地方創生現場を徹底取材「IT風土記」
栃木発 開発のきっかけは都市伝説?高級・完熟イチゴを海外に 可能性広がる自動収穫ロボット
2017年04月28日
イチゴ生産量日本一を誇る栃木県にある宇都宮大学で、収穫から店頭に並ぶまで果肉に一切触れずに出荷できるロボットの開発が進められている。人工知能で制御されたロボットがイチゴの完熟度合いを見極め、イチゴの実がついたつる枝をつまんで収穫。果肉が接触しないよう工夫された容器に一つずつ収納する。完熟状態で出荷しても10日以上傷むことがないという。栃木県はイチゴの高級品種「スカイベリー」の売り込みに力を入れているが、この方法で出荷できれば、海外の富裕層向けの市場が広がることが期待される。
「いちご王国」を悩ます輸出の壁
栃木県は1968年からイチゴ収穫量日本一を維持し続けている。年間の収穫量はおよそ2万5000トンで、全国の約15%を占めている。「東京をはじめとする大消費地に近いという地理的なメリットに加え、「冬の日照量が長く、昼夜の寒暖差が大きいなどの気候条件が、おいしいイチゴを育てている」と、栃木県農政部経済流通課の後藤知昭副主幹は長年にわたりトップに君臨しつづける理由を解説する。品種改良に力を入れ、「女峰」「とちおとめ」といったメジャーブランドを育種。全国で初めて農業試験場の中にイチゴの育種を専門的に研究する「いちご研究所」を設置するなど県を挙げて生産振興に力を入れてきた賜物だ。
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収穫量、作付面積、産出額ともに王座に立ち、「いちご王国」を自負する栃木県だが、トップに立てない分野がある。海外向けの「輸出」だ。16年の輸出実績はわずか444キロ。17年は約2倍の1トンの輸出を目指しているが、15年の全国の輸出量が408トンだったことを考えると、信じられないような低さだ。日本のイチゴの輸出先の大半を香港と台湾が占めているが、東日本大震災による原発事故の影響から栃木県の農産物の輸出を禁止しているためだ。
このため、県は2016年から輸出規制のない東南アジア諸国をターゲットにしたイチゴ輸出に本格化させ、今年1月にはシンガポールの有名レストラン10店舗で試食会を開催するなどのPR活動を展開。県が2011年に品種登録した高級品種「スカイベリー」を投入して輸出拡大を目指している。「スカイベリー」は1粒約25グラム以上と大粒ながら、イチゴらしい円錐形を保ち、糖度と酸味のバランスがいいという特徴を持つ。福岡県の「あまおう」や佐賀県の「さがほのか」といった県外の高級品種に対抗する品種として大きな期待を寄せている。
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東南アジアでは、米国や豪州からイチゴを輸入しているが、日本産に比べ、イチゴの皮が硬くて、酸味も強く、ジューシーさがないという。県産イチゴの輸出を手掛けているユーユーワールド(宇都宮市)の手塚靖・営業企画開発推進室長は「現地で日本のイチゴを試食してもらうと、『これが本当にイチゴ?』と口をそろえてびっくりされる。価格は高いのですが、富裕層を中心に購入してもらってます」と手ごたえを感じているという。
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