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NECが創薬事業に挑む。AI技術を活用した「がん治療用ワクチン」開発の可能性に迫る

2017年01月31日

──ペプチドを見つけることは難しいのですか?

土肥:
 がん細胞抑制のメカニズムとしては、がん細胞を攻撃する免疫機構のなかで、キラーリンパ球という白血球が重要な役割を果たします。このキラーリンパ球を活性化するのが、アミノ酸が9個程度つながったペプチドという物質です。

がん治療ペプチドワクチンのメカニズム
がん抗原の一部である「ペプチド」を注射することで、がん細胞を攻撃するキラーリンパ球を活性化する。
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 天然のアミノ酸は20種類あります。つまり、ペプチドは20の9乗(約5000億)という膨大な種類となります。さらに白血球にはHLAと呼ばれる型があり、患者の白血球型に合うペプチドワクチンを投与しなければ、キラーリンパ球は活性化しません。

 従来の予測・実験を繰り返す手法では、個々の患者に本当に効果があるワクチンを見つけるために、膨大な手間と時間、コストがかかっていました。複数の白血球型で免疫誘導するペプチドは無数の候補の中に1個あるかないか。なので、それをどう見つけるのかが大きな課題です。一般には、HLA分子への結合を予測して候補を選んだ後、それぞれの候補について結合実験、免疫活性化試験を実施する、という一連のプロセスを繰り返します。このような実験的手法で、複数の白血球型で免疫を活性化できるペプチドを発見するのは、現実的にはほとんど不可能に近いことでした。

清水:
 そこで「実験科学」に代わる手法として、「計算科学」の領域を活用しました。NECが将来へ向けた注力テクノロジーとして押し進めているAI(人工知能)技術を用いて、この予測精度を飛躍的に上げることを試みたのです。具体的には高知大学と共同でアクティブラーニングと呼ばれる機械学習が能動的に次の実験を指示しその結果を学習する方法を組み込んだ独自の免疫機能予測技術を開発し、たったの200回の実験によって約5000億通りの中から任意の抗原タンパクに対し、93%という高い精度でワクチン候補となるペプチドを選ぶことが可能となりました。この免疫機能予測の技術は、「一旦AIの予測精度を上げれば、未知のがん抗原に対しても、複数の白血球型で免疫を活性化するペプチドを高い確率で見つけ出すことができる」という仕組みがベースとなっています。2013年から山口大学、高知大学とともに共同研究を続け、今回、新会社設立に至ったのです。

NECのAI技術で予測精度を向上
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岡:
 AIによる膨大なデータ処理能力やアクティブラーニングによる予測精度の向上は、従来の手法をはるかに凌駕する画期的なものでした。今回の成果は、医学領域でわれわれが積み重ねてきた知見とNECの高度なAI技術の融合によってなしえたものであり、新しいタイプの創薬へと道を切り開くものだと確信しています。

──その成果とは?そして、それをもとに新会社サイトリミックが担う役割は?

土肥:
 「HSP70」「GPC3」と呼ばれる2つの抗原タンパクからそれぞれ有効なペプチドが見つかり、これらが日本人の85%をカバーする3つの白血球型に適合することがわかりました。両ペプチドの特許は出願済みで、さらに両ペプチドの効果を高める「アジュバント」と呼ばれる免疫補助剤も発見し、これらも特許出願済みです。すでに山口大学で、肝細胞がん、大腸がん、食道がん、膵臓がんなど固形がんを対象とする臨床研究が実施され、患者さんの免疫を活性化させる一定の効果が証明されています。サイトリミックはこの山口大学の臨床研究で使われているペプチドワクチンの開発を推進し、非臨床試験・臨床試験を重ねて、製薬会社との協業によって実用化を目指します。

NEC 清水隆明執行役員常務兼CMO

清水:
 サイトリミックに39.9%の比率で出資しているNECは、がんペプチドに関してはもちろん、感染症などと同様に人の免疫機構がかかわる治療薬の開発など、AIを使った候補物質の探求を産学連携の形で支援していくつもりです。

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