ここから本文です。

2020年09月01日

コニカミノルタはいかにして「AI導入の壁」を克服したのか?

 デジタル変革の中核施策としてAI活用に取り組む企業が増えている。だが、AIの現場適用に当たっては、克服すべきさまざまな課題があるのも事実だ。コニカミノルタは「課題提起型デジタルカンパニー」へと変革を遂げるべく、全社を挙げてデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進。同社グローバルサプライチェーンの司令塔であるSCM部の主導のもと、AIによるビジネス価値創出を具現化しつつある。同社はどのような壁を、どう克服したのか。「NEC iEXPO Digital 2020」にも登壇したキーパーソン2名に話を聞いた。

グローバルの各拠点を回り、AI導入の合意形成に奔走

──コニカミノルタは、2018年1月からNECと共にAI活用の検討会を行い、欧州の需要予測業務にAIを活用することを決定しました。その後、導入に向けてPoC(概念実証)を実施したわけですが、このプロセスでの取り組みについて教えてください。

神田氏:
 まず、PoCに先立って、いくつかやるべきことがありました。1つはデータを集めることですが、当社は以前からSCMデータの整備に取り組んでいたため、ここにはさほど時間はかかりませんでした。より時間をかけたのが、ステークホルダーとの合意形成です。

 そもそもAI導入には多くの費用がかかるため、経営層やグローバルの販社、SCM部の各メンバーなど、多くの人々の理解と合意を得る必要があります。このため私と棚村は、経営幹部への説明やさまざまな会議への参加、欧州への出張を繰り返しながら、導入メリットや投資対効果を対面で詳しく説明してまわりました。

 特に印象に残っているのは、当社のグローバルSCM会議です。これは海外のSCM部門のマネジメントが一堂に会する年1回の定例会議ですが、昨年は偶然、同じ日に「NEC the WISE Summit 2019」が開催されていたのです。そこで、グローバルSCM会議で私が「これからAIを使った需要予測を始める」と宣言した後、出席者のほぼ全員でNEC the WISE Summit 2019に参加し、NECの技術や取り組みを確認しました。

コニカミノルタ株式会社 SCM部 部長 神田 烈氏
コニカミノルタ株式会社
SCM部
部長
神田 烈氏

 あの日に実際に見て、体験してもらったことで、AI活用への理解をさらに深められたと思います。また、幸い、コニカミノルタには「何事も挑戦だ」という風土があり、経営層もDXに向けた意識を強く持っているため、AI需給予測の話も大きな反発にあうことはありませんでした。

技術の評価に加え、現場業務にフィットするかの精査が重要

──その後、半年間にわたるPoCでは、どのような検証を行ったのですか。

神田氏:
 「技術」と「業務適用性」の2つの面で検証しました。まず技術の面では、「AIが高精度な需要予測を行えるかどうか」の検証を行いました。これについては目標を上回る精度の予測ができ、NECの技術力の高さを感じました。

 そして、もう1つの業務適用性の面では、その技術が現場の業務できちんと効果を出せるかを検証しました。どんなに優れた技術も、現場の業務プロセスにフィットしなければ使えないからです。そこで、SCM業務の実際のプロセスにAIによる需要予測を組み込み、業務を回せるかどうかをテストしました。結果、事前のデータクレンジングや加工が必要なこと、スタッフの経験不足といった課題も見えましたが、「条件付きで組み込むことは可能」という結論に至りました。無事プロジェクトが継続できそうで、一安心したことを覚えています。

棚村氏:
 また、PoCでは「AIを使うと、よりきめ細かな需要予測ができる」ということもわかりました。例えば、AIは予測対象とする製品の特性や期間に応じて、異なる予測モデルを作成できます。そのため、「1~3カ月先はこのモデル」「4~6カ月先はこのモデル」という具合に、予測対象期間で予測モデルを使い分けるだけでなく、予測対象製品の特性に応じて複数の需要予測パラメータを組み合わせて予測精度を高めることができるのです。人間の場合、工数や時間の制約から、1つのモデルをつくるのが精一杯です。これは大きな強みだと感じました。

 加えて、PoCをきっかけに社内の認知度も向上しました。社長や役員が、取り組みの内容を全体会議で取り上げてくれたのです。スタッフのモチベーションも上がり、より積極的にかかわってくれるようになりました。 これも、PoCを実施したメリットの1つといえます。

コニカミノルタ株式会社 SCM部 PSI管理グループ グループリーダー 棚村 愛氏
コニカミノルタ株式会社
SCM部
PSI管理グループ
グループリーダー
棚村 愛氏
図1:PoCフェーズにおける結果
図1:PoCフェーズにおける結果
画像を拡大する

データの加工作業は確かに大変だが、経験する意味はある

──一方、PoCで見えたデータのクレンジング・加工の課題や、人材教育については、どのように対応を進めているのでしょうか。

神田氏:
 欧州拠点から送られてくるデータは生データに近いものでした。そのため、これについては欧州側とデータ品質の改善・向上について継続的に協議を続けています。

 また、ある程度は整っている国内のデータについても、AIが求める形式/切り口に合わせて並べ直す作業は必要でした。これを加工作業と呼んでいますが、この部分は実際の運用では一部を自動化し、円滑に運用できるようにしています。

棚村氏:
 PoCでデータ加工を手作業で行うことにした理由は、自動化にはシステム投資が必要なためです。テストの段階で、最終的に必要になるか明確でないシステムに投資しても、本格導入時にムダになる可能性があります。PoCでは、この工程をNECに手伝ってもらっていたので、あまり気付かなかったのですが、その後の“自習期間”(図1の右下)でデータ加工の大変さと重要さを実感しました。

 ただ、加工作業を通じて、「どんなデータがどのように使われているのか」「なぜAIがそれを必要としているのか」を深く理解できました。もちろん、作業の効率化は引き続き検討しますが、AIの自律的な運用を目指すなら、一度は経験すべきことだと考えています。

不確かな時代にこそ、高精度なAIの需給予測が武器になる

──現在はAIの現場展開に着手しています。ただ、AI導入では、現場の反発にあうケースもあると聞きます。そうしたことはなかったのでしょうか。

棚村氏:
 確かに、「AIに仕事を奪われるのではないか」という不安を抱く人はいます。ですが実際は、担うロールや業務内容が変わるだけで、その人の役目がなくなることはありません。そこで、ここでもSCM部の人間が各拠点に赴き、「データの品質向上に向けてどのような業務手順が必要か」「AIによって浮いた時間で付加価値の高い仕事をするにはどうすべきか」などを丁寧に説明しました。

神田氏:
 AIと現場は敵対するものではなく、協働するものです。需要予測は本社側で集約・効率化して精度を上げる。一方の現場側は、それによって浮いた時間で、より多くの付加価値を生む業務を遂行する――。「より良いコニカミノルタのSCMを共に創り上げるために、ぜひ力を貸してほしい」というメッセージを、真摯に繰り返し伝えることで、理解を得られたと考えています。

──今後、AIの業務適用をどのように進めていく考えですか。

神田氏:
 まずは特定の製品群の需要予測にAIを適用する予定です。NEC独自のAI技術「異種混合学習技術」は根拠がわかるホワイトボックス型。このAIを搭載した「AAPF Solution Templates」(※コラム参照)の「製品需要予測テンプレート」を利用します。SCMのデータは弊社のS&OP(※)プロセスを通じて経営層にエスカレーションし、SCMにかかわる意思決定に使われるので、根拠がわかるホワイトボックス型であることは重要だと考えます。AIを活用しながら、予測業務の効率化、高度化を図っていければと思います。

※ S&OP:Sales and Operations Planningの略。経営者と生産、物流、販売、在庫、調達などの業務部門が情報を共有しつつ意思決定を速め、サプライチェーン全体を最適化する経営手法

「AAPF(NEC Advanced Analytics Platform) Solution Templates」とは

 NECのAIおよびデータサイエンスのベストプラクティスをまとめたテンプレート。業種・業務ごとの事例を基に整備された多彩な分析テンプレートを確認・利用することで、AI活用のノウハウを簡単に自社に取り入れることが可能だ。

画像を拡大する

神田氏:
 同時に、AI活用を加速するための人材育成も進めています。実はPoCを始めた当初、SCM部にはAIに精通した人材が皆無でした。そこで、若手や需要予測の経験者、ITリテラシーの高い人間など5名を投入し、NECのサポートを受けながら継続的な教育を行っています。

棚村氏:
 成果も出ており、5名の中には、それまで2日かかっていたデータ加工を2時間半でできるようになった人間もいます。現在はその社員が指導役になり、社内でノウハウを共有しています。NECのAIはホワイトボックス型のため、分析や計算の根拠が確認できます。この点も、社員の学びに良い効果をもたらしていると感じます。

──COVID-19がもたらしたサプライチェーンへの影響と、それに対してどのような対応をしたのか教えてください。

棚村氏:
 コニカミノルタの生産拠点、販売拠点および物流網は、グローバルで多岐にわたっています。それらを組み合わることで最適なサプライチェーンを構築するのですが、あるときまでは大丈夫だった組み合わせが急に駄目になったり、駄目だった組み合わせが急に最適になったりする状況が起こっていました。そこで当社は、拠点ごとに組み合わせを判断する体制から、本社に情報を集めて最適な決定をし、その情報を各拠点にリアルタイムでフィードバックする体制に移行しました。誰もが同じ情報や判断を基に業務を進められるようにすることで、影響を最小限に抑えるようにしています。

 また当初から、AIの需要予測プロジェクト以外に、業務プロセスを変える取り組みも同時並行で進めています。その際も、データを1カ所に集約して分析し、ノウハウを蓄積する手法で進めようと考えていました。COVID-19の感染拡大を受け、この業務側の変革も一層加速させていく計画です。

神田氏:
 今回のCOVID-19によって、未来の予測が非常に難しくなっていることは事実です。ただ我々としては、こうした状況だからこそ、各国の経済指標や稼働中の設備のIoTデータなど、一層多様なデータもAIに投入しながら、高精度なAI需給予測に基づくSCM最適化にチャレンジしていきたいと思います。

 AIの適用範囲を広げるとともに、プロセスの全社標準化を図る。そして最終的には、世界の拠点の需要予測業務を1カ所に集約し、コニカミノルタ独自のAIを育てる――。このロードマップに沿って、今後も取り組みを続けていきます。

「NEC iEXPO Digital 2020」をオンラインで開催

 2020年6~7月に計7日間、オンラインで行われた「NEC iEXPO Digital 2020」。「デジタルのチカラで、New Normalへ挑もう」というテーマで、全23セッションをライブ配信した。その中でコニカミノルタは、神田氏・棚村氏が登壇し、「AIの業務適用に向けたポイント ~コニカミノルタが推進する需要予測へのAI活用~」と題したセッションを実施。AI活用プロジェクトの進め方や、各ステージでの気付き・ヒントを紹介した。

関連キーワードで検索

さらに読む

この記事の評価


コメント


  • コメントへの返信は差し上げておりません。また、いただいたコメントはプロモーション等で活用させていただく場合がありますので、ご了承ください。
本文ここまで。
ページトップ