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実用化目前!“日本発”空飛ぶクルマが挑む空のモビリティ革命

 新たな交通手段として注目が高まる「空飛ぶクルマ」。実用化に向けた動きが進む中、2025年が大きなターニングポイントになる。大阪・関西万博での移動手段として“お披露目”されるとともに、商用化が開始される予定となっているからだ。国産の空飛ぶクルマとして注目されているのが、SkyDriveの「SD-05」である。乗り心地や安全性はどうなっているのか。どんな用途での利用が見込まれているのか。そして空飛ぶクルマは今後どのように進化していくか。“日本発”空飛ぶクルマの「今」と「未来」を展望したい。

“日本発”空飛ぶクルマは世界最小で垂直に離着陸

 混雑する道路を眼下に、渋滞知らずの空を快適に飛んでいく。そんな空飛ぶクルマの実用化が、いよいよ秒読み段階に入ってきた。空飛ぶクルマとは、クルマのような手軽さ・快適さで空を飛ぶ新しい乗り物のこと。2025年の大阪・関西万博では会場への移動や、会場内の移動手段として活用される。

 そこで使用されることを目指し機体を開発しているのが、SkyDriveだ。「100年に一度のモビリティ革命を牽引する。」をミッションステートメントに、2018年7月に設立された日本のモビリティベンチャーである。「空を、走ろう。」というビジョンを掲げ、空飛ぶクルマの研究・開発を進めている。出資企業には商社、メーカー、エネルギー関連など日本を代表する大手企業が名を連ねる。

 その同社が現在開発しているのが、マルチコプター型の「SD-05」である(図1)。小型航空機に近い固定翼型に比べ、コンパクトサイズ。垂直離着陸が可能な世界最小クラスのエアモビリティである。2025年には型式証明を取得し、事業を開始する計画だ。

図1 SkyDriveの製品
空飛ぶクルマはマルチコプター型で世界最小クラス。2人乗りで短距離の移動に適している。物流ドローン「SkyLift」は30kgの重量物輸送が可能。既に実用化されており、山間部での資材物資輸送などで活躍している

 「2人乗りで、航続距離は5~10km程度。自動制御技術で簡単な運転と、電動化と量産化で低コストも実現したい」と同社代表取締役CEOの福澤 知浩氏は話す。

株式会社SkyDrive
代表取締役CEO
福澤 知浩氏

 「今の交通手段は道路や鉄道などのインフラが必要で、その整備状況には地域格差がある。公共交通機関は時刻表に基づく定刻運行が基本で自由度も低い。SkyDriveは空のモビリティ革命でこの常識を変えていきたい」と福澤氏は意欲を見せる。

 SD-05の運航に道路や鉄道は必要ない。渋滞や事故による遅延の心配もない。小型で垂直離着陸するため、公園、駅前、コンビニやショッピングモール、ビルの屋上など既存設備の多くの場所をポートに利用できる。「クルマのような簡単な操作で飛行でき、将来的にはスマホ操作や自律飛行も可能になります。いつでも・どこでも・だれでも空を走れるようになる。これが私たちの目指すモビリティ革命です」と福澤氏は力を込める。

 実際、同社の技術は世界から高く評価されている。「当社が行った公開有人飛行試験は世界112カ国で報道され、日本のモビリティメーカーへの期待の大きさを実感しました」と話す福澤氏。2022年9月にサンフランシスコで開催された世界最大級のスタートアップピッチコンテストでは、70以上の国と地域が参加する中、SkyDriveが準優勝を獲得した。

構造がシンプルで低コスト 安全性にも大きな自信

 SD-05はほかにも多くの優位性を持つ。たとえば、機体の部品数は1万から2万点程度。大型旅客機の300万点、ヘリコプターの10万点と比べて圧倒的に少ない。重量も通常のヘリコプターの3分の1程度で非常に軽量だ。「製造コストとメンテナンスコストを大幅に抑制できるため、事業者はサービス提供価格を安価に設定できるでしょう」(福澤氏)。

 飛行音も静かだ。上空150mを飛行時の騒音はヘリコプターが80dBであるのに対し、空飛ぶクルマは65dB。地上で150m離れたところを走る乗用車(69dB)より静音で、周囲の音に紛れて気にならない。電動なのでCO2排出もゼロで、エコ性能も高い。

 もちろん、安全性も高い。プロペラ、モーター、電源系統は冗長化されており、万が一、モーターが1つ動かなくなったり、プロペラが破損・落下したりしても飛行を続け着陸することができるという。「さまざまな条件下で屋外飛行試験、有人飛行試験を繰り返し、航空機並みの高い安全性を担保する機体を開発中」と話す福澤氏。航空機並みの高い安全性で大きな事故につながるリスクは極めて低い。

 米モルガン・スタンレーが発表した2018年の予測では、空飛ぶクルマの市場規模は2040年に約170兆円にまで拡大する見通しだ。ここ数年は各社が機体開発を進めており、市場は限定的だが、この後、機体が完成してサービスが始まり、空飛ぶクルマの動力源であるバッテリーの性能が伸びたり、社会受容性が上がってより多くの場所で使われるようになると、市場は加速度的に伸長すると見られている。

SD-05で有人機事業、物流ドローンは難所の資材輸送に

 用途としては、テーマパークや遊園地、観光地での遊覧飛行、ドクターヘリを補完する救命救急、エアタクシーなどだ。

 先述したように大阪・関西万博では会場への移動手段や会場内の移動手段として活用される予定だという。その後は社会的に受け入れられやすい海上ルートを皮切りに展開地域の拡大を模索する。「一定の輸送ニーズが見込める東京・大阪の湾岸エリアにおいて有人飛行ルート案が考えられており、実績を積んで航路を増やしていく計画です」と福澤氏は語る。

 「空飛ぶクルマ」と並行して、同社は無人の物流ドローン事業にも力を入れている。製品名は「SkyLift」。一般的なドローンのペイロード(可搬重量)は最大10kg程度だが、SkyLiftは最大30kg。人を乗せる空飛ぶクルマ開発で培った技術と知見も大きな強みである。「大型機制御および安全設計の技術を活かし、高い安全性を実現しました」と福澤氏は述べる。航空・宇宙および防衛分野の品質マネジメントシステム「JIS Q 9100:2016」も国内ドローンメーカーとして初めて取得した。

 物流ドローン事業は既に実用化が進んでいる。人による物資輸送が難しい山間部や高所の建設現場などに利用されているという。

 サービスは2種類ある。顧客の要望をもとに機体の運用までワンストップで対応するサービスと、機体運用は顧客側で行うサブスクリプション契約型のサービスだ。2022年以降、規制緩和により市街地でのドローン飛行が可能になる。「市街地での物流輸送に利用されるようになれば、物流ドローンのユースケースが拡大し、利用料金も安価になっていくでしょう」と福澤氏は期待を寄せる。

空飛ぶクルマ社会の実現に向けて

 無人機と有人機のコア技術は共通だ。同社では市場拡大が先行する無人機の開発・改良を着実に進めつつ、得られた知見を有人機に反映していくという。その有人機事業に関しては、空の移動革命官民協議会が策定した「空の移動革命に向けたロードマップ」に基づき、事業化に向けた制度設計が進んでいる(図2)。

図2 空の移動革命に向けたロードマップ概要(出典:経済産業省)
ロードマップは「機体・技術の開発」「制度・体制の整備」「事業者による利活用の目標」の3つの観点で成り立つ。技術開発や制度整備のほか、離発着場や電源チャージ設備などの地上インフラ整備も官民一体で進めていく。2020年代後半には商用運航を拡大、2030年代以降にはサービスエリア・路線・便数を拡大し、日常生活における自由な空の移動という新たな価値提供と社会課題解決の実現を目指している

 ただし、実現に向けては課題もある。その最たるものが社会受容性だ。「今後、空飛ぶクルマが市民権を得るためには、ユーザーが利用したいと思えるサービスを提供し、安全な乗り物であることを広く知ってもらうことが重要です」と福澤氏は指摘する。

 国産の空飛ぶクルマが世界の空を駆け巡る。そんな未来がまもなく現実のものになろうとしている。SkyDriveは新しいモビリティで人々の生活をより豊かにするとともに、“日本発”のハードウェアスタートアップとして日本のものづくり産業の活性化に大きく貢献していく考えだ。