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2021年12月21日

米ドローン業界の現状からひも解く、有人地帯での自動飛行の可能性と未来

 ドローンを使って、空から荷物を届ける――。その事業化に向けた動きが世界で加速している。日本も例外ではない。しかし、そこには大きなハードルもある。それは「有人地帯での完全自律・自動飛行」である。これが実現すれば、商業ドローン市場は大きく発展していくだろう。既にチャレンジャーたちは実証実験を進め、着々と“離陸”の準備を進めている。ここでは、先進国・米国の現状を考察しながら、商業ドローンの未来について展望していきたい。

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商業ドローンは「カテゴリーⅢ/レベル4」で発展する

 日本における商業ドローンの飛行形態は規制上「カテゴリー」と「レベル」で決まる。この組み合わせで“できる”ことが定義されているのだ。

 カテゴリーは飛行した場合のリスク分類のことだ。カテゴリーⅠは最もリスクが低いとされ、人の少ないエリアでの日中の目視内飛行。カテゴリーⅡは比較的リスクが高く、人の少ないエリアで補助者のいる目視外飛行や夜間飛行。そして来年導入予定のカテゴリーⅢは最もリスクが高く、有人地帯での補助者なし目視外飛行。なお、大勢の人が集まるイベント上空の飛行もカテゴリーⅢに含まれる。また、自律飛行や遠隔操作による自動飛行のことを、米国ではAdvanced Operationと呼んでいる。

 レベルは飛行用途の分類で、例えばレベル1は空撮や橋梁点検、レベル2は農薬散布や土木測量、レベル3は無人地帯の荷物配送。そしてレベル4は有人地帯の荷物配送などの高度利用を指す。この中で最もハードルが高いのが、BVLOS(Beyond Visual Line of Sight:目視外)による有人地帯の完全自律・自動飛行による荷物配送、すなわち「カテゴリーⅢ/レベル4」である。非常に難易度が高いが、メリットも大きい。米シリコンバレーを拠点とする商業無人飛行機システムのコンサルティング会社、Aerial Innovation LLCの最高経営責任者である小池 良次氏は次のように話す。

 「フライトごとにパイロットが現地に赴かなくともオペレーションができる。1人のパイロットが複数の機体を操縦できるので、輸送能力と運航効率が飛躍的に向上します。カテゴリーⅢ/レベル4の実現は、商業ドローンの発展と市場拡大に欠かせないステップなのです」

Aerial Innovation LLC
最高経営責任者
小池 良次氏

虎視眈々とドローンの技術を磨く欧米勢

 この実現に向け、欧米勢のメーカーや事業者は目視外飛行の実証実験やテスト飛行を重ね、現在は都市部でのドローン物流が始まっている。

 業界をリードするのが、米IT大手Google傘下のWing社だ。米国で10万回を超える配送実績を誇る。米連邦航空局から、地域限定だが配送事業者の認可を受けて、2019年からバージニア州で日用雑貨などのドローン配送を始めた。「LTE通信を使った独自のフリートマネージメントとUTM(無人機管制システム)を利用し、17カ月間無事故を達成しました」と小池氏は話す。

 独Wingcopter社が開発した次世代配送ドローン「Wingcopter 198」は1回の充電で75kmの距離を飛ぶ。最大積載量は6kgで、最高速度は時速150km。「独自のトリプル・ドロップ・メカニズム(ウィンチ式)により、1回の飛行で3カ所の配送が可能。同時に10機を1人のオペレーターで運行できるのも特長です」(小池氏)。日本ではANA(全日本空輸株式会社)が同社の機体を使って実証実験を展開中だ。

 米UPS Flight Forward社とSkyward社は共同で、5Gネットワークを利用したドローン配送の実証実験をフロリダ州で実施している。集中管理センターから複数のドローン運航を監視サポートする仕組みだ。5Gのメリットを活かしドローン映像の多点間監視を実現するとともに、エッジ・コンピューティング技術を活用することで、ドローンのオンボード・コンピュータの軽量化を狙っている。「これにより、効率的な運航が可能になり、既に3800回以上の配送に成功しています」(小池氏)。

 完全無人のドローン運用システムの開発も進んでいる。そのトップランナーが、オペレーター不在の完全目視外飛行をFAA(連邦航空局)から最初に認可されたAmerican Robotics社である。同社の運用システムは高度な音響センサーで有人航空機を回避するDAA(衝突回避機能)技術を備える。「ドローン運行を無人で行えるため、運用費が大きく節約でき、1日数回の定期運行が可能になるなど多くのメリットが期待されています」(小池氏)。

機体設計、操縦技能、運航ルールの審査がより厳格に

 日本でカテゴリーⅢを導入するに当たって、2022年に航空法が改定される予定で「機体の信頼性を担保するための機体認証、操縦者の技能を確保するための操縦者資格制度、運航管理の安全性を担保するための審査制度が導入されます」と小池氏は説明する。

 やや制度面で進んでいる米国では既に操縦ライセンス資格の導入は終わっている。現在は機体認証(耐空証明および型式認定)の制度化に取り組んでいる。米国ではドローンメーカー10社から機体認証の申請があったが、2021年10月現在、機体認証を取得したメーカーはまだゼロだという。

 機体認証を受けた機体が出てこない理由として、デザインベース規制からパフォーマンスベース規制に移行したことが挙げられる。航空機の開発において、デザインベース規制は過去の事故率などの統計データから最も安全な部品やソフトウェアデザインを限定するやり方。例えば、非常口はその大きさや形状、機能性などが条件定義されており、これを順守すれば認可された。しかし、新しい技術や形態に富むドローンへの適応が難しかった。一方、パフォーマンスベース規制は、シミュレーターや実証試験で安全性が担保されていることを認証機関に示す必要がある。「過去の統計データと手法に従って開発するのではなく、安全であることを客観的に証明できなければならないのです」と小池氏は続ける。

 日本でカテゴリーⅢ/レベル4を実現する上では、より安全性が高い運航管理を求められることになる。例えば、配送サービスを実現する場合に、業務や飛行経路、スタッフ、管理ソフトウェアなどの運航管理で徹底的なリスク対策が必要となる。このリスク評価は規格団体JARUS(Joint Authorities for Rulemaking on Unmanned Systems)によって民間商業無人機向けに作成された「SORA(Specific Operations Risk Assessment)リスク分析」がベースになる(図1)。「カテゴリーⅢに対応する運航プラン申請にはSORAリスク分析に基づくリスク評価が必須です」と小池氏は主張する。

図1 SORAリスク分析の概要
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図1 SORAリスク分析の概要
必要とされる10ステップ分析のうち、主要な5つのステップを示した。カテゴリーⅢ/レベル4に対応するためには、このステップに沿って運航体制全体のリスクを分析および低減対策を実施し、運航上のリスクが最低限に抑えられていることを規制機関に証明しなければならない(出典:Aerial Innovation, LLC.)

日本でも検討が進むドローンの実用化

 既に述べたように有人地帯での完全自律・自動飛行の実現に向けた航空法の改定検討が進められている。現在認められていない有人地帯での目視外の飛行を可能にするため、2022年カテゴリーⅢが新設される見込みだ。そこで導入が予定されている機体認証制度や操縦資格制度などは米国に準じるかたちと予想される(図2)。

図2 国土交通省が目指す制度設計の全体イメージ
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図2 国土交通省が目指す制度設計の全体イメージ
有人地帯の目視外飛行を実現するため、カテゴリーⅢを新設し、厳格な安全基準を設ける。カテゴリーⅢの認可を取得できれば、カテゴリーⅡに必要とされる個別の許可承認が省略される

 カテゴリーⅢが導入されても、有人地帯での目視外自律飛行がすぐに実現するわけではない。例えば、機体認証取得は米国と同じように厳しいものになることが予想される。

 現在の商業ドローン利活用は橋梁やビル外壁などの目視内検査サービスが主体だが、カテゴリーⅢが実現すれば、機体メーカーや事業者にとってハードルは高いが、ドローン配送などの巨大市場が見えてくる。「これが実現すれば、商業ドローン市場は大きな飛躍を遂げる」と小池氏は期待を込める。

 メーカーや事業者は技術水準の向上に加え、フリートマネージメント・システムや空域管理ソフトなどの研究も進め、“その日”に備えることが肝要だといえるだろう。

小池 良次(こいけ りょうじ)氏

商業無人飛行機システム/情報通信システムを専門とするリサーチャーおよびコンサルタント。在米約30年、現在サンフランシスコ郊外在住。情報通信ネットワーク産業協会にて米国情報通信に関する研究会を主催。
・商業無人飛行機システムのコンサルティング会社Aerial Innovation LLC最高経営責任者
・国際大学グローコム・シニアーフェロー
・情報通信総合研究所上席リサーチャー

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