数を減らすことができました。さらにオンデマンド型乗り合い交通サービスも開始し、買い物や外食、病院などへの移動を支援しています。モビリティを活用して高齢者の生活を支え、事業として維持している点を高く評価しています。

 スタートアップのMellow(メロウ)は、東京を中心に空きスペースを有効活用したいオフィスビルなどのオーナーと、フードトラックをマッチングする「TLUNCH(トランチ)」というサービスを展開し、急成長しています。これまで飲食店の出店にはコストがかかりましたが、フードトラックなら初期費用を抑えられます。飲食だけでなくリラクゼーションやネイルサロンなどのサービスへも展開でき、プロの力をモビリティサービスで解放した点が面白いと思います。

 今後、日本がBeyond MaaSの世界でトップランナーになることも可能です。そのためにはまずMaaSのインフラ基盤整備が第一です。モビリティの事業者同士が連携してデータとサービスを統合するための基盤です。Beyond MaaSはその上に乗るもの。したがって、インフラをいかに安価に手間を掛けずに構築するかが大切です。当社では現在、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援なども受けながらMaaSデータ統合基盤を開発・提供しています。これを多くの事業者の共有基盤として使ってもらいたいと思っています。基盤構築はビジネスではなく、今後その上で価値を生み出す共通財産だと考えています。

 Beyond MaaSはあらゆる業種からの参入が必要であり、小売、飲食、ファッション、物流、不動産などいろいろな人たちと一緒に進めていきたいと思っています。

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