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空港から大行列が消える?
税関を変えるNECの新技術

 長時間のフライトを終えてやっと帰国のはずが、込み合う空港にうんざり。さらに疲れが増してしまった――。こんな体験をした人も多いのではないだろうか?だが、そのストレスから解放される日がついにやってきそうだ。カギを握るのが、今春以降に国内主要6空港の税関検査場で導入される「電子申告ゲート」だ。NECの顔認証技術を活用し、顔だけでスムーズな入国が可能になる。一体どういう仕組みなのか。昨年に先行運用が始まった成田空港第3ターミナルの様子をのぞいた。

SPEAKER 話し手

NEC

茂木 瑛梨子

第一官公ソリューション事業部

鳥居 聡

第一官公ソリューション事業部

神野 真理子

クリエイティブデザインセンター

山岡 和彦

クリエイティブデザインセンター

もう行列に並ばない

 「今まで並んでいたのがウソみたい」。海外旅行を終え、日本に帰国した会社員の男性(54)は税関手続きの際に驚きの声を上げた。

 税関手続きと言えば、これまでは携帯品を用紙に記入し、空港の税関職員に渡して審査を受ける必要があった。到着便が重なる時間帯には、検査場の前に長い行列ができることも珍しくない。

電子申告端末

 だが、男性が今回利用した「電子申告ゲート」ではその煩わしさが一切ない。携帯品の申告からゲート通過までをスムーズに行うことができる。仕組みは次の通りだ。

(1)スマホで簡単入力

 まず、スマホやタブレットに「税関申告アプリ」をダウンロード。案内に従って入力すると、携帯品の情報が含まれたQRコードを取得することができる。入力するタイミングや場所は自由。手荷物引き渡しレーンで預け入れ荷物を待つスキマ時間を活用して入力することも可能だ。

(2)専用端末に登録

 税関検査場に設置された専用端末に、(1)で作成したQRコードとパスポートを読み取らせる。同時に、端末に設置されたカメラが旅客の顔を撮影。パスポートのICチップに搭載された顔画像と照合し、本人確認が完了する。この間、わずか数秒。

(3)歩きながらゲート通過

 さぁ、出口ゲートへ。世界No.1の認証精度を持つ顔認証AIエンジン※が、(2)で撮影された顔画像とゲートに設置されたカメラで撮影した顔を照合して本人確認。出口ゲートに近づく人の顔を連続撮影しているため、立ち止まることなくスムーズに通過することができる。

  • 米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証技術の性能評価で5回目の第1位を獲得。https://jpn.nec.com/press/201910/20191003_01.html
  • NISTによる評価結果は米国政府による特定のシステム、製品、サービス、企業を推奨するものではありません。

次の旅もラクラク

電子申告ゲート

 さらに便利なのは、次の旅でもアプリで入力した情報を活用できることだ。氏名や旅券番号などの共通情報をそのまま利用できるため、入力の手間が最小限で済む。日本語のほか、英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語にも対応している。

 今春以降には、成田に加え、新千歳、羽田、中部、関西、福岡の国内6空港で導入される。政府は訪日外国人数を2020年に4000万人、30年に6000万人に増やすことを目指しており、玄関口となる空港ではますますの混雑が予想される。従来の申告方法も引き続き選択できるが、これを機に顔だけでスムーズな入国ができる電子申告ゲートをあなたも体験してみてはいかがだろうか。

「早い」喜びの声

 電子申告ゲートが成田空港第3ターミナルに導入されて約1年。空港の混雑解消に効果はあったのだろうか? また、どのようなコンセプトでデザインされたのか? 電子申告ゲートを開発したNECのシステムエンジニアや営業、デザイン担当者ら社員4人に聞いた。

 「これはすごい」。成田空港で運用が始まった昨年4月、電子申告ゲートを通過した旅客から上がる感嘆の声に、プロジェクトのコーディネーターを務めたNECの鳥居聡は安堵した。万一のトラブルに備えゲートの横で待機していたが、その時の嬉しさは言葉にできない。

 同社のシステムエンジニア・茂木瑛梨子もツイッターの反応を見守った。「圧倒的な早さ」「すぐに手続きが終わった」。次々と旅客から届く好意的な反応に思わず顔をほころばせた。

 成田での運用開始前、同社では300人前後の被験者を集めた大がかりなテストを行った。精度が高い分、繊細でもある顔認証技術。実際に導入する環境で精度が確保できるのか何度もチェックしたといい、「これまでの苦労が報われました」。茂木は喜びをかみしめる。

「お待たせしました」

 ──電子申告ゲートの肝となる顔認証技術ですが、特に優れている点は?

鳥居:やはり認証精度ですね。米国国立標準技術研究所(NIST)が実施した最新の顔認証技術のベンチマークテストで、1200万人分の静止画の認証エラー率0.5%という、他社を大きく引き離す第1位の性能評価を獲得しました。

 ──顔認証では具体的にどこを見ているのでしょうか?

鳥居:顔を含む画像の中から目の位置をもとに顔領域を特定し、目・鼻・口端などの顔の特徴点位置や濃淡変化の差を数値化し、統計学的に判断しています。

 ──マスクやサングラスを付けていても専用端末やゲートを通過できますか?

茂木:専用端末で顔を撮影する際、マスクやサングラスを身に着けたままでは警告が出て、顔認証ができない仕組みになっています。出口ゲートも同様で、身に着けている人には警告が出るため、通過することはできません。

 ──海外の空港でNECの顔認証技術の活用事例はありますか?

鳥居:米国では、ジョン・F・ケネディ国際空港で入国審査に活用されているほか、税関・国境取締局(CBP)が複数の空港で顔認証を使った出国審査、搭乗手続きの実証実験を行っています。

 ──今春以降、いよいよ国内6空港でも導入が始まります。

茂木:成田空港第3ターミナルに導入した時、他の空港でも使えないのかといった要望を旅客からいただきました。ようやく6空港で利用できるようになり、「お待たせしました」という心境です。一度使えば必ず便利さを実感していただけると思っています。

旅客にふさわしいデザインとは?

 「どうすれば旅客の気持ちに寄り添ったデザインになるのか」。開発当時、デザイン担当部門のディレクター・山岡和彦とプロダクトデザイナーの神野真理子は、頭を抱えていた。専用端末に設置するカメラの位置で難航。長旅で疲れた旅客に、いかにストレスを感じさせず顔の撮影や認証を実現してもらうかを重要視していたからだ。

 だが、理想のデザインにすると、顔認証の精度や利用者の身長の対応範囲に影響が出ることがわかった。解決策がなかなか見つからず、何度も議論と試行錯誤を重ねた。「まさに手探りでした」。

2019年度グッドデザイン・ベスト100に選ばれ、「iF DESIGN AWARD 2020」も受賞した電子申告ゲート

 そしてついに完成した電子申告ゲート。2019年度グッドデザイン・ベスト100に選ばれ、デザイン界のアカデミー賞とされるドイツの「iF DESIGN AWARD 2020」も受賞した。

 デバイスからサイネージまでトータルにデザインし、顔認証技術を生かした総合的なサービスデザインであることなどが高く評価された。山岡と神野は「新しい空港づくりの一翼を担えた」と手ごたえを感じている。

「空の樹々」をイメージ、やすらぎの空港へ

 ──デザインのコンセプトについてお聞かせください。

山岡:先進性と未来感のあるデザインを意識しました。フライトを終えて疲れた旅客に癒しを感じてもらおうと、専用端末は「空の樹々(Forest)」をイメージしたポールタイプのものとしました。出口ゲートは柔らかい雰囲気を出そうと丸みをつけ、ぬくもりや優しさを白色で表現しました。

神野:より多くの方に使っていただきたいと、専用端末をユニバーサルデザインに配慮した設計にしました。端末の高さを低いものと高いものに変更できるようにし、大人から子供まで、幅広い人に使ってもらいやすくしました。車いすの人は端末の下部に足が入るように、ポールに端末がぶら下がる形にすることですっきりとさせました。

 ──ほかに心がけた部分は?

神野:パスポートなどを専用端末のリーダーにかざしている間に、いつの間にか自然と顔の撮影が終わるようにしました。そのため、「今から撮影します」「フラッシュが発光します」などといった端末からの指示はありません。旅客がストレスを感じず、ゲートの先にいる家族や友人にすぐ会うことができればと願っています。

日本を変える「共通ID」

 顔認証技術の可能性は税関手続きにとどまらない。年間340万人が訪れる観光地・南紀白浜では、NECの顔認証技術を活用した地域活性化のための実証実験が行われている。

 ──白浜での取り組みについて教えてください。

山岡:空港に降り立った時のウエルカムメッセージに始まり、ホテルのキーレス入室、アミューズメント施設の入園、街中でのショッピングに至るまで、複数の施設のサービスを顔だけで、キャッシュレスで利用できます。白浜は美しい海が自慢のリゾート地。海に入る時には財布が邪魔になりますが、顔認証だとその心配もありません。

 ──電子申告ゲートや白浜での取り組みの先にNECが目指すものとは?

鳥居:NECは、生体認証を活用した共通のIDを通じて、複数の場所やサービスで顧客へ一貫した体験を提供する新しいコンセプトを「NEC I:Delight(アイディライト)」と称し、自分に合った体験を楽しむことができる世界の実現を目指しています。将来的には、白浜に限らず日本中のあらゆるサービスを顔認証によってつなげ、快適でスムーズな旅行体験を広げていきたいと考えています。NECが変えるこれからの日本にご期待ください。

 デバイスからサイネージまでトータルにデザインし、顔認証技術を生かした総合的なサービスデザインであることなどが高く評価された。山岡と神野は「新しい空港づくりの一翼を担えた」と手ごたえを感じている。

  • QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です。

電子申告ゲートを動画で疑似体験してみよう。

  • 2020年3月「47NEWS 地方紙と共同通信のよんななニュース」に掲載