地方創生現場を徹底取材「IT風土記」
瀬戸内発 動き出した観光7県の連携、日本版DMO成功占う試金石
2016年10月03日
瀬戸内の観光ブランド化を推進する「せとうちDMO」は、観光地の活性化を通じ、地域全体を一体的に経営することを目指す「日本版DMO」の成否を占う試金石だ。兵庫、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛という広域7県の観光ブランド力を結集し、瀬戸内エリアへの誘客を促進し、地方創生につなげていくという青写真をどう実現するのか。かじ取り役たちの具体的な戦略と成功への青写真が明らかになってきた。
世界で一番美しい内海
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「2020年の瀬戸内のあるべき姿は、瀬戸内が一度ならず二度、三度と訪れてみたい場所として定着していることだ」。せとうちDMOの中核組織のひとつである、せとうち観光推進機構(広島市、会長・佐々木隆之JR西日本相談役)の村橋克則事業本部長は、こう強調する。「瀬戸内ブランドの確立による地方創生(地域再生と成長循環)の実現」というミッション(使命)を果たすためには、マーケティング活動による瀬戸内エリアへの誘客の促進が第一関門になることは間違いないからだ。
DMO(Destination Management/Marketing organization)とは、観光地(Destination)を活性化させて地域全体を一体的にマネジメントする組織のことを指す。せとうちDMOがまず照準を合わせたのは、近年増え続けているインバウンド(訪日外国人客)の取り込みだ。そのためには、大小700以上の島々と鏡面のように青く輝く海が織りなす幻想的な景観から、「世界で一番美しい内海」と評される瀬戸内の魅力を、世界にどう発信するのかが重要になる。村橋本部長は「訪日経験が豊富で日本に対する関心が高く、じっくり旅を楽しむ旅行客が多いのは台湾、中国、欧米だ」と話し、こうした国や地域を対象に、積極的なマーケティング戦略を展開している。
例えば、今夏台湾で開催された食の祭典「台湾2016美食展」に瀬戸内ブースを出展し、瀬戸内の柑橘類や小魚を加工した商品の試飲や試食を催したほか、1日200食限定のお好み焼きの実演販売を行うなど、地元の食をPRした。また、英語圏の富裕層向けの旅行会社「トラファルガー」が開催した営業戦略会議の場では、世界各国の経営幹部やトップセールス社員、ツアー造成担当者ら約100人を前に瀬戸内エリアのプレゼンテーションを実施し、瀬戸内全域を横断する視察ツアーも実施した。
6つのブランディングテーマ
瀬戸内全体を俯瞰し、個別に存在する観光資源をひとつにまとめ、瀬戸内ブランドの価値を最大化するために、せとうちDMOでは瀬戸内らしさをコンセプトにしたテーマを設けている。具体的には、瀬戸内の歴史・文化を語るうえでも欠かせない穏やかな内海をいかした「クルーズ」、しまなみ海道など瀬戸内の各地を駆け抜ける「サイクリング」、歴史的・文化的資産を含む「アート」、瀬戸内の味が堪能できる「食」、多彩な風情が堪能できる「宿」、農水産物加工品や伝統工芸品などの「地域産品」の6つのブランディングテーマだ。
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第1のテーマに掲げた「クルーズ」については、すでに大きな動きがあった。瀬戸内の多島美と食を満喫できるハイエンドな宿泊型瀬戸内クルージングを2017年9月に始める計画を掲げる地域活性事業会社、せとうちホールディングス(広島県尾道市)傘下のせとうちクルーズ(同)に対する資金支援だ。
尾道市にあるベラビスタマリーナを出発・寄港地とし、中四国の瀬戸内海沿岸の景勝地を周遊。宮島・松山・大三島・丸亀などに寄港地では、その土地の文化を象徴する特別なアクティビティを楽しめるというこのプロジェクトに対し、7県の地方銀行や日本政策投資銀行などの出資で組成された「せとうち観光活性化ファンド」を通じ、クルーズ船の建造資金の一部を拠出し、このクルーズ船の事業開発を支援するものだ。