空の未来に挑む!日本の有力企業トップが語る「空飛ぶクルマ」の最前線
渋滞で混雑する道を避け、空飛ぶクルマで目的地まで一飛び――。そんな世界がまもなく現実のものになろうとしている。空の市場の可能性は大きく、大手メーカーだけでなく、ベンチャーなども参入し、世界各国の企業が開発競争にしのぎを削る。そんな中、独自の存在感をみせるのが、国内発のベンチャーであるSkyDriveとテトラ・アビエーションだ。空飛ぶクルマはどんな未来を切り拓くのか。空のモビリティ革命の最前線を追う小池 良次氏が、両社の代表に話を聞いた。
空という3次元空間の移動に大きな可能性を見出す
小池氏:未来の乗り物と思われてきた「空飛ぶクルマ」の実用化が、いよいよ秒読み段階に入ってきました。日本でも2023年の事業化開始という目標が設定され、2025年には大阪・関西万博での実用化が検討されています。ここが1つのターニングポイントになるでしょう。まず両社が開発している空飛ぶクルマはどのようなものか教えてください。
福澤氏:SkyDriveは「100年に一度のモビリティ革命を牽引する」をミッションステートメントに2018年7月に設立したベンチャーです。当社が開発する空飛ぶクルマは、世界最小レベルでDoor to Doorの移動が可能なエアモビリティ。1人か2人乗りで、自動制御技術で簡単に運転できます。電動化と量産化で低コストを実現します。
空飛ぶクルマは魅力的なネーミングですが、クルマと銘打っているので、道を走るクルマが空を飛ぶととらえている人もいるのではないでしょうか。空飛ぶクルマは電動で、垂直離着陸が可能なモビリティのこと。電動なので低騒音です。クルマのような手軽さ・快適さで“空を走る”新しい乗り物です。
2018年には空飛ぶクルマとして日本で初めて屋外飛行許可を取得し、飛行試験を実施。公開有人飛行試験を行った際は世界112カ国で報道され、期待の大きさを実感しました。
2025年の大阪・関西万博では、会場内の移動手段として活用される見込みです。一般の方が空飛ぶクルマを体験できる初の大きな舞台になりそうです。
中井氏:テトラ・アビエーションもSkyDrive様とほぼ同時期の2018年6月に設立した企業です。30分で100km移動するという移動体験を目指し、一人乗りの空飛ぶクルマを開発しました。既に個人用市場向けに組み立てキットとして販売しています。米国で2021年7月から予約を開始し、既に成約実績もあります。
小池氏:未知の領域にチャレンジし、会社設立から3年ほどで実用化にメドをつけた。その“熱量”は大変なものだと思います。なぜ空飛ぶクルマを開発しようと思ったのですか。
中井氏:「とにかく早く移動したい」「行きたいところに気軽に行きたい」――そんな想いに応える乗り物を実現したいと思ったからです。速く目的地に着けば、それだけ情報の枠が広がる。移動の時間が減り、見たいものや会いたい人に会う機会がそれだけ多くなるでしょう。
福澤氏:空は陸路と違って3次元の移動ができるところが魅力です。低空の空域密度は余裕があり、可能性も大きい。そこにチャレンジしたいと思ったのがきっかけです。
小池氏:テトラ・アビエーションは日本のほか、米国にも活動拠点を置いていますね。
中井氏:研究・開発は日本で行い、米国での活動は主にマーケットリサーチがメインです。米国は大規模農場経営者が農薬散布や作物の生育管理に小型飛行機を使うので、もともと自作航空機市場が大きい。当社の機体も組み立てキット型なので、ニーズがあるところの方がリサーチしやすいからです。
米国で飛ぶために必要なFAA (米国連邦航空局)の認可を取得し、実験機協会(EAA)が主催する航空ショー「EAA エアベンチャー・オシュコシュ(EAA AirVenture Oshkosh)」にも出展しました。来場者の率直な感想や意見は非常に参考になりました。
遊覧・観光、災害支援、エアタクシーなど用途は多彩
小池氏:空飛ぶクルマはさまざまなユースケースが考えられます。どのようなビジネスモデルを描いているのですか。
福澤氏:SkyDriveの機体はコンパクトでビルの屋上でも離着陸が可能です。早く移動したい人が、日常的な移動手段として利用する。そういう用途を考えていますが、従来の航空機よりも低コスト化を実現したとはいえ、初期段階には個人所有で利用できる人は限られるでしょう。まずは遊覧飛行などのエンターテインメント利用、徒歩や車では移動が困難な災害現場での利用などを提案したい。
離島や無医村で急患が発生した際はドクターヘリが活躍しますが、ヘリコプターは高額で操縦には専任のパイロットも必要です。配備が難しい自治体もあるでしょう。発想を転換して、急患を運ぶのではなく、医者を現地に派遣する。空飛ぶクルマはそんな用途にも適しています。すぐ飛べるので早く着けるし、ヘリコプターほどコストもかかりません(写真1)。
中井氏:まず米国での市場を開拓していこうと考えています。先ほど申し上げたように、自作航空機市場があるからです。用途としては農場管理や個人が趣味で楽しむエンターテインメント利用を狙っています。
自家用飛行機がない米国の農場経営者は、農薬散布や作物管理のために、その都度、小型飛行機やヘリコプターをチャーターしています。しかし、それではコストがかかる。本当は1日に3回飛びたいのに、1回や2回に制限しなければならない。だったら、空飛ぶクルマを持った方が得だし便利です。ニーズはあるので、かなりの手応えを感じています。
近年は世界的に自然エネルギーの需要が高まり、その一環として洋上風力発電の大規模化が進んでいます。風力発電設備はどんどん沖合へと伸びているのです。陸から20kmも離れた設備もあり、メンテナンスのための移動が大変です。移動手段は船がメインですが、これに空飛ぶクルマを使えば、移動が格段に早く、楽になります。自然エネルギーの普及にもつながり、メリットも大きい。
もちろん、日本での販売も開始します。一般の人にも認知され普及が進めば、空のタクシー、いわゆるエアタクシーのような運航も可能になるでしょう。誰でも気軽に安く利用できる。いずれは日本でもそういう時代が来ると思います。
福澤氏:エアタクシーは当社も事業化を考えています。大阪・関西万博では会場内の移動のほか、会場となる夢洲と大阪港湾エリアを結ぶエアタクシーの実証実験を検討しています。将来的には神戸空港、関西空港との接続を目指します。東京都とも東京湾岸エリアの海上ルートの事業化を検討しています。
コンパクトさを活かした国産機体で新市場をつくる
小池氏:世界的にみると米国のJoby Aviation社やArcher Aviation社、ドイツのVolocopter GmbH社など欧米勢が航空機産業出身者による開発を進め、市場をけん引している印象です。日本勢が世界で闘い、彼らに勝てる勝算はありますか。
中井氏:欧米勢の機体は都市間を移動する長距離飛行や貨物の輸送を考え、比較的大型のものが多い。旅客・貨物輸送の新しい手段と考えているようです。その点、当社もSkyDriveもコンパクトさがウリ。飛行時間や航続距離は限られますが、離発着に広いスペースを必要とせず、短距離・少人数の移動に適しています。空飛ぶクルマというフィールドは同じでも、競技は別物という感じですね。なので、勝つ負けるということではなく、各マーケットで切磋琢磨してエアモビリティ業界を一緒に盛り上げていきたいと考えています。
福澤氏:私も同感です。現行の機種は重いものを運ぶ用途は考えていません。コンパクトで垂直離着陸可能なので、周辺にも迷惑をかけない。欧米勢とはそもそも狙っている市場が違います。日本勢の強みを活かし、新しい市場をつくっていきたい。
小池氏:なるほど、頼もしいですね。とはいえ、ベンチャービジネスでは資金を集めるのが大変ではないですか。
福澤氏:確かに簡単ではありません。米国はベンチャーでも上場すると、ものすごい資金が投資で集まってくる。ただ、当社が目指しているのは、コンパクトなエアモビリティなので、長距離・大量輸送を目指す機体ほど開発資金はかかりません。日本では賛同する企業から協賛金という形で資金提供を受けています。
中井氏:米国にも活動拠点があるので、おっしゃる通り、ベンチャービジネスに対する日米の文化の違いは実感しますね。提供している商品が市場に受け入れられる「プロダクトマーケットフィット」を実現すれば、潤沢な資金調達が可能になり、ビジネスをスケールしていけます。そこに期待を寄せています。
制度設計、地上インフラ整備を官民一体で目指すべき
小池氏:空を飛ぶとなると、気になるのが安全性です。飛行機は固定翼、ヘリコプターは回転翼で飛びます。機体の安全性を保証する型式証明は、これまでその構造に基づくデザインベース規制で審査されましたが、ドローンや空飛ぶクルマの普及を念頭に、日本でもこれがパフォーマンスベース規制に変更になりました。要は機体の構造や仕様、運航形態にかかわらず、安全性や環境適合性の基準を満たしているかどうかが問われるわけです。機体の安全性はどのように担保しているのですか。
中井氏:当社の機体は1基の推進プロペラと32基の離着陸ローターを持つため、鳥の衝突などによる破損故障が発生しても安全に離着陸が可能です。4基停止の離着陸でも安全性を実証済みです。制御系統も二重化されたフライトシステムで高い安全性を確保しています。
米国でFAAの認可は取得済みです。安全基準はもともと国をまたいで飛ぶ飛行機を基に策定されているので、国による違いはほとんどありません(写真2)。
福澤氏:何度も飛行試験を重ね、当社も安全性には自信を持っています。航空法に基づくパフォーマンスベース規制にも準拠しています。実用化に向け、まず日本で型式証明を取得し、その後、米国FAA、欧州航空安全機関(EASA)が発行する認可を取得していきます。
小池氏:今後の普及に向けた課題や要望はありますか。
福澤氏:飛行に関しては航空法に基づいての運航になります。飛行機と同じように管制塔がコントロールする形です。しかし、多くの空飛ぶクルマやドローンが運航されるようになったとき、どうするのか。離着陸場や電源チャージ設備などの地上インフラの整備も必要です。日本ではそのロードマップがまだ明確に定まっていません。官民一体となって、ロードマップの策定を急ぐべきだと思います。
中井氏:自治体の協力も欠かせません。当社は福島県南相馬市の協力を得て、福島ロボットテストフィールドの飛行試験場を活用しています。性能や安全性を確認する上で、飛行試験場はなくてはならないもので、大変感謝しています。開発のスピードアップにもつながりました。未来に向けたチャレンジを理解してくれる自治体と組む。これも大切なポイントだと思います。
小池氏:お話を伺って、空飛ぶクルマの大きな可能性を実感した一方、制度設計や地上インフラ整備などの課題があることもわかりました。官民一体の取り組みが普及・発展のカギといえそうですね。お二人とも引き続きチャレンジ精神を発揮し、新市場を開拓していってほしいと思います。国産の空飛ぶクルマが世界の空を駆け巡る。そんな未来の実現を大いに期待しています。