

会社にはびこる「紙」を一掃せよ
~NECが実践する請求業務のデジタル化のリアル~
日本企業が成長を遂げていく上で、大きなテーマとなっているのがDXの実現だ。旧態依然としたアナログな業務プロセスをデジタルで変革し、業務生産性のさらなる向上を図っていくことは、多くの企業に共通した課題だといえるだろう。しかし、こうした取り組みの前に立ち塞がる壁も存在する。その1つが、企業内にあふれかえる「紙」である。日本企業の多くが、未だに「紙」をベースとした非効率な業務プロセスを抱えているからだ。そこで、NECでは、大量の紙を用いる業務の代表格である請求業務に着目。自社の電子請求サービス「KMD Connect」を利用し、自ら率先してデジタル化に取り組むことで、顧客さらには社会のDXへの貢献を目指している。
「紙からの脱却」がDX実現に向けた一丁目一番地
紙をベースとしたプロセスには数多くの非効率さが伴う。作成した文書を出力し、業務目的に応じて適宜処理を行い、用が済んだら適切な形で保存・管理を行う。こうした一連のプロセスには、多くの人手や労力が費やされる上に、それ自体は何らかの価値を生むわけではない。DXを実現するにはこういったプロセスから脱却し、付加価値を生む業務へとリソースシフトしていくことが求められる。
こうした紙ベースのプロセスの代表格といえるのが、請求業務だ。事業規模の大きな企業であれば、毎月数千、数万件に上る請求書を送付するケースも珍しくない。しかも自分から送るだけでなく、相手からの請求書を受け取らなくてはならない。当然、その内容を精査し、システムに登録するといった作業も発生する。深刻化する労働力不足への対応を図る上でも、このようなプロセスを早急に改めていくことが必要だ。
幸い近年では、デジタル庁がデジタルインボイス(※)の普及に向けた取り組みを進めるなど、請求業務のデジタル化に向けた環境が整いつつある。NECもこうした動きへのいち早い対応を決断。「NECでは、自らをゼロ番目の顧客として新たなテクノロジーやソリューションを自社にいち早く導入し、その活きた知見をお客様や社会に還元する『クライアントゼロ』戦略のもと、自ら率先して活用する取り組みを展開しています。請求業務のデジタル化に関しても、お客様のDXに貢献すべく、まずは社内での実践に踏み切ることとしました」と経営システム統括部で基幹システムの企画・開発を手掛ける伊藤 哲雄は話す。
- ※ 請求情報を、売り手のシステムから買い手のシステムに対し、直接データ連携し、自動処理される仕組み

コーポレートIT・デジタル部門
経営システム統括部
プロフェッショナル
伊藤 哲雄
デンマークを参考に請求業務のデジタル化に挑む
自社を「DXカンパニー」として位置付けているNECでは、顧客や社会の変革を加速するDX事業をビジネスの中核に据えている。2025年中期経営計画においても、「社内のDX」「お客様のDX」「社会のDX」の3つのDXの実現を掲げている。

この取り組みの内、「社内のDX」の柱の1つとなるのが、「基幹業務のDX」である。経営・マネジメント変革に向けて、プロセスのデジタル化やマスタデータの標準化などを積極的に推進。これにより、データを起点としてビジネススピードを最大化するデータドリブン経営の実現を目指しているわけだ。
「今回の請求業務のデジタル化についても、こうした大きな流れに沿ったものです。請求書の情報を電子データでやりとりすることで、業務効率を大きく向上させるとともに、データが見えるようになることで、さらなる改善につなげていくこともできます」と経営システム統括部の高野 敏一は話す。

コーポレートIT・デジタル部門
経営システム統括部
プロフェッショナル
高野 敏一
紙をベースとした請求業務は、NEC自身の大きな悩みでもあった。「当社が発行する請求書の数は年間60万件近くにのぼり、取り組みを始めた当初は、その約8割がまだ紙のままでした」と高野は明かす。ほかの多くの企業と同じように、膨大な紙請求書の取り扱いに苦慮していたのである。
しかし、NECが自らこのような状況を変えることができれば、その成果をそのまま「お客様のDX」へ、さらには「社会のDX」へと広げていくことができる。折しも日本では、2023年にインボイス(適格請求書)制度の導入が控えていたことから、請求書業務のデジタル化に本格的に着手することとなった。
ここでヒントになったのが、デジタル先進国として知られるデンマークの動向だ。デジタルガバメント事業を担当するDG統括部の根津 聡は「2019年当時、私はNECが買収したデンマークのIT企業であるKMD社に出向していました。現地に赴いて驚いたのが、社会や生活のあらゆるところがデジタル化/キャッシュレス化されていたこと。自治体の市民向けサービスもオンラインで提供されますし、業務プロセスもすべてデジタルです。当然、オフィスにも紙はありません。同時に、日本社会における課題やニーズも理解していましたので、こうした環境を日本にも広げられればと強く感じました」と振り返る。

DGDFビジネスユニット
DG統括部
上席プロフェッショナル
根津 聡
実はこのKMD社こそが、デンマークをはじめとする欧州市場に対し、幅広い領域にわたるデジタルソリューションを提供している企業なのである。特に、クラウド型の電子請求サービスである「KMD Connect」は、国連の電子政府ランキング1位であるデンマークにおいてトップシェアを獲得。年間3億件以上ものデジタルインボイスを送受信している。
「このKMD ConnectとNECが持つ技術やナレッジ、ノウハウを組み合わせれば、新たな価値が生み出せるはずと考えました」と根津は続ける。
社内導入の取り組みを通して経験・ノウハウを蓄積
NECがKMD Connectを国内展開するにあたり、中核を担うことになったのが、中堅・中小企業向け事業を担当するインダストリアルDX統括部だ。
「日本企業の中でも、一番紙が多く残っているのが中堅・中小企業のお客様です。ペーパーレス化やインボイス制度の導入などによって、ようやくデジタル化への道筋が見えてきたとはいえ、まだまだ十分とはいえません。その課題を解消する上でも、まずはNEC社内でベストプラクティスを確立することが重要です。そこで当部門でも、この取り組みに参画することにしました」と同部門の津田 裕弥は話す。

インダストリアルDX統括部
DXソリューショングループ
ディレクター
津田 裕弥
ここで特にポイントとなったのが、「デジタルインボイス」への対応だ。インダストリアルDX統括部の田中 友理は「一口に請求業務のデジタル化といっても、従来の紙帳票をPDFファイルに置き換える『電子インボイス』では、デジタル化の恩恵を最大限に享受できません。送付側はともかく、データを受領する側はデータの開封やシステムへの登録などが必要であるため、負担はそれほど軽減されないからです。その点、デジタルインボイスであれば、送付側・受領側の双方がシステムでデータを処理できるため、大幅な省力化・効率化が図れます」と説明する。

実際の社内導入に際しては、NEC自身が運用する基幹システムとの連携によりデジタルインボイスの発行を実現した。「まずは、2024年5月からNEC自身で発行機能を利用できるようにしました。今後は、関連会社への展開も進めていきます」と経営システム統括部のカ エンは説明する。

コーポレートIT・デジタル部門
経営システム統括部
カ エン
また、これと併せて、KMD社への機能改善要望なども行った。「NECが実際に運用するなかで、多くの日本企業に必要だと思われる機能はKMD社に相談して取り入れてもらいました」とカは続ける。
こうしたシステム面での取り組みに加えて、KMD Connectを社内へ定着させる取り組みも推進。実はNECグループ内には別の請求書送付システムが既に存在しており、請求書の印刷や折り畳み、封筒への封入までを自動で行えるようになっていたのだ。しかし、このシステムがそのまま使い続けられるようだと、目指すべきデジタルの世界がなかなか訪れない。
「そこで、経営システム統括部やインダストリアルDX統括部、関連会社など複数部門からなるチームを組織し、どうすれば社内での利用を広げられるか徹底的に議論しました。その中では、デジタル化することの意義を現場に説いて回るといった、草の根的な活動も行いました」と高野は話す。
また津田も「我々は基本的に営業部隊なので、実際に請求書を作成する営業担当者のニーズも聞き取りやすい。そうして得られた情報をチームにフィードバックし、制度や仕組みの改善に活かしてもらいました」と続ける。NECにおいても、実際には導入に向けて紆余曲折を重ねる場面があったのだ。
もっとも、こうした社内での取り組みを通して得られた知見やノウハウは、その課題を解決する上で貴重な財産となる。なぜなら、紙から電子化へ、電子化からデジタルへとステップアップを目指す企業の多くが、おそらく同じ問題に直面するだろうと考えられるからだ。
デジタルによる社会変革を目指す活動を継続的に推進
こうしてKMD Connectの導入を果たしたNECでは、大量の紙請求書とそれに伴うアナログな業務プロセスを改善する取り組みに大きな弾みを付けることができた。「受け取る側のお客様の事情もありますので、まずはNECグループ内での紙のやりとりをゼロにするところを目指したい。また、デジタルインボイスを送付するだけでなく、受け取るための仕組みもこれから整備していきます」と高野は話す。
もちろん、既に相手側の準備が整っている場合は、デジタルインボイスによる業務処理も行っている。「例えば中央省庁では、物品や役務を調達する際に『政府電子調達システム(GEPS)』を利用しています。本システムはデジタルインボイスに対応していますので、先般NECが実際に契約関係にある省庁への請求もデジタルインボイスで実施しました」(田中 友理)。

インダストリアルDX統括部
DXソリューショングループ
主任
田中 友理
その際の作業も非常にシンプルだ。システムで請求書の発行方法を選ぶ際に、紙・電子(PDF)・デジタルインボイスのいずれかを選択するだけ。デジタルインボイスなら郵送の時間も掛からないため、遅滞なく相手方にデータを届けられる。

なお、ここまで触れてきたKMD Connectだが、その大きな特長としてデジタルインボイスのグローバル標準仕様である「Peppol(ペポル)」に対応している点が挙げられる。売り手と買い手が使用しているシステムがPeppolに対応していれば、それらが別々のベンダーが提供するシステムであっても自動処理することが可能だ。
さらに注目したいのが、NEC自身の取り組みを通じて、ほかのアプリケーションとの連携実績を積み上げてきている点だ。「NECの社内システムはSAPを中心に様々なシステムを利用しています。今回はKMD ConnectとSAPを連携しましたが、他のシステムとの連携も検討しています。既存システムとスムーズに連携できることは、お客様環境への導入においても大きなメリットとなると考えています」と津田は話す。KMD Connectは既にNECのERPソリューション「EXPLANNER(エクスプランナー)」シリーズと連携しており、今後もさらなる付加価値の高いソリューション提供を計画しているという。
「NECでは、今後もKMD Connect関連ソリューションの拡充を図っていきます。とはいえ最終的な目標は、お客様のDX、社会のDXをいかに加速するかという点にあります。そのためには、デジタルインボイスそのものをもっと定着させていかなくてはなりません。お客様、パートナーの皆様と共に請求業務をデジタルで行うことが当たり前の世界を目指していきたい」と津田は強調する。デジタルによる社会変革に向けた取り組みは、まさにこれからが本番なのである。
“Hear voices from users”の実践

国民向けサービスグループ
企画官
加藤 博之氏
私は2021年9月のデジタル庁創設時からデジタルインボイスを推進してきました。NECがデジタルインボイスを導入することは、日本のデジタルインボイスを取り巻く状況を大きく変えるほどの大きなインパクトだと感じています。数十万の紙の請求書がPeppolに対応したデジタルインボイスに変わるということもそうですが、それ以上にデジタルインボイスのサービスを提供するNEC自身が導入することで、自社のサービスがより一層ユーザ目線のものに進化していくはずだからです。
Peppol e-invoiceに対応したサービスが広がっていくに連れ、ユーザである企業や組織はそれがもたらす「効率化の実現」だけでは満足しなくなり、それがもたらす「新たな付加価値」に期待します。今の日本の現状はちょうどそのタイミングかもしれません。したがいまして、NECをはじめとするデジタルサービスを提供する事業者の皆様には、そういったユーザの「変化」も敏感にキャッチし、効率化の実現の先にある、ユーザの「期待の実現」にチャレンジしていただきたいですね。