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2016年02月12日

津田匡保氏(前編)~ネスレに学ぶ、顧客の課題解決の視点から生み出すイノベーション創出術~

「コミュニティを活性化させる」ソリューションとしてのアンバサダー プログラム

──「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」に続く取り組みが、「ネスカフェ アンバサダー プログラム」ということですが、これはどのようにして生まれたのでしょう。

津田氏:
 「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」は2010年春に全国発売され、大ヒットをしましたが、ソリュブルコーヒーのユーザーは、全国に3000万世帯以上といわれます。この3000万世帯にもっと加速して広げていく方法はないかと2010年末くらいから考えていました。

 折しも、2011年3月の東日本大震災が発生し、私自身、阪神・淡路大震災を経験したこともあり、被災地の仮設の集会所などに「バリスタ」を寄贈する取り組みなどをさせていただきました。そのときに、「部屋にこもっていた被災者の方が、集会所に集まりコーヒーを飲むようになって、集会所がカフェのように賑やかになった」という嬉しい声をたくさんいただきました。

 翻って、我々のビジネスを取り巻く環境ですが、「ネスカフェ」の日本におけるコーヒー市場500億杯のうち、どこで消費されているかの割合は、家庭内が62%で家庭外は38%。

 「ネスカフェ」の家庭外のシェアは、家庭内に比べると非常に低く、この家庭外のシェアを高めるために着目したのが、「職場」というコミュニティです。職場でのソリュブルコーヒーの消費を増やし、かつ、職場を元気にし、活性化させるためのソリューションとして考えたのが「ネスカフェ アンバサダー プログラム」です。

──「ネスカフェ アンバサダー プログラム」の取り組みはいつ頃から始まったのですか。

津田氏:
 トライアルテストは2011年末ごろよりスタートし、50台限定で「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」を無料貸与するオフィスモニターを募集したところ、1週間で1000企業以上から応募があり、このときの経験から、コーヒーマシンを無料貸与し、継続的に使っていただく構想が固まっていきました。

 そこで、各職場から、職場においしいコーヒーとコミュニケーションを届ける「大使」=「アンバサダー」に応募いただき、その方々に「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」を無料で貸与し、コーヒーカートリッジはネスレの通販サイトで定期購入いただいて、職場のメンバーから代金を回収するサービスモデル、「ネスカフェ アンバサダー プログラム」を2012年秋からスタートしました。

──「ネスカフェ アンバサダー プログラム」の着想のヒントはどこから得たのでしょうか。

津田氏:
 阪神・淡路大震災のとき、私は高校1年生でした。電気やガス、水道といったインフラが止まり、お風呂は仮設風呂で済ませるという生活がしばらく続きました。今のように携帯も普及していないですし、寒いし電話もつながらない。そんなときに、仮設風呂の脱衣スペースがコミュニケーションスペースのようになっていて、近所の方やボランティアの方が集まっていました。そのとき飲んだ一杯のコーヒーがとてもおいしくて、心に残っていました。

 ネスレに入社して、2011年の大震災の際には、自分の担当商品で何か被災地のために役に立てないかを考えて、被災地支援の活動をやらせてもらいました。家庭外のコーヒー需要の喚起というビジネスのタイミングと、そうした経験、個人的な体験がマッチしたという面はあると思います。今のアンバサダープログラムのコンセプトを作っていく1つのヒントにはなっていますね。

アンバサダーの離脱率を抑えるという課題から生まれた「サブスクリプションモデル」

──「アンバサダー」というお客様の自主性に委ねたビジネスモデルは非常にユニークです。「お客様に任せる」ことがうまくいくと確信したのはいつ頃だったのですか。

津田氏:
 50台限定の無料モニターの経験を通じて分かったことがいくつかあります。それは、どこの職場にも「やりましょう」と手を挙げる発起人的な役割の方がいることや、「バリスタ」の周囲には人が集まり、コミュニケーションが活性化するということです。

 全国展開の前には、北海道限定でテストマーケティングも行ったのですが、そのときの反響などで、ある程度需要があることは肌感覚でわかりましたから、あとは取り組みながら軌道修正をしつつ、今もサービスの改良、修正を継続しているところです。

──アンバサダー プログラムのもう1つの特徴が「サブスクリプション(定期購入)モデル」です。開始3年でアンバサダーは20万人を超え、成長を続けています。

津田氏:
 そうですね。開始当初は、ECサイトでソリュブルコーヒーを購入していただけたら良いという感じでいました。しかし、離脱が多く、継続率という課題に直面しました。

 離脱を防ぐために、お客様(アンバサダー)を継続的にフォローすることにかかる手間やコストが大きかったため、サービスのモデルを、最初から定期購入型に変えることにしました。これにより、離脱する方がほとんどいなくなり、継続率が大きく高まりました。

──サービスをサブスクリプションモデルに変えることについて、お客様の抵抗はなかったのですか。

津田氏:
 これについては、すでにアンバサダーになっていただいている方に集まっていただき、グループインタビューを行い、お客様の本音を知ることに努めました。「どんな定期購入の仕組みなら入ってもらえますか?」と。要望として上がったポイントとしては、「最安値で購入できるようにして欲しい」「購入数や購入頻度が選べるようにして欲しい」「コーヒー以外の商品も購入できるようにして欲しい」といった声で、基本的にいただいた要望をすべて実現しました。これにより、頻繁に利用される方も、そうでない方にもご満足いただき、離脱が一気に減りました。

──ありがとうございました。後編ではアンバサダープログラムの現状と、そこから得られたポイントは何かについて教えてください。

(インタビュー:松尾慎司)

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