ここから本文です。

地方創生現場を徹底取材「IT風土記」

山形発、地域産業の情報発信を支えるITとは?

2016年02月22日

〝ウィンウィン〟を東北全域に

ダイバーシティメディアの吉田淳一さん

 サプライズ商店街を運営しているのは山形市あこや町のダイバーシティメディア(吉村和文社長)だ。旧社名はケーブルテレビ山形。1994(平成6)年の開局で、地元での知名度をテコに約350の加盟店を集めた。加盟店からは情報配信料をもらう。1か月3,000円からで、3,000円だと店は1ヶ月に15回、つまり2日に1回発信できる。5,000円払えば月30回で毎日発信可能だ。店側は情報発信で集客を図れるし、運営側は毎月100万円以上、1年で1,000万円を超す売り上げが見込める。お互いにウィンウィンの関係なのだ。

 昨年暮れからは青森、岩手、宮城の周辺3県にも広がった。各県のケーブルテレビ会社の協力を得て地元の加盟店を開拓し、山形と同様のビジネスモデルを展開しようというねらいだ。今年中には秋田でも着手し、将来は東北全域に連携を構築していきたい考えだ。「地元密着型の店の集合体が集まれば大きなビジネスができる」と同社の取締役営業局長の吉田淳一さんは張り切っている。

ロケ地情報の提供も

やまがたロケーションガイド画面

 このダイバーシティメディアはもうひとつ、ユニークな事業を展開している。「やまがたデジタル奥の細道21世紀プロジェクト」だ。

 豊かな自然に恵まれた山形は国内有数の映画撮影地にもかかわらず、戸外撮影に最適なロケ地を提案できずビジネス機会を逸していた。そこで山形県内の知られざる風物を動画でストックし、地図や気象情報などロケに必要な情報とともに映画制作会社に提供する。事業に関わる人材が育成できるし、ロケ誘致が成功して映画やCM、テレビ番組などの露出が増えれば国内外からの観光客需要が増す。ロケに関わる交通や宿泊、飲食など関連産業も潤うだろう。この企画は総務省が公募した2011年度のICT利活用のモデル事業に選ばれ、約1億2,000万円の補助金を獲得した。

ロケーションガイド(経度緯度情報と地図画面)

 「奥の細道プロジェクト」のサイトには山形市相生町の明治時代の病院跡など、知る人ぞ知る映像が満載だ。いずれもケーブルテレビ局の制作スタッフならではのスキルを生かして季節や時間を変えて撮り、約30秒の動画にまとめた。コンテンツは2015年3月末の時点で約900揃った。

 撮影隊はこのコンテンツをロケ地の候補にするわけだが、実際の撮影は簡単ではない。時代劇では「電柱のない場所」が絶対要素だし、そもそもプロは人真似でないオリジナル性を求める。既存の観光地や誰かが1回使った場所は撮りたがらない。ロケーションハンティングに来た人はみな「誰も知らないところに連れていけ」と言う。

「奥の細道プロジェクト」のキーマン、田宮政彦さん

 ここで活躍するのが同社の制作担当で日本ケーブルテレビ連盟の東北支部事務局長を務める田宮政彦さんだ。山形生まれの山形育ちで釣りが趣味。人がめったに行かない場所を知っている。だが、そういう場所には例えば○○川のほとり、というだけで、所番地がない。だからGPSのデータを使って緯度・経度を示して場所を特定して現地に案内するのだ。

 これまでにロケ地として採用された映画には東山紀之主演の「小川の辺(ほとり)」(2011年)や、佐藤健主演の「るろうに剣心」(2012年)などがあり、未発表のテレビドラマやCMも入れればかなりの数にのぼる。

 大きな映画の撮影隊は平均で約150人。撮影に20日くらいの時間をかけるので宿泊・食事・移動などで最低でも1本約1億円のお金が落ちる。彼らが山形で見たり聞いたりした経験を撮影後に周辺に伝えてくれれば生きた口コミになり、観光客増にもつながる。

 課題はこの事業のキーマンが田宮さんと山形市の職員とのふたりしかいないことと事業収益をどう確保するかだ。前述の吉田さんは「国の補助金でサイトをつくり、事業はマンパワーで順調に滑り出して成果も出ている。これを実際のビジネスにどうつなげていくか。観光ポータルと一緒にやるとか、なにか手立てを考えたい」と話す。ITを地元経済に生かすユニークな取り組みの今後を見守りたい。

関連キーワードで検索

さらに読む

本文ここまで。
ページトップ