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DXを加速させるために、企業の壁を超えてゆく
――物流×モビリティの変革に必要な次世代プラットフォームの姿とは

 人もモノもデータも激しく動く時代において、サステナブルなサプライチェーンの構築は数多の社会課題ともつながっている。ドライバー不足や大幅な需要変動への対応が求められると同時に、モビリティの進化やDXへの期待が高まるなかで、サプライチェーンの未来はいかなるものになっていくのだろうか。NEC Visionary Weekで開かれたセッション「物流×モビリティ×DXが描く、新しい未来像とは」では、サプライチェーンを支えるプラットフォームと物流×モビリティの未来をめぐる議論が交わされた。

どこから「プラットフォーム」をつくるのか

 「このセッションがテーマとする物流×モビリティ×DXの未来を考えるうえでは、3つをつなぐプラットフォームが重要な要素のひとつといえます。各業界でさまざまなプラットフォームが生まれていくなかで、どのような形で協調・共創を進めていくのかまずはお話を伺っていきたいと思います」

 本セッションは、モデレーターを務めるローランド・ベルガー パートナーの小野塚 征志氏による「プラットフォーム」をめぐる問いかけからスタートした。あらゆる業界でプラットフォームのありようが模索されている現在、物流・モビリティの最前線に立つ登壇者たちはいかにして変革に取り組もうとしているのだろうか。

 「私たち日本通運はNECさんをはじめ各企業とプラットフォームづくりの取り組みを進めていますが、ポイントが2つあります。サプライチェーンマネジメントを最適化することと、いくつもの企業が協力していくことです。データやシステムの基盤づくりにおいては、新しいビジネス領域を補完いただけるパートナー企業の存在が非常に重要だと感じています」

日本通運
ロジスティクスエンジニアリング戦略室長
高橋 啓 氏

 そう語るのは、日本通運 ロジスティクスエンジニアリング戦略室長の高橋 啓氏だ。同社は以前から自動運転やAGF(Automated Guided Forklift)といった先端技術の普及を見据え、5GやIoTを活用し業務の効率化を進めるとともに、官民標準化懇談会に参加するなどプラットフォームの構築を通じた標準化にも取り組んでいるという。

日本通運では多面的にDXの取り組みが進められている

 トラックやバスなど電動商用モビリティの最適稼働マネジメント事業に取り組むCUBE-LINX 代表取締役社長・桐明 幹氏も、高橋氏の発言を受け「サプライチェーンの可視化は重要です」と頷く。

 「サプライチェーンの可視化を通じてモノと人とモビリティがどう動いていくか予測できると、エネルギー使用量も把握できるようになるはずです。エネルギーのニーズを反映することで動き方も最適化できますし、サプライチェーンとエネルギーチェーンの融合を実現させたいですね」

CUBE-LINX
代表取締役社長
桐明 幹 氏

 二人が語るサプライチェーンの変革を実現するうえで、DXは必要不可欠だ。小野塚氏は「いくつものサプライチェーンをつなぐためには、データをオープン化・パブリック化して協調できる仕組みづくりが必要なのではないでしょうか」と指摘する。単に企業をつなげればシステムやデータもつながるわけではないということだろう。NEC 交通・物流ソリューション事業部 ソリューション推進部長 武藤 裕美は次のように語る。

 「企業間をつなぐ仕組みをつくる際に欠かせないのが“安全・安心”だと考えています。同じ目的の下で安心しながらデータを共有できなければ、データ活用は難しいでしょう。アナログな環境からどうデータを取り出し活用していけるのか、それぞれの立場に合わせてフォローアップしていく必要もあります」

NEC
交通・物流ソリューション事業部
ソリューション推進部長
武藤 裕美

共通基盤をつくるまでのハードル

 企業間の壁を超えたデータの共有は、どうすれば可能なのか。高橋氏はきちんとデータの種類を区別しながら共通基盤となるプラットフォームを整備していくことが重要なのだと語る。

 「商流と物流、どちらにおいても協調領域と競争領域を分けて考えなければいけません。たとえば在庫情報や取引情報、店舗情報は秘匿性が高く、販売会社と卸会社の間でデータが共有されないことも少なくない。物流においても、これからはお互いに他社のアセットも活用しながら効率的な運用を目指す必要がある。協調領域を拡大するためには、情報をオープンにするプラットフォームが必要ですし、データの標準化も進めなければいけません」

 高橋氏によれば、データの標準化やAPIの拡充はNECのようなICTベンダーが果たす役割も大きいが、同時に行政との連携も重要となるという。日本通運もSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)という内閣府主導のプロジェクトに参画しているが、業界の垣根を超えた共通基盤をつくるうえでは、行政だからこそ変えられることも少なくないはずだ。

ローランド・ベルガー
パートナー
小野塚 征志 氏

 小野塚氏が「物流においては共同配送が重要になりますね」と指摘するとおり、今後はトラックや物流センターを複数の企業がシェアすることが増えていくだろう。同時にトラックのEV化も進んでいくとすれば、充電ステーションも含めたモビリティの環境もネットワーク化する必要があるのかもしれない。

 「各社のモビリティ内部にある制御用の情報などは秘匿性が高いため、現時点では共有して活用できないことも事実です。ある程度基本的なレベルの情報だけでもサービサーが活用できるような仕組みがつくれると、新たなサービスが生まれやすくなり、物流サービス全体がより便利なものになっていくと思っています」

 そう桐明氏が語るように、物流においてもモビリティにおいても、共通基盤をつくるためにはさまざまなハードルを超えていかなければならない。他方で、カーボンニュートラルを目指す必要性やドライバー不足の深刻化など、社会課題を解決するためにも企業の協調は必要不可欠なものとなっている。

 高橋氏も「当社もサプライチェーンの最適化を通じてCO2の排出量を可視化できる仕組みを検討しています」と語るが、同時に、サプライチェーンに関わる他の企業の協力がなければカーボンニュートラルは達成できないと続ける。小野塚氏が高橋氏の発言を受けて「特にCO2排出量の可視化はDXとのつながりが強そうです」と指摘すると、武藤はNECの果たせる役割について次のように語った。

 「NECは100年以上の歴史をもち、これまで大量のデータを扱いながら社会を支えるテクノロジーを提供し続けてきました。だからこそ、このデータの蓄積や経験を活かしながら、物流やモビリティ、メーカーなどさまざまな企業をつなぐ役割を担えると考えています」

 とくにこれからデジタルツインのような形で自動車とサイバー空間が膨大な量のデータをやりとりするようになれば、通信技術はもちろんのこと、データを取得するIoTや分析のためのAIなど様々なテクノロジーが求められるはずだ。長い歴史の中で技術やデータを蓄積してきたNECだからこそ、いくつもの企業をつなげる存在になれるのかもしれない。

CUBE-LINXはEVが主流になる時代に備え、あらゆるサポートのパッケージ化に取り組む

あらゆる壁を超えた共創の必要性

 「今日議論してきたような仕組みはたしかに便利ですが、いざ実現しようとすると進まないことが非常に多いですよね。物流業界に限らず、標準化や共通基盤の整備は総論賛成・各論反対に陥りやすいように思います」

 小野塚氏がそう指摘するように、データの共有やプラットフォームの整備の重要性は多くの企業が理解しているはずだ。「共有できないデータとできるデータがあり、共有できるもののなかにも匿名化が必要なものがある。うまく管理してデータ基盤を構築しなければいけません」と小野塚氏は続ける。一口に「標準化」「共有」「共通基盤」といっても、データやシステムを捉える解像度を上げなければ複数の企業が足並みを揃えることは難しいのだろう。

 こうした状況を改善すべく、高橋氏は「ステップバイステップで標準化を進めていくつもりです」と語る。日本通運も参加している「官民物流標準化懇談会」や「日本物流団体連合会」で行われている議論でも、輸送機材などの標準化については、まずはパレットから取組みを始めているという。「分野を絞り込みながら、徐々に進めていくつもりです。こうしたときに行政からのインセンティブや支援があると進みやすいなと感じています」

 高橋氏によれば、物流業界全体を見ればまだ標準化の取り組みはキックオフしたばかりであり、共通化や共同化はほとんど進んでいない状況にある。標準化自体は数十年前から業界内部で議論が行われていたと高橋氏は続けるが、IoTや5Gといったテクノロジーの発展によって、ついに現実的なアクションがとれる状態になったといえるのかもしれない。

 「標準化やプラットフォームの議論と同時に、マーケット側の受容性を広げることも重要だと感じます。しばしば日本ではサービスを享受する消費者の目が厳しく、変化を受け入れてもらいにくい側面もある気がしています。単に企業がテクノロジーを開発することだけではなく、あらゆる人々の日々の行動や態度もDXの推進につながっているのではないでしょうか」

 そう桐明氏は語り、DXとはテクノロジーだけの問題ではないのだと指摘する。ひとつの企業だけでは課題を解決できず、物流やモビリティ、ICTなど業界を超えて企業が共創していく必要がある現代においては、既存の価値観や慣習も変えていかねばならないのだろう。高橋氏も「もはや一社だけでは解決できない課題がたくさんあります。業界を超えた企業同士の合意形成と協力は今後必要不可欠になっていくのだと思います」と桐明氏に同意する。

NECはValue Chain Innovationを通じてロジスティクスとモビリティに変革を起こそうとしている

 「データの標準化やプラットフォームの整備を通じて、NECはすべての人々と産業が公平にモノ・サービスを享受できる社会をつくりたいと考えています。もちろんこれはNECだけで実現できるものではなく、業界を超えた共創を進めていかなければいけません。私たちが企業同士をつなぐ役割を担いながら、 “当たり前”の仕組みを創っていきたいと思います」

 そう武藤は語り、本セッションを締めくくった。業界を問わず企業が共創すること、官民の垣根を超えて協力していくこと――NECが物流やモビリティのDXを通じて創りだそうとする“当たり前”は、未来の社会を支える基盤となっていくはずだ。