2017年01月31日
NECが創薬事業に挑む。AI技術を活用した「がん治療用ワクチン」開発の可能性に迫る
出資者らが期待する、新会社に引き継がれるNECカルチャー
──NEC外部の出資者の立場からは、事業の将来性をどう見ていますか?
木村:
ファストトラックイニシアティブは2003年に発足した、ライフサイエンス・ヘルスケアに特化したベンチャーキャピタルです。キャピタリストはほとんどが医療や製薬分野の専門家であり、産学連携研究の推進・支援に出資することは経営理念の大きな柱のひとつです。サイトリミックへの出資はまさにこれに合致します。この一連の研究が科学分野で高く評価されており、医療分野で大きな貢献につながり得ることが、最終的に出資を決断した理由です。
──しかし最先端の科学研究が、ベンチャービジネスとして成功するには、研究成果以外の要因も重要ではないでしょうか?
木村:
確かにその通りです。ベンチャーが失敗するケースは、対象となる科学研究が思うように進展しなかったというケースもありますが、マネジメントが上手くいかなかったという要因も少なくありません。NECは確かに創薬の専門企業ではありませんが、AIやバイオ・ライフサイエンスの領域で優れた技術とノウハウを持っており、訓練されたプロフェッショナルの集団です。彼らがサイトリミックの母体をなしていることは大変心強い。土肥社長のぶれない志、へこたれないチャレンジ精神は、NECのカルチャーを継承したものと思われます。将来の展望に、不安はありません。
清水:
一見不可能に近いようなチャレンジも、いつかは勇気と志を持つ冒険家によって成し遂げられるものだと信じています。がん克服に向けた治療法の確立。このそびえ立つ障壁へのチャレンジは、NECがヘルスケア分野のネットワークを広げる過程で知己を得た高知大学、山口大学との運命的な出会い、そして同社内で将来の展望を信じながら生命科学分野のIT事業開拓を続けてきた土肥社長や、新事業を有望で有意義なものと判断してくれた木村さんのような、勇気と志を持つ冒険家がいたからこそ可能になったのです。
AI技術を異業種へも積極展開
木村:
日本でのベンチャー起業数はまだまだ少なく、日本の社会風土に合った起業を目指すべきだと考えています。NECのような企業が今回のように、AI技術という本業に関連する事業をスピンアウトさせて新事業に取り組むというのは、企業の“本気度”がよく伝わるやり方です。大企業勤務者に対して新しいキャリアパスを作り出すスタイルでもあり、人材の“活性化”を促し、日本経済の発展に大きく寄与するモデルだと思います。
──AI技術を使った異業種への展開は、今回のみにとどまらない?
清水:
我々は、NECが保有する最先端のAI技術群を「NEC the WISE」(エヌイーシー ザ ワイズ)と名付け、社会貢献に資するAI技術のブランドを展開しています。例えば、複雑な条件が絡む電力需要を精緻に自動予測する「異種混合学習技術」や、人には察知できないわずかな変化の兆しから、プラントの故障の予兆を検知する「インバリアント分析技術」等、既に多くのAI技術を実用化しています。今回のがん免疫療法の開発のように、一見ITとは無縁のように見えて、AI技術と親和性の高い分野、あるいはAI技術のさらなる進化で利用可能になる分野がたくさんあるはずです。「NEC the WISE」は、そうした分野に積極的にかかわっていきます。
土肥:
サイトリミックは今後も、NECの優れたAI技術のサポートを受けながら、大学などの研究機関と協力してオープンイノベーションを押し進め、近年、進展が著しいがん免疫学分野の研究開発を続けていきます。革新的がんペプチドワクチンの臨床開発を通して、新しいがん治療法開発の一翼を担い、いつの日にか、がんを克服する社会を実現する。それは当社ができる最大の社会貢献であると考えています。