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東南アジア最大のホテルチェーンへ
常識を覆す”異色の起業家”の夢の始まり

2018年06月25日

 世界中からツーリストが集まる観光大国・タイ。この地を拠点として、従来型のエコノミーホテルとは一線を画した斬新なビジネスモデルを創出し、東南アジアの観光業界に新風を吹き込んでいる日本人起業家がいる。ホテルチェーン・Kokotel(ココテル)代表の松田励氏だ。戦略コンサルタントとして大企業の新規事業立ち上げやベンチャー育成を経験し、あえて新天地でホテルビジネスに身を投じた松田氏。その起業の経緯とこれからの事業展望について話を聞いた。

東南アジアを拠点に家族向けのエコノミーホテルを創業

 プーケット島やサムイ島など世界屈指の人気リゾートを擁し、エキゾチックな伝統文化と現代的な都市文化が同居する魅惑の国・タイ。この地で、日本旅館のような「心~Kokoro~」のこもったおもてなしをコンセプトに掲げ、世界中の旅行者から厚い支持を集めているホテルチェーンがある。Newlegacy Hospitality社が運営する日本発のホテルブランド、Kokotel(ココテル)だ。

 Kokotel第1号店が、バンコクで開業したのは2016年2月。空きビルとなっていたオフィスビルを全面的に改装し、安心・安全かつ快適な滞在が楽しめる40室のエコノミーホテルに生まれ変わった。1階にはカフェやキッズスペースを併設し、家族で泊りやすいよう3、4人部屋も用意。ロビーを無くしてカフェを開設し、家族・仲間やスタッフとの交流が楽しめるアットホームな共用空間として利用できるようにした。

 その設備とサービス品質は、「安かろう悪かろう」の東南アジア・ホテル業界にあっては、まさに驚天動地。当地の常識を根底から覆した、全く新しいタイプのエコノミーホテルといえる。

 このKokotelを創業したのが、Newlegacy Hospitality社CEOの松田 励氏だ。といっても、松田氏はホテル業界の出身ではない。元・戦略コンサルタントという経歴を持ちながら、あえて土地勘のないタイに新天地を求め、ホテルビジネスを立ち上げた異色の起業家である。

Newlegacy Hospitality社
CEO
松田 励氏

 松田氏は新卒でIT企業に入社後、外資系IT企業に転職。ITバブル崩壊を機に、同社に投資していた東証一部上場コンサルティング会社、ドリームインキュベータに入社した。その後は戦略コンサルタントとして、大企業の新規事業立ち上げやベンチャー投資・育成を経験。ホテルビジネスの魅力に開眼したのは、2006年にマレーシアのホテル開発案件を経験したのがきっかけだった。

 「それまでは、日本と中国のIT・金融・通信業界の案件しか経験したことがなく、ホテルビジネスも東南アジアも初めての経験でした。その分インパクトも大きく、素人目線で見て気が付くことも多かった。高級リゾートホテルや日本のブティックホテルを別にすれば、どこに泊まっても代わり映えのしない、特徴のないホテルが多いですよね。もっとコンセプトに工夫してエンタテインメント性を高めれば、ホテルビジネスは面白くなるのではないか──と思い、大きなポテンシャルを感じたのです」(松田氏)

 元々、戦略コンサルティングの世界に骨を埋めるつもりはなく、いずれは海外で事業をしたいと考えていた。だが、新興国のビジネスチャンスへの期待だけが、東南アジアに注目した理由ではない。「前世は東南アジアにいたのではないかと思えるほど、”肌が合った”」ことも大きな理由だった。

 例えば、クライアントのホテル開発のため、現地で情報収集を始めると、競合であるはずの既存ホテルの総支配人が親身にアドバイスをしてくれる。その態度に、「共存共栄を図りながら、地域全体を盛り上げていこう」という懐の深さを感じたという。今まで経験したことのない、人と人との深いつながり──その開放的な雰囲気にすっかり魅了され、松田氏は東南アジアでのホテル起業への思いを募らせてゆく。

来るべきホテル大再編時代に備え、ホテルビジネスに進出

 2008年からの1年間、シンガポールの国費留学生として、米国コーネル大学のホテルスクールに留学。米国とシンガポールで半年ずつ学び、ホテル経営学修士号を取得した。
その後、シンガポールで世界的ホテルチェーンへの就職を目指したが、リーマンショックの余波で就職活動は難航。松田氏は同地で投資やコンサルティングの仕事をしながら、ホテルの現地事情を観察し、事業コンセプトを練り続けた。

 なかでも松田氏が注目したのは、東南アジアには「家族旅行に適したホテルがほとんどない」という事実だった。ホテルの部屋の広さは25㎡のツインルームが基本。建物の中に画一的なサイズの客室が並び、家族が一緒に過ごそうと思えば、スイートルームをとるしかないのが実情だ。

 また、東南アジアではラグジュアリーホテルとバジェットホテルの二極化が進み、一人旅中の女性が、安心して泊まれるエコノミーホテルを探すのは至難の業だった。結果として、一人旅の女性は、高額な費用を払わざるを得ない。

 多様化する旅行者ニーズに、ホテル側が応えきれていないという現実。そのニーズのミスマッチにこそ、商機があると松田氏は考えた。それはやがて、「リーズナブルで安心・安全、快適な宿」「家族で楽しめるファミリー向けのホテル」というKokotelのコンセプトに収斂していくことになる。

 一方、ホテルオーナー側の事情に目を転じると、そこにも様々な問題が見えてきた。

 「東南アジアには小さな独立系のホテルが多いのですが、そのほとんどがファミリービジネスです。不動産資産の保有が目的で、副業としてホテルをやっているケースが多い。インターネットの普及でホテル経営が複雑化していることもあり、ほとんどの人が『できれば辞めたい』と思っているのが現実です。

 中国でも以前は小規模ホテルが多かったのですが、2000年前後から、ホテルのチェーン化が急速に進みました。いずれ東南アジアでも、ホテル業界が転換期を迎えることは目に見えている。このビジネスチャンスを活かさない手はありません。そこで、既存のホテルを新しいコンセプトによって生まれ変わらせ、新しいホテルブランドを立ち上げようと考えたのです」と松田氏は述べる。

 2015年5月、松田氏は投資家の協力を得て、ホテルビジネスをスタート。検討を重ねた結果、1号店はタイの首都バンコクに出すことに決めた。新しいホテルのコンセプトは、「日本旅館のように、大切な家族や仲間と過ごせる場所」。ホテルの名称も、日本語のKokoro(心)にちなみ、「Kokotel」と決めた。

 2016年2月に1号店が開業すると、Kokotelはその斬新なコンセプトと、従来のエコノミーホテルの域をはるかに超えたサービスレベルの高さで、一躍注目を集めることとなった。ブッキング・ドットコムやアゴダ、トリップアドバイザーなどの大手旅行サイトでも、ユーザーから高い評価を獲得。現在はバンコク、プーケット島、クラビ、チェンマイに5店舗を展開し、今後は他国への出店も順次拡大していくという。

”Friends and Families serving Friends and Families”

 現在、Newlegacy Hospitality社の従業員数は、店舗で約150人、本社で約50人。日本人とタイ人の様々なバックグラウンドを持つ人材が結集して、ホテル運営に取り組んでいる。

 そんな中、ホテルチェーンとしての求心力と品質を高めるために、同社ではどのような人材マネジメントや経営管理上の工夫を行っているのだろうか。

 「まず店舗においては、従業員のサービスマインドを高めるための意識付けを行うと同時に、バックオフィスの業務品質を高めることも重要です。例えば、飲食部門の売上を増やして客単価を上げるためには、どのような工夫をすればいいのか、バックオフィスの作業ミスを防ぐにはどうしたらいいのか──といったことも、ホテル経営においては重要になってくる。そこで、品質管理を各店舗に一任せず、店長の上にアドバイザーを置き、店舗指導を行う体制を整えました。また、日本の5つ星ホテルでの勤務経験がある女性スタッフを、初代クォリティ・マネジメント部長に任命し、品質管理を属人化しないための仕組みづくりに着手したところです」と松田氏は語る。

 一方、本社部門はどうか。これまで松田氏は、ホテル業界で実績がある人材を採用し、重要ポストに登用してきた。しかし、大手ホテルでの実績が、新興ホテルでそのまま通用するとは限らない。ある分野のプロを採用して仕事を任せても、成果を出せないまま辞めてしまうことが多かった。

 「大きいホテルで完成された仕組みを回していた人が、小さいホテルに来て、ゼロから組織を作り上げるのは容易ではありません。とはいえ、採用面接で『私にできるのはこれだけ。それ以外の仕事はできません』と言える人はほとんどいない。そもそも、自分に何ができて何ができないのか、本人にさえわかっていないのが実情です。むしろ僕の方が、相手の能力をしっかり見極めて、不足している部分をサポートするべきだったのに、それができなかった。要は1つのチームになっていなかったのです。それは、私自身の暗い経験です」と、松田氏は苦しい胸の内を明かす。

 スタートアップ企業が新しい文化を創っていくためには、信頼関係で結ばれたチームを作ることが欠かせない。そのためには、会社を構成するメンバー同士が全人格的な付き合いを深め、絆を強めていくことが重要だ──そう痛感した松田氏は、社内のコミュニケーション強化のための施策を実施。同社のモットーは”Friends and Families serving Friends and Families”。松田氏自身も、様々な機会をとらえて経営幹部や社員とのコミュニケーションを深め、チームスピリットの醸成に努めているという。

これからも常識を超えたWow!を創り続けていきたい

 コンサルタント経験者が起業する例は少なくないが、専門領域とは全く異なる分野で起業する例は珍しい。その舞台が、赴任経験のない新興国となれば、なおさらである。なぜ、松田氏は、あえて“茨の道”を選んだのか。

 「ドリームインキュベータ時代、インドで日系企業の新規事業立ち上げに携わったことがあります。インドは東南アジアと比べて仕事が格段に厳しく、移動や食事、コミュニケーションなど、全てがカルチャーショックの連続でした。そんな厳しいビジネス環境の中でも、少しずつ人間関係を作り、信頼関係を作ることによって、新規事業のプロデュースを進めることができた。『あのインドでできたのだから、他の国でも何とかなるはずだ』という根拠のない自信が、自分を支えてくれたような気がします」と松田氏は振り返る。

 今後はタイのみならず、東南アジアとインドでKokotelブランドを展開。1000店舗開業を目標に掲げ、東南アジア最大のホテルチェーンを目指して事業を拡大していくという。また、Kokotelで培ったノウハウを活かし、新たなコンセプトのホテル出店も計画中。さらに、不動産オーナーからアパートの運営を受託し、その収益化を請け負う事業もスタートさせた。

 「これからも、不動産オーナーとゲストのために、常識を超えたWow(ワオ)!を創り続けていきたい。それも、設備やデザインなどのハードウェアに頼らず、挨拶や笑顔といったソフトウェア面のWow!を数多く創っていきたいですね」と松田氏。ホテル滞在がゲストの一生の思い出になるような、感動を提供し続けていきたい、と抱負を語る。

 来るべきホテル大再編時代の到来を予見し、東南アジア全域とインドでのチェーン展開に向けて、着々と布石を打つ松田氏。その気宇壮大なチャレンジを根幹で支えているのは、戦略コンサルティングで磨いた緻密な思考と、1回限りの人生にWow!を求めてやまない熱き情熱なのかもしれない。

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