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2020年08月31日

いま問われるオフィスの価値
NECのオフィス改革プロジェクトが探る未来

 COVID-19によりリモートワークが急速に浸透し、社会のさまざまな場所で新しいワークスタイルが模索されている。そのようななか2020年7月13日、NECではNew Normal時代の新たなオフィスの在り方を見据えた本社実証のメディア公開イベントが開催された。会場では、マスク対応の顔認証システムやVRを活用したリモート会議システムなどを公開。感染リスクの抑制のみならず、生産性向上や事業成長までを見据えた新しいオフィスソリューションの提案がなされた。世界中が大きなリスクに直面しているいま、NECではオフィスの在り方や働き方についてどのようなビジョンを描いているのか。オフィス改革プロジェクトのキーパーソンである坂本氏と、オフィスへのデジタル技術推進を展開する太田氏に話を聞いた。

オフィス改革はユーザ10万人の意識改革から始まった

── NECでのオフィス改革プロジェクトは、どのようにスタートしたのでしょうか?

坂本:
 2年ほど前からオフィス改革プロジェクトをスタートさせました。目的は、生産性の向上と事業成長への貢献です。フロアの効率化による不動産費の削減という命題も抱えつつ、段階的なフリーアドレス化やコラボレーションスペース「BASE」の開設、サテライトオフィスの設置、リモートワークシステムの導入など、従来型のオフィスを拡充する幅広いワークプレイスを整えてきました。各人に適した働きやすい場所を提供することこそが、生産性の向上と事業成長に貢献できると考えてきたからです。たとえばお子さんを抱えた方が何かしら負担を強いられながら出社しているとすれば、生産性も下がってしまうでしょう。そのためにも自宅で働ける環境や文化をつくりあげることが重要です。逆に、日本では住宅事情により自分の書斎がない方も多いですから、自宅だと仕事がしにくいという方もいます。こうした多様なユーザのニーズに対応し、様々なワークプレイスの選択肢を用意することを心掛けてきました。ワークライフバランスの改善やリモートワークへの投資も、結局はすべて生産性向上と事業成長につながるのです。

人事総務部 シニアマネージャー 坂本 俊一
人事総務部
シニアマネージャー
坂本 俊一

 また、自律的にワークプレイスを選択するという行為そのものが社員の役割意識に変化をもたらしてきたと思います。正しくワークプレイスを選ぶためには、言われたことをやるだけでなく、組織内での自分の役割を認識し、そのためにどう動くか考えることが必要不可欠になりますから。

クロスインダストリー事業開発本部 シニアマネージャー 太田 知秀
クロスインダストリー事業開発本部
シニアマネージャー
太田 知秀

太田:
 いままでただ漫然と「働く場所」だと思って出社していたオフィスが、目的があって集まる場所に変わっていくわけですよね。ですから、よくリモートワークでは会社の目が届かなくてサボってしまうという話もありますが、これはおかしな話だと思います。むしろ、会社に来ていればサボらないで仕事をしていると認識されてしまう従来の考え方にこそ、疑問を持たなければなりません。

坂本:
 そうですよね。オフィス改革は意識改革と常に隣り合わせです。新オフィスのデザインにあたっても、決して表層的なお洒落さやスタイルだけを追求するわけではなく、きちんと意味合いをユーザと共有することを意識して取り組んできました。たとえばハンモックやソファが欲しいのであれば、緊張を緩和させてアイデアを生み出しやすい環境をつくるために必要であるとか、目的や文脈をすりあわせることを重視してきました。単純に見栄えや「なんとなく欲しい」という感覚だけが先走ってしまったら、ハンモックで揺れながら仕事をしている社員をマネージャーが注意してしまうという事態になりかねません。

 しかし、オフィスにとらわれず自分に適した働き場所を選んでいくという意識改革は、本来であれば2~3年かけて取り組んでいくはずだったものです。それが、幸か不幸か今回のCOVID-19によりわずか1~2カ月で進んでしまったのは全くの想定外の出来事でした。

リアルな場はより安全・安心に、リモート環境はよりリアルに

── COVID-19により、プロジェクトの方向性は変わりましたか?

坂本:
 非常に大きく変わりました。現在(2020年8月)は、NECでも本社などでは半数以上の社員は出社していません。リモートワークが中心です。多くの人が週に1日から3日程度の出社という状況です。オフィスでなくても仕事ができる、という社員の意識改革が一気に進んだことは良かったのですが、このような状況下では、そもそも出社をしないオフィスに投資して改革していくだけの価値があるのかという根本的な課題に直面せざるを得ません。

 ただし、この数カ月間での社員の反応などを通して気づかされたのはむしろ、従来型のFace to Faceのコミュニケーションがこれまで果たしていた大きな役割でした。実際に対面してコミュニケーションをとる際の情報量というのは、メールや電話やZoomより、何よりも多いものです。相手の表情やしぐさなど、私たちは非言語コミュニケーションを通じてこそ、さまざまな課題を解決していたのだと実感しています。そして、このようなコミュニケーションによって培われた信頼関係が礎にあるからこそ、現在のリモートワーク環境での仕事も円滑に進んでいるのではないでしょうか。そういう意味でも、オフィスの役割にはまだ大きな意義があるはずです。確かにリモート化で代替できると感じることも多く、オフィスでしかできないこと自体は今後減っていくのかもしれませんが、信頼関係を構築するための場として、リアルなオフィスはこれからも役割を果たしていくだろうと考えています。

 そして、そのためにも人が集まる際の感染リスクを減らし、安全・安心なオフィス環境を実現するテクノロジーの推進は重要でした。

太田:
 そうですね。私たちのチームではオフィス改革プロジェクトと連動し、混雑度やソーシャルディスタンスなどの感染リスクを画像認識などで可視化して安全・安心を拡大する方向性、感染リスクそのものをタッチレス技術などで低減する方向性、さらには、この状況下でも生産性を向上させる方向性という3つの方向性からソリューションを開発し、NEC本社内で実証実験を進めてきました。

 特に、タッチレスについてはNECが得意とする分野です。顔認証、虹彩認証は米国国立機関による評価で世界No.1の精度を実証しています(※)。COVID-19を受けて、さらにマスク着用時にも対応させるように調整することで、社員の入館・入室や自動販売機やレジでの決済におけるタッチレス化を実現しました。この他にも、体表温度の測定と顔認証を同時に行う入場ゲートなども開発しています。

(※)顔認証、虹彩認証は米国国立標準技術研究所(NIST)による性能評価で第1位を獲得しています。
プレスリリース「NEC、米国国立機関による顔認証の精度評価で第1位を獲得
プレスリリース「NEC、米国国立機関による虹彩認証の精度評価で第1位を獲得」
NISTによる評価結果は米国政府による特定のシステム、製品、サービス、企業を推奨するものではありません

 社員証をかざすことなく「顔」という1つのID認証でビル内を動けるというのは、「行動がよりスムーズになった」、「楽!」とか「便利!」いう声も多く寄せられています。荷物で手がふさがってることもありますからね。小さなことではありますが、利便性向上につながっているなぁと実感します。

 また、生産性向上という意味でいうと、オンラインでのコミュニケーションに情報を追加してリアルなコミュニケーションに近づけるというアプローチでの開発にも取り組んできました。具体的には、Zoomで表示される参加者のプロフィールを自動表示する機能が一つです。Zoomで社内メンバーとコミュニケーションをしていても、大規模な会議になればなるほど、参加者がどんな人なのだろうとわからないまま会議を進めてしまうことがありますよね。プロフィール表示は、そういった状況を打破し、コミュニケーションを加速させていく機能です。

 こうした数カ月間の本社実証を展開した私たちの技術やノウハウは、これからの社会に役立てられると考えています。

リモートワーク化が正しいと言い切るには、まだ早い

── これからもリモートワーク中心の流れは続くと思いますか?

坂本:
 この流れが続いて社会に定着していくのかどうかは、冷静に見極めていく必要があると思います。急激に変化したぶん、急激な揺り戻しもあるかもしれません。それに、必要に迫られるなかで一気に対応したこの状況が、果たして本当に良いことだったのかを振り返る必要もあると考えています。確かにリモートワーク中心のワークスタイルは、従業員一人ひとりにとっては、通勤時間の削減やワークライフバランスの改善など、さまざまなメリットが実感されるようになったと思います。しかし、会社や組織、さらに社会全体にとってのメリットはどうかというと、まだ十分な検証ができていない状況なのではないでしょうか。個人のメリットの追求が、組織全体、社会全体の不幸につながるという事態も考えられます。

 2010年代には米系企業で相次いでリモートワークを廃止したという流れがありました。リモートワークの結果、研究開発やイノベーションに関わる分野の業績が大きく落ちてしまったからです。オフィスで顔を合わせてメンバーと気軽にディスカッションできる環境が、イノベーションを生み出していたということを証明する事例だと思います。

 また、現在の私たちの身の回りの社会に目を向けてみても、オフィスビルに入っている店舗の売り上げは減少していますし、鉄道会社なども大きな打撃を受けています。この状況下ならではの新しい社会価値創造や経済圏などが生まれてくるのであれば良いですが、それもまだわかりません。

 とにかく今は現在の流れが正しいという安易な決め打ちをせず、状況を分析しながら適切な対処を考え続けるということが最も重要な態度であると考えています。そういった意味でも、COVID-19以前から行っていた多様なワークプレイスの確保や拡充は、今後柔軟な対応をしていくためにも引き続き重要なアプローチであると思います。

太田:
 私も同感ですね。COVID-19による混乱は、私たちがかつて体験したことのない世界的な問題です。誰もが先を見通すことができないぶん、私たちは社会的な課題に合致したソリューションをスピーディにつくって実証し、改修を繰り返すというサイクルを継続してお客様にタイムリーに必要なものを届ける必要があると考えています。実際、今回はおよそ3カ月間でNew Normalに対応する技術群を整備し、本社での実証実験とメディア公開にまでたどりつくことができました。ここでの試行錯誤で得たノウハウは、必ず今後の社会に役立てられるはずです。これからもスピード感をもって、流動的に変化する世界状況に対応したオフィスソリューションの開発を進めていきたいと考えています。

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