2017年02月28日
三宅秀道のイノベーター巡礼 新しい問いのつくりかた
移動で地域の未来をつくる「あいあい自動車」
マネタイズとは、コスト調整のこと
三宅氏:
その感覚を理解できるのが、金澤さんの強いところですよね。私は神戸のニュータウン育ちで、親が買った分譲で育ったため、根っこにその感覚がありません。人は不便ならそこから動くものだと、どこかで思ってしまい、感情的な抵抗感が理解できない。しかし、その感覚だと、動きたくない人が失うQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の価値を低く見積もってしまいます。
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金澤氏:
事業を大きくしていくには、「共感」の力が必要です。売上はどれだけの人に支持をしてもらえているかを計る指標でもあります。そして、そこから利益を生み出すのは「理屈」の力であると考えています。
三宅氏:
つまり、事業を大きくし、売り上げを立てるのが「共感」、利益を作るのが「理屈」である、と。初めに共感がなければ売り上げがまず立たないんだから、理屈だけ作ったってうまく機能しないということですね。
金澤氏:
もっと言うならば、マネタイズとはコスト調整だと思っています。まずは共感からニーズや課題を見つけ出し、それを解決するソリューションを作る。しかし、このソリューションがあまりにも高コストだと、購入していただけない、つまり支持していただけなくなってしまいますが、アフォーダブル(入手可能)な金額まで調整することができれば、ユーザーが増え、ビジネスとして回り始めます「あいあい自動車」は、共感を得て、ニーズや課題を解決できるビジネスだと思っています。ですから、使っていただきやすい金額までコストを調整することがとても重要になります。シェアリングする、地域と連携する、IT化するといったさまざまな方法を組み合わせて、パズルのようにコストを調整しています。
三宅氏:
これまでの地方行政の考え方だと、「タクシー利用クーポン」を出すといったかたちで、移動の問題を解消する方策が取られがちだと思います。そうした方法では、なぜ駄目なのでしょうか?
金澤氏:
スマートシティ同様、そういった方法もいいと思います。ただ、どれか一つの方法だけで解決できる規模の問題ではないと思っています。例えば、すべての方の移動費を行政で負担し続けるというのは、なかなかイメージができませんよね。ほかにも、コミュニティバスという発想もあると思いますが、バス停までの移動が困難な方には利用が難しいという問題があります。一方、身体介護や認知症のケアなどは、専門のサービスを使うべきだとも思います。さまざまなサービスを組み合わせながら、総力戦で問題の解決にあたることが、とても重要だと考えています。
「あいあい自動車」は近年問題になっている生活の支援にも有効です。高齢者が自らの資金で利用できる程度にコストを調整し、気軽に利用していただけるようにするのが、私の仕事の一つだと思っています。
実証実験をしてわかった意外な障壁とは?
三宅氏:
売り上げを立てる「共感」というのは、具体的にはつまりどういうことなんでしょう?
金澤氏:
「あいあい自動車」に参加してくださる運転手は、お金がほしくてやっているわけではありません。10年後、20年後は自分たちが交通弱者になるかもしれない、という危機意識があります。となると、目の前に困っている人がいたら助けずにはいられないし、それが知っている人ならなおさらです。そこに、共感と人情があるんですね。ですから、「あいあい自動車」は“見える化”することを工夫しています。漠然と「世の中に対して良いことをしましょう」と呼びかけても、総論賛成だけどもなかなか動けない人が多いのが現状です。しかし、具体的に作業をモジュール化して、「この人がここで困っていて、あなたにはこういうふうに貢献できます」と、自身にできることを “見える化”することで、一歩を踏み出しやすくなります。それと同時に、「無理せずできるときにできるだけ協力いていただければいい」とお伝えしています。
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三宅氏:
いわゆる普通のカーシェアリングとの違いは、どんなところにあると思いますか?
金澤氏:
カーシェアリングは、基本的に運転できる人たちの間でのシェアになります。しかし、「あいあい自動車」は、運転できない人たちも含めてカーシェアリングしましょうという発想なんですね。それを道路運送法の特例を利用して実証実験を行っているというのが、今の状況です。首長さんや地域の方々が共感と理解を示してくれたからこそ、実施できているものだと思います。
三宅氏:
先ほども金澤さんのお母さんの話もありましたが、親戚やご近所が交通弱者の送迎を善意で担うことはあちこちで行われていたと思います。それを広げて、私的な頼み・頼まれ以上のサービスを自主的に行う集落があっても良かったと思うのですが、なぜ出てこなかったのでしょうか?
金澤氏:
自主的にやっている地域もありますが、そこでボトルネックになるのが「遠慮」という感情です。実際に「あいあい自動車」の実証実験をしてわかったことですが、「病院や行政の手続きなど公的な目的以外では使ってはいけない」と思っている高齢者の方がとても多い。やっぱり「知っている人に送迎してもらう」ということからくる遠慮があるんだと思います。
三宅氏:
つまり、「知っている人をこき使ってしまう」という感覚があるということですね。
金澤氏:
そうです。買い物だったり、食事だったり、美容室だったり、娯楽だったりの理由で利用するのは申し訳ないと遠慮する気持ちがどうしても働いてしまうということです。ちゃんと周りに申し訳が立つ理由でないと、なかなか使ってくれない。しかし、10年後、20年後に「あいあい自動車」で送迎してもらうかもしれない運転手たちも、病院や行政の手続きの用事でしか使えないのは困るはずです。また、高齢の方なので、予約する際に使うタブレットのUI(ユーザーインターフェイス)が問題になる場合もあります。もちろん、それも聞き取りをしながら改良し、実際に、コールセンターを設置するなどの工夫もしています。しかし、そうしたシステム上の問題と同時に、「心理的な障壁」もあるということがわかってきました。