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スマートシティの社会実装を実現する5つのステップとは?
~実証だけで終わらず、使い続けられるものに仕上げるためのポイント~

 デジタルの力で地域課題を解決し、魅力あるまちづくりを目指すスマートシティの機運が高まりを見せている。実現に向けたプロジェクトも各地で進んでいるが、個別サービスの導入や実証レベルでとどまるケースが少なくない。これを乗り超え、「真の社会実装」を実現するには重要なポイントと順番がある。それが5つのステップだ。これはNECが多くのプロジェクト経験から得られた知見に基づくもの。ここでは、各ステップの詳しい内容と先進的な事例をひも解きつつ、スマートシティの社会実装に向けた手順を考察したい。

1.なぜスマートシティが必要とされるのか

 課題先進国日本。少子高齢化・人口減少により税収など財源と働き手が減ると予想されている中で、災害の激甚化や更改時期を迎える社会インフラといったさまざまな課題を解決していかなくてはならない。こうした山積した課題を、デジタル技術を活用して解決するアプローチとして、改めて期待を集めているのがスマートシティだ。

 これまで全国各地でスマートシティへの取り組みが進められており、一定の成功事例もでてきている。しかし、その多くは個別サービスの実証にとどまり、まちや都市全体をスマート化し日常的にサービスを使い続ける「真の社会実装」には至っていないのが実情だ。

 個別サービスの実証を超えて、真の社会実装を実現するにはどうすべきか。そこにはいくつかのポイントがある。それは「財政余力の創出」「共創による取り組み」「分野を横断するデータ利活用」という3つの施策だ。NECでは、これまでの経験を踏まえ、この3つの施策を一歩ずつ着実に進めるために、5つのステップを提唱している。以下ではそのステップを紹介していきたい。

2.ステップ1:ビジョンを立てて、地域らしい戦略にこだわる

 まず最初にやるべきことは「ビジョンを立てる」ことだ。地域にはそれぞれの「らしさ」がある。そのうち何を残し、何を変え、どんなまちを目指すのか。「未来視点で地域固有の“らしさ”や新しい“らしさ”を描き、まちの進化を考えることが重要です」とNECの小野田 勇司は強調する。ビジョンの明確化によって、地域にとっての目指す姿や課題の優先度が見いだせる。またそれを地域の様々なステークホルダーと共有することができるのだ。

NEC
スマートシティ事業推進部門
部門長
小野田 勇司

3.ステップ2&3:自走を目指す財政手当てを創出し、産官学民の共創を促す

 ビジョンを実現していくためには、当然財源が必要になる。ステップ2で行うのが「財政面の手当て」である。財源には「導入期」と「運用期」の2つの視点が必要になり、特に「運用期」への手当てが社会実装へと進展するためのカギとなる。

 「導入期」はプロジェクトの立ち上げフェーズで、国の交付金を活用できる。現在、政府より “地域の抱える課題を、地域の魅力をそのままに、デジタル実装により解決する”「デジタル田園都市国家構想推進交付金」の制度などが用意されている。

 重要なのは「運用期」に対する手当てだ。これを支援するため、NECが提供しているのが「都市経営コンサル」だ。これは、地域の都市経営を行財政観点からとらえ、スマートシティ運営の自走化を目指すもの。具体的には、経営効率化による歳出削減や、地域活性化による歳入拡大などから財源余力を創出し、地域のスマートシティ施策と連動させ、その持続化を支える経済循環を促していく。

 都市経営コンサルの具体的なプロセスは次の通りだ。まず歳入・歳出を会計別・費目別に分析し、他市とのベンチマークも交え、現状を見える化する。次にその地域に合う改革施策一覧を作成し、施策導入時の効果試算を実施。その上で改革施策の実行ロードマップを策定していくわけだ。

 「スマートシティの施策は、さまざまな歳出削減や歳入拡大につながるものです。そこから再投資にあてるサイクルを回すことによって、持続的な地域の活性化につながっていきます。ある地域では都市経営コンサルを実施したことで、一般会計予算の3%にあたる安定的な財政余力が試算できました。導入期の財源手当てにおいても、継続性の高い施策計画があれば、先の交付金を獲得する上で有利に働くでしょう」と多くのスマートシティプロジェクトにかかわった経験を持つ同社の西岡 満代は話す。

 ステップ3では「共創の力を使う」ことを考える。地域にかかわるさまざまなステークホルダーの知恵や力を活用するためだ。例えば、香川県高松市では2017年に「スマートシティたかまつ推進協議会」を発足。高松市および地元サービス関連事業者、香川大学など約140組織が参画し、市民向けシンポジウムや人材育成講座など普及啓発活動を展開している。

 また、コンソーシアムに参加し、持続可能な仕組みを共創していくのも有効な一手だ。これを支援するため、NECは三井住友フィナンシャルグループと共に発起人となり「スマートシティ社会実装コンソーシアム」を2022年5月に立ち上げた。

 地域や企業の枠にとらわれず、産官学民が共創し、さまざまなサービスを「創り、試し、展開できる」全国規模のコンソーシアムである。さまざまな業種の企業、国や自治体、大学・研究機関など分野の垣根を超えて広く参加を募っている。「実装に向けた枠組み、ルール、体制面の整備も見据え、費用対効果の高い事業モデルの構築による真の社会実装を目指します」(小野田)。

NEC
スマートシティ事業推進部門
上席プロフェッショナル
西岡 満代

4.ステップ4:拡張性の高いサービス開発と安全なデータ利活用を支えるNEC都市OS

 ここまでのステップを踏んだ上で、ステップ4で目指すのが「データや技術の活用」だ。スマートシティはまちのDXであり、最適なデジタル技術の活用が欠かせない。なかでも重要になるのがデータである。

 避難所やAED設置箇所など各種施設の所在地や、カメラ映像、センサーのIoTデータとして収集可能な道路の通行状況、河川の水位レベル、WebやSNSに寄せられる住民の声など、これらはどれも地域にとって重要な情報資産である。これらのデータを分析・利活用することで、住民に寄り添ったサービスの開発・提供が可能になる。

 その際、忘れてはならないのが、安全・安心の確保だ。安全なデータの利活用のためには、オープンデータは適切な条件のもと二次利用に提供する、個人情報は事前に本人同意を確認するなどの対応が必須である。

 また、一地域に閉じることなく、他地域との連携を考えることもスマートシティを加速する上で大切なポイントである。「地域連携でより多くのデータが集まる。同じような課題を持つ地域同士が連携すれば、サービスの開発を共に進め、実装の横展開も可能になるでしょう」(西岡)。

 とはいえ、一言で安全・安心なデータ利活用と地域連携といっても、それを自ら創り上げていくことは容易なことではない。そこで、NECが提供しているのが、クラウドサービス「NEC都市OS」だ。これは、データ利活用基盤、個人同意管理に対応したパーソナルデータ利活用サービス、AIを活用したデータ分析機能、生体認証を活用した個人認証機能、ID連携管理機能、フルレイヤーセキュリティ機能などを実装した統合プラットフォーム(図1)。データ利活用基盤は、NECも開発に参画したグローバル標準オープンソースソフトウェア「FIWARE」をベースとしたもの。実績と信頼性のある技術で、拡張性と柔軟性も非常に高い。

図1 NEC都市OSの全体イメージ
FIWAREベースのデータ連携基盤とNECのAIサービスや生体認証、セキュリティ機能などで構成される。提供機能はモジュール化されており、自由に組み合わせて利用可能。必要に応じて段階的に都市基盤をつくっていくことができる

 NECの保有する先進技術を組み込んでおり、AI技術によるデータ分析機能、顔認証をはじめとする生体認証も利用できる。また、秘密計算、ブロックチェーン、AIプライバシーなどNECのセキュリティ技術で、スマートシティという公共性の高いサービスの基盤として必要なフルレイヤーセキュリティを提供する。

 「NEC都市OSは国の技術基準を遵守しています。NECはデータ連携基盤やリファレンスアーキテクチャ設計など国の標準化活動にも貢献してきており、そうした知見が組み込まれているのです」と小野田は語る。

 NEC都市OSを活用して分野横断のデータ利活用を進めることで、地域でどんなことが可能になるのか。NECが提案するユースケースの1つにスマートツーリズムがある。「観光客の趣味趣向に、リアルタイムで変動する施設の混雑状況、天候予測などを組み合わせて、旅行計画や最適な周遊プランをお勧めすることが可能です。地域はデジタルマーケティングにより消費・回遊行動やリピートを促すことができ、地域経済活性化に貢献します」と西岡は提案する。

5.札幌市が開設を目指すデータ取引市場とその価値

 NEC都市OSを軸に多様なデータを活用することで、生活・経済・教育・行政などさまざまな分野で新しいサービスの開発・提供が可能になる。この実現に向けて先進的な取り組みを進めているのが札幌市である。

 ICT活用戦略として「地域課題の解決」と「イノベーションの創出」を掲げる札幌市は「札幌市ICT活用プラットフォーム」を2017年度に構築し、官民データ連携とその利活用を支援してきた。これをさらに発展させるためには、より多くの組織が参加し、データの多様性と質を高めることが重要と判断。NEC都市OSを採用し、NECと協働で、民間データを有償で取引する「データ取引市場」の実現を目指している(図2)。

図2 データ取引市場の全体概要
行政データ、民間データともにNGSIに準拠したAPIで提供される。これにより、官民データの流通を促進し、データ取引という新市場の創出と地域の活性化を目指す

 行政データは、札幌市ICT活用プラットフォームと連携し、無償で提供される。民間データは、NEC都市OS上に構築したデータ取引市場で売買可能となる。「データ売買は相対取引でなく、ルールを定め、その同意を以て売買可能とすることを想定しています。スムーズな取引が可能になり、取引コストの低減にもつながることを期待しています」と札幌市 副市長の町田 隆敏氏は説明する。

 札幌市はこのデータ取引市場によって官民データ連携とその利活用を一層活性化させていく考えだ。「産業・観光、防災・防犯、モビリティ、福祉、教育、環境・エネルギーなど多様な分野のサービス開発を目指しています。民間企業との積極的な協働を進め、準公共的な領域まで民間サービスを拡大していく方針です」と町田氏は続ける。

 このデータ取引市場は、2021年度に国土交通省のモデルプロジェクトに採択され、プロトタイプを作成した。その後、2022年12月14日に実運用を開始した。技術面及び運用面での整備・強化をはじめ今後のデータ取引の活性化に向け、NECと協働で進めているという。

札幌市 副市長
町田 隆敏 氏

6.ステップ5:スマートシティサービスを社会実装し、地域を進化させる

 こうして4つのステップを進めることで、ビジョンの実現に必要なサービス導入の準備ができてくる。これを踏まえ、最終段階のステップ5では「スマートシティサービスを選定・導入」していく。

 サービスは、地域のビジョンや利活用可能なデータなどを基に選定していく。その導入にあたっては効果の最大化を図ることが重要だ。NECはロジックモデルの活用を推進している。ロジックモデルとは、施策がその目的を達成するまでの因果関係を論理的に明示したものだ。「施策によって直接的に期待される効果(アウトプット)だけでなく、論理的な因果関係によって想定される社会的インパクト(アウトカム)まで事前に設計します。それぞれに指標を設け、施策実施後に、この指標を基に目標の達成度合いを測定していく。これを検証し適宜見直しを行うことで、効果と社会的インパクトの最大化につながります」と西岡は説明する。

 ロジックモデルは2010年ごろより英国を中心に海外で活用が始まり、現在は日本でも各省庁の施策評価手法に使われているものだ。デジタル田園都市国家構想においてスマートシティの指標として推奨されているウェルビーイング指標の設計にも活用することができる。

 NECはサービス導入にあたって、効果最大化のためのロジックモデル策定・検証をサポートするとともに、施策を実現するさまざまなスマートシティサービスを提供している。

 イベントDXサービス「FORESTIS(フォレスティス)」はその1つだ。コミュニケーションアプリ「LINE」をベースとしたサービスで、対話型コミュニケーションでユーザの体験価値を高めることができる。

 餃子のまちとして知られる栃木県宇都宮市は、これをイベント開催時の観光振興に活用。来訪者はチャットボットとの対話を通じて好みや交通手段などを伝え、それらを基にしたお勧め情報の配信を受ける。同時に、スタンプラリーや、お店の待ち時間を利用できる観光スポットの情報などを用いて、回遊促進も図った。これにより導入前よりも来場者が大幅に増加し、現在までに8万人を超えるユーザがいるという。

 FORESTISを住民との接点として活用を広げれば、スマートシティの指標の1つであるウェルビーイングの測定も可能になる(図3)。このサービスはデジタル庁より提供予定のウェルビーイング指標ガイドラインと連動可能だ。「住民にさまざまなサービスを紹介し、アンケートを通じて満足度や効果など主観的評価を得るといった使い方が可能です。データに基づいた効果検証や改善策立案に大きな貢献が期待できます」(西岡)。

図3 FORESTISのウェルビーイングへの活用イメージ
地域課題の改善や施策結果などの評価を住民からダイレクトに取得できる。ウェルビーイングを定量的に計測し、その結果を施策やサービスに反映することで、より良いまちづくりにつながる

 ほかにも、QRコードを用いて各種行政手続きのオンライン化を更に便利にする「スマート行政窓口ソリューション」、テキスト含意認識技術により異なる文表現からも意図を汲み取り応答できる「AIチャットボット」、健康関連データを集約・見える化し地域の健康増進・疾病予防を促進する「エビデンスベースド ヘルスケア」、地域のデータを伝わり易く開示し住民の避難行動を促す「住民向け防災ダッシュボード」、施設のエネルギー使用量やCO2排出量を見える化する「自治体施設のCO2見える化」など多様なポートフォリオがある。

 「NECは今後も地域の掲げるビジョンに沿って、目標とする効果を得られるような提案を行い、スマートシティの真の社会実装を支援していきます」と西岡は述べる。

 スマートシティの取り組みは、未来につながる新しい形のまちづくりである。一朝一夕に実現できるものではなく、また長く続く取り組みである。今後もNECは、一つひとつのステップを自治体と共に歩み、誰もが安心して快適に暮らせる持続可能なまちづくりに貢献していく。