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地方創生現場を徹底取材「IT風土記」

瀬戸内発 動き出した観光7県の連携、日本版DMO成功占う試金石

2016年10月03日

「郷土愛と危機感」持つ事業者への投資

 せとうちDMOの構成会社で、地元の金融機関や域内外の事業会社でつくる瀬戸内ブランドコーポレーション(広島市)の水上圭社長は「これまでの組織では、公的資金をもらって、何かに使って終わるというケースも少なくない。せとうちDMOは、ファンドの投資を起爆剤にしたプロジェクトを成功させることで、投資家にリターンを生むという好循環を狙う方法であり、このスキームを軌道に乗せることは日本版DMOを普及させるきっかけになるはずだ」と話す。

 ファンドの資金を活用し、リターンを実現していくには、さまざまな案件から、成功の可能性が高いものを見極める「目利き」の力が何よりも重要になる。証券会社を振り出しに、投資の世界を歩んできた水上社長が、経験と能力を発揮する最高の舞台といえる。水上社長は、目利きのポイントは「郷土愛と危機感」という。地元を愛する気持ちと、現状に胡坐をかかないという強い気持ちが、事業を成功へと導くのだという。水上社長は「瀬戸内地域を一つの企業とみなし、その成長と企業価値の最大化を目指す」と意気込む。

「しまなみ街道など瀬戸内はサイクリングの魅力も」と水上社長

 村橋事業本部長は「観光事業は、どうしても同質化に向かう傾向がある。外国人観光客に人気のある東京や京都と同じことをしても意味がない」と言い切る。独自の価値観を世界に発信し、まず、世界で認められることが成功への突破口と考えるからだ。北海道のニセコは、オーストラリア人が多数訪れることで、日本人の観光客をも呼び戻すことに成功した。村橋事業本部長は「東京も10年前は外国人観光客を受け入れる体制が十分だったわけではない。まず、成功例を増やして、インバウンドを取り込むこと。われわれは、地域の人たちの意欲を引き出す焚き付け役でもある」と話している。

せとうち観光推進機構の村橋事業本部長
瀬戸内ブランドの商品を紹介する水上社長と村橋事業本部長

DMOを魅力ある仕事に

 観光マーケティングや地域ブランドを研究している近畿大学経営学部の高橋一夫教授は、将来の地方の観光振興政策の課題として、産官学の連携によるプロ人材の育成をあげる。日本で走り出したばかりのDMOを成功に導くには、「ビジネス経験のある優秀な人材が、DMOをマネジメントし、成功を積み上げ、若者にとって魅力ある職場にすること」が何よりも大切になる。せとうちDMOは、異業種の大企業が参画し、人材を派遣しているのも大きな特徴のひとつだ。瀬戸内ブランドコーポレーションでビジネスソリューションの企画・開発を担当する、NEC新事業推進本部から出向中の幸田拓也プロジェクトリーダーは「メンバーそれぞれが、出向元組織のレバレッジをいかし、観光に関わる地域事業者のビジネスの役に立てるサービスを提供したい」と意気込む。

近畿大学経営学部 高橋一夫教授

 DMOの人材育成に向けた動きはすでに始まっている。経済産業省の2016年の「産学連携サービス経営人材育成事業」に、近畿大学が応募した「観光地経営を担う日本版DMOの人材育成プログラム事業」が選ばれた。高橋教授は「社会人を中心に、観光地経営のプロ人材の養成を目指す第一歩になる」と話す。産官学が連携し、日本版DMOを大きく育てていくことができるのか。最も先端的な取り組みとの評価が高い、せとうちDMOが、その突破口になることを期待されている。

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