2017年01月31日
NECが創薬事業に挑む。AI技術を活用した「がん治療用ワクチン」開発の可能性に迫る
NECは2016年12月19日、ヘルスケア事業強化の一環として、同社が山口大学、高知大学と共同で発見したがん治療用ペプチドを使ったワクチンの開発・実用化を進める新会社「サイトリミック株式会社」を設立し、創薬事業に参入すると発表した。IT企業による医薬品業界への参入。この大胆なチャレンジの背景について、清水隆明NEC執行役員常務兼CMO、土肥俊サイトリミック代表取締役社長と、この事業のキーマンである岡正朗山口大学学長、木村廣道ファストトラックイニシアティブ代表取締役に話を聞いた(文中敬称略)。
AI技術利用が免疫療法の開発に奏功
──創薬とNECが注力するITとは、かなりかけ離れた領域という感じがしますが?
土肥:
なぜ2つの領域が結びついたかについては、まずペプチドワクチンを使ったがん免疫療法の特殊性を理解してもらう必要があります。この療法は、「抗がん剤」のようにがん細胞に直接作用する化学物質を投与する治療法とは本質的に異なり、本来患者の体に備わっている免疫力を活性化することで、がんを治療したり、転移を予防したりする方法です。
岡:
私は40年間、がん免疫の研究に携わってきました。その中に山口大学で主に肝がんの患者さんを対象に行ってきた樹状細胞療法という免疫治療があります。数名の患者さんは寛解(かんかい・がん細胞が完全に消滅する)し、多くの患者さんでがんの進行が止まるという効果がありました。しかしこの治療法には特殊な設備が必要で、時間もコストもかかってしまいます。実際、1日に2名の患者さんしか治療することができません。免疫療法は副作用が少ないという点で患者のクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)面で優れた治療法なので、これをなんとか薬にしてより多くの患者さんを治療したいという思いがありました。薬にする為には、我々の実績あるがん抗原タンパクから、ペプチドと呼ばれる部分を見つける必要がありました。これにNECのAI技術が使えることを知り驚きましたね。すぐに一緒に共同研究をしようということになりました。