2016年02月26日
津田匡保氏(後編)~小さく作って、走りながら改良する、ネスレ流「ビジネスモデルの作り方」~
小さく作って、走りながら改良する、ネスレ流「ビジネスモデルの作り方」とは
──ネスレではビジネスモデルを考える上で、どうやって「課題」や「顧客」を捉えているのですか。
津田氏:
ネスレ日本の場合、ビジネスの根本には、お客様の課題を解決する、ソリューションビジネスを展開していこうという考えがあります。ですから、「課題解決」からビジネスを考えるアプローチは変わりません。
その上で、ビジネスは小さくスタートし、テストと検証を繰り返しながら拡大していきます。そこでサービスの進化、深化に欠かせないのがお客様と一緒に成長させる「共創」のステップです。
最初から完璧なビジネスモデルというのはありません。ある程度の段階でスタートして、走りながら改善していくことが欠かせません。どの段階でスタートするかの見極めはもちろん大事ですが、やはり、お客様の顔が見えること、お客様の望むことを知ること、お客様とつながることというのは、欠かせない要素です。
──「ソリューション型」のビジネスを次々と生み出す秘訣はどのあたりにあるのでしょう。
津田氏:
日本は課題先進国ともいわれます。日本の高齢化が進む状況に変わりはなく、今後10年、20年を考えると、健康問題やコミュニティとのつながりという問題は、今よりも大きく認識されるでしょう。
社内で新規ビジネスについてプレゼンすると、社長から必ず問われるのは、「そのビジネスは、どのお客様の、どんな問題を解決しているのか?」ということです。
社内では「イノベーション」と「リノベーション」という言葉を使い分けています。リノベーションは、すなわち改良のこと。たとえば、5分かかっていたものが4分になったとするとそれはリノベーションです。一方、イノベーションは、革新的な新製品や新たなビジネスモデルによって、お客様の問題そのものを解決することだと定義しています。
どれだけトライ&エラーを重ねられるかが会社の成長には欠かせないと思いますので、「小さな失敗」を経験できるような環境作りや、積極的にチャレンジできる人材をどう育てていくかが、我々の課題だと思っています。
他社では真似できない「ノウハウ」の蓄積がイノベーションを生む
──「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」「ネスカフェ アンバサダー プログラム」などを通じ、成長を続けるネスレ日本は海外から「ジャパンミラクル」との評価を得ているそうですが、今後、日本発のビジネスモデルをどのようにグローバル展開していくのですか。
津田氏:
「ネスカフェ アンバサダー プログラム」については、すでに他の国々でも検討が始まっていて、まだ「バリスタ」を販売していない国は、まずはマシンの販売を検討している段階です。
とはいえ、海外の担当者からよく聞かれるのが、「どうやって費用を回収しているのか」ということです。アンバサダーが購入した「ネスカフェ」の代金は、会社が福利厚生費で援助するケースもありますが、基本的には、アンバサダーが職場のメンバーから費用を回収しています。この回収方法について説明すると、海外の担当者の多くは衝撃を受けます。

──なぜでしょうか。
津田氏:
「バリスタのそばに貯金箱を置いて、コーヒーを飲んだ職場のメンバーが、1杯いくらでお金を入れていく」という話をすると、「そんなやり方はウチの国では無理だ」というようなリアクションが返ってきます。「貯金箱にカギをかけて持ち出せないようにするのか」と真剣に悩む担当者もいます。
ビジネスを取り巻く環境の違いはありますが、大事なことはビジネスモデルです。ですから、「ネスカフェ アンバサダー プログラム」のコンセプトを使って、その国で売れる商品を組み合わせて、その国にあったビジネスモデルを考えればいいという話をしています。
──ビジネスモデルのコンセプトというのを、もう少し詳しく教えてください。
津田氏:
外形だけ真似ても同じものはできない「ノウハウ」と言い換えてもいいかも知れません。「ネスカフェ アンバサダー プログラム」では、お客様との接点、エンゲージメントを獲得する部分がキモで、アンバサダー向けのイベント1つにしても、膨大なマニュアルがあります。こうしたノウハウは、同じようなビジネスを他社が展開しようとしても、簡単に真似ができない部分です。
ノウハウというのは、マネジメントにおけるイノベーションといえると思います。たとえば、コールセンターの対応1つとっても、いろいろなお客様がいるので、これが唯一の正解というものはありません。ですから、ビジネスをグローバル展開する際は、課題も環境も違う、その国独自のノウハウを蓄積する仕組みを考えることが欠かせないと思います。
──今後の取り組みについて教えてください。
津田氏:
「ネスカフェ アンバサダー プログラム」の新たな取り組みとしては、Beaconと連動したサービスの展開を始めました。「バリスタ」にBeaconが埋め込まれたチップを貼り、これとスマートフォンアプリが連動して、お客様が「バリスタ」でコーヒーをいれると、音を感知したスマートフォンアプリに、お得なポイント情報や、占い・ルーレットといったエンターテインメント系コンテンツ、天気・マシンのお手入れ状況といった便利な情報が届きます。そして、端末側からは、誰がいつ、何杯コーヒーを飲んだかという情報が収集されます。
こうした取り組みをテストケースとして、学びを得ながら、今後も新たな取り組みを進めていきたいと思っています。
──本日は貴重なお話をありがとうございました。
(インタビュー:松尾慎司)