2016年07月22日
“世界トップ10”の教師が確信する、ICTが激変させる教育界の未来像 ~工学院大学附属中学校教頭 高橋一也教諭インタビュー
ICTの導入、企業の参加で教育は劇的に変わってゆく
──これまでの教育では、皆が一緒に学ぶことが前提でしたが、ICTを利用すれば個別学習も可能です。ICTは今後、日本の教育にどのような影響を及ぼしていくのでしょうか?
高橋氏:
ICTを導入することで、いずれ学校はその在り方自体を変えていかなければならないでしょう。これまで、教師は知識を教える立場でしたが、ICTを活用すればその役割は不要となる。代わりに、ファシリテーター(進行やセッティングを行う人物)やコーチ、また例えば生徒が面白いモノを作りあげたときには、それを企業などに“こういうものがありますよ”と繋げて発展させるプロデューサーとなることが求められます。それらもそのうちAIがやるようになって、教師はカリキュラムコーディネーターという役割におさまっていくのでしょう。そういう長期的な視点を持つことが、これからの学校には必要だと思われます。
──ICTは日本の教育を大きく変えていく契機となりそうですね。また、高橋先生は企業も積極的に教育に関わるべき、とお考えなのですか?
高橋氏:
企業に限らず、社会全体が関わるべきですね。教育は「Everyone’s business」です。学校任せ、教師任せにするのではなく、まずは日本社会全体で子供をどう育てたいのかを考える。そしてそこに企業が参加できる可能性があれば、どんどん加わっていただいたほうがいい。私たちの学校ではベンチャー企業と組んでプログラミングを行っていますが、学外の大人に評価されることを、生徒たちはとても喜びます。そして思いもよらない面白いものを作ってきたりします。
こうした企業との連携をもっと発展させれば、例えば貧困家庭の才能のある子が、奨学金とはまた違った形で進学機会を得る手段も創造できるのではないでしょうか。現在、その仕組み作りを考えているところです。
──日本ではながらく、「勉強=入試や就職のためのツール」ととらえられ、なかなか社会全体で教育の理念を考える空気が醸成されません。世界情勢が不安定な今、先生がおっしゃるように“子供をどう育てたいか”という原点に立つことが必要なのかもしれませんね。
高橋氏:
よく「うちの子はどうしたら勉強ができるようになりますか」「どうしたらリーダーになれますか」と聞いてくる親はいますが、誰一人「どうしたら世界に貢献できる大人になりますか」とは聞いて来ない。また大学を出て有名企業に入った教え子たちが、大学までに学んだことが役に立ってないと無力感を抱いていると聞くと、淋しく感じますね。日本のトップ層と言われる人たちと話していても、せっかくMBAを取得されたのに理念のない方が少なくなく、残念に思います。例えば身近なコミュニティに役立つ人間になる、という発想を持つ人が増えれば、世の中はだいぶ変わるでしょう。今回、グローバル・ティーチャー賞に参加し、海外ではそういう視点が重視されていることを改めて痛感しました。