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2021年07月28日

「意志共鳴型社会」へとつながる、多世代交流としての教育
――NEC未来創造会議・共創レポート

技術ではなく感情から未来を考える

 1903年に創立し、長い歴史を誇りながらも新たな学校教育のあり方を模索してきた東京女子学園 中学校・高等学校が、イノベーションが必要となる社会を前提に新しい価値を生み出すべく2020年に新設した「未来創造コース」。NECが2017年から開始したNEC未来創造プロジェクトは設立前から同コースに携わっており、昨年は「未来想像(Imagination)」をテーマとした授業を実施している。

 NEC未来創造プロジェクトと東京女子学園の共創はその後も発展し、今年は「未来創造(Creation)」をテーマとした授業を行なった。昨年度のプログラムは、NEC未来創造プロジェクトがこれまで有識者との議論のなかから見出してきたアイデアなどをもとに生徒たちがオルタナティブな未来を想像するもの。その成果を踏まえて行われた今年度のプログラムは、「未来創造」の名が表すとおり、自身の考える未来を提示し、その実現のために必要な行動や技術を提示するものとなった。

東京女子学園校長 河添 健氏

 「多くの生徒たちが、機械やテクノロジーではなく感情やライフスタイルについて語っていたことに驚かされました。彼女たちはセンサーやAIといった技術をあくまでも人々の幸せのために使うものとして見ていて、人の幸せから未来を考えようとしている。これまでのようにテクノロジーから未来を考えるのではなく、新しい尺度を取り入れる重要性を実感しました」

 そう言って、東京女子学園校長の河添健氏は驚きとともに授業を振り返る。7月に行われた「未来創造(Creation)」プログラム最後の授業では、20名以上の生徒がひとりずつ自分の実現したい未来を提示し、その未来を実現するうえで障壁となる「壁」とそれを乗り越えるための手段を発表した。「誰もがお金に困らず自由に生きられる」「画面の中の“推し”に会いに行く」「動物が病気にならない未来」「いまと少し違う民主主義」――生徒の語った未来は、自然環境に関わるものからエンタメを進化させるもの、新たな政治のあり方を予感させるものまでさまざまだが、河添氏が語ったように、その多くが最先端のテクノロジーに彩られた紋切り型の「未来」ではなく、一人ひとりの思いに基づいたものだった。

生徒一人ひとりが、自分でつくったスライドに沿って発表を行なった

「想像(Imagination)」から「創造(Creation)」へ

 「わたしたちNEC未来創造プロジェクトは2050年の未来を想定してさまざまな取り組みを進めてきましたが、べつに2050年に何が起きるかわかるとは思っていません。なにか正解を探しているわけではなく、一人ひとりが未来に向けてチャレンジするために集まっています。そのことを今回の授業でも生徒のみなさんに知っていただきたかったんです」

 NEC未来創造プロジェクトメンバーの青木勝はそう語り、授業のなかでも技術ではなく心や人にフォーカスしながら未来を考えていけるよう心がけていたことを明かす。今回のプログラムでは、本プロジェクトが有識者との議論から生まれたアイデアをカード形式にまとめた「HiNT for 2050」を活用するとともに、シンクタンクのリサーチャーや起業家、ジャーナリストなど何人ものメンターが授業に参加し、生徒たちと議論を重ねていたのだという。

今回の授業を振り返るNEC未来創造プロジェクトメンバーと東京女子学園の教師陣

 今年度の授業を担当した東京女子学園の小林氏は「昨年の授業で注力した想像(Imagination)は具体的なヒントが多く生徒も取り組みやすかったように思いますが、創造(Creation)はゼロから生徒が考えなければいけない部分が大きく難しかったですね」と語る。「でも大切なのは結果よりプロセスですし、多くの生徒が悩みながら同級生やメンターの方々と対話を重ねていけたことがよかったなと感じます。わたしたち自身にとっても勉強になりました」。小林氏に応答するように、本プロジェクトメンバーの福田裕希も「自由に発散できる想像と異なり、創造は具体的に課題と向き合わなければいけないから難しい。わたしたちも生徒にヒントを与えすぎず、きちんと対話から交流が生まれるよう意識していました」と語る。

 東京女子学園やNEC未来創造プロジェクトメンバーの試行錯誤のなかで生まれたこのプログラムは、生徒にとっても刺激となったようだ。生徒のひとりは「これまでは未来に対して不安な気持ちが大きかったのですが、この授業を通して希望をもてるようになりました」と語り、またべつの生徒はつぎのような変化があったことを明かす。「多角的な視点をもてるようになりました。自分の考えだけで未来は実現できないのだな、と。よりよい未来をつくるためにどう行動すればよいのか、いろいろな人の視点から学べるようになりました」

生徒の多くが、自身の生活も変わっていったことを明かした

多世代交流を進めることで生まれてくるもの

 生徒や教師たちの発言が示唆しているように、今回のプログラムはただ新たな教育の形を提示するものではない。プロジェクトメンバーの福田浩一が「昨年度と今年度、12回の授業を通じて、このプログラムは多世代交流を実践してきました。世代を問わず未来像について議論することで、生徒の考える力を育むことにつながったのではないかと感じます」と語るように、その重心は世代を超えた交流を生み出すことを通じて多世代が学び合う環境をつくることにある。

 多世代交流は、授業の内外を問わずさまざまな場所で起きていたようだ。東京女子学園の難波氏は「教師ひとりの授業では限界がありますが、複数の科目の教師や生徒たちと、NECやメンターのみなさんが交流することで、学校の枠組みを超えられたように思います」と語り、メンターを務めた教育ジャーナリストの後藤健夫氏も「教員ばかりが教えようとしなくても、生徒自身がみずから学んで吸収してくれることに気付かされました。ただ生徒に課題を提示するのではなく、ともに対話しながら未来を考えていくのが重要なんですよね」と本プログラムが教師と生徒という関係性をも緩やかに変えていったことを明かす。

最後の授業にはメンター陣も参加しフィードバックを行なった

 他方で、生徒からも「メンターの方々など世代を超えた方々と話すことで自分のもっていない考え方を得られました」「年の離れた姉や父と話す機会も増えました。自分とはべつの世代の人々に対する興味も湧いたんだと思います」と声があがった。「未来想像(Imagination)」や「未来創造(Creation)」といったテーマや、そのなかで紹介された「HiNT for 2050」といったツールからは先端的な未来が想起されがちだが、むしろ授業を通じて人の動きや感情を意識するようになった生徒は少なくないようだ。

 新たなプログラムを通じて生徒に新たな学びを与えることはもちろん大事かもしれないが、かといってその変化が授業のなかだけに留まっていては意味がないだろう。今回の「未来創造(Creation)」プログラムが多世代交流の実践を通じて生徒の生活をも変えていったように、べつの授業や学校での生活、世界の見方などさまざまな側面を変えていくことこそが重要なのかもしれない。

生徒のひとりは授業を振り返り、好奇心が刺激されたと語る

学び合いが実現する意志の共鳴

 「これまでわたしは、ごく一部の人の熱意が未来を切り開いていくのだと思っていました。でも、今回の授業でみんなと話していくなかで、それは限られた人ではなく、一人ひとりが強い思いをもって未来を実現するために生きているのだと気付かされました。仲間たちが考える未来やそれを実現する熱意を知り、ひとりではなくともに素晴らしい未来をつくっていけるのだと思うようになったんです」

 とある生徒は、昨年度から始まったこのプログラムを振り返って、そう語った。ひとりに閉じてしまうのではなく、同じ熱意をもった人々とともに未来をつくること。それは本プログラムに限らず、NEC未来創造プロジェクトが発足当初からめざしていたことでもあり、2018年に提示した「意志共鳴型社会」という未来のコンセプトそのものでもあるだろう。

発表を控え緊張した表情を浮かべる生徒も少なくなかった

 プロジェクトメンバーの青木は「共感に留まらず、世代を超えて多様な人々と共鳴を起こすこと。今回の授業はわたしたちの仮説を形にすることでもありました」と語り、同じくメンバーの岡本克彦も次のように続ける。

 「たとえば2019年度にわたしたちが行なった有識者会議ではLEARNING/UNLEARNINGをテーマに、これまでの常識や固定観念をUNLEARNINGしながら未来の“当たり前”に向かって学んでいく可能性について議論しました。今回の授業はまさに、次世代と共鳴しあいながらそんな“当たり前”をつくるものだったと感じています」

 NEC未来創造プロジェクトは意志共鳴型社会の実現に向け、多くのステークホルダーとともに共創プログラムの実践を進めている。本プロジェクトが2050年の未来を想定していることを考えれば、「学習」や「教育」が極めて重要な意味をもつことは言うまでもないだろう。ただ知識を覚えたり技術を習得したりするのではなく、自分のみならず周囲の人々と影響を与えあいながら未来に向かって変化しつづけていくこと――まだ見ぬ未来をつくる「共鳴」とは、この授業が可能にした学び合いのなかからこそ生まれてくるのかもしれない。

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