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2021年11月30日

対話と合意形成が未来の「コモンズ」をつくる
――Z世代と実践する未来社会のプロトタイピング

 シンギュラリティを超えた2050年の社会を考えるべく2017年に始動したNEC未来創造プロジェクトが、科学と社会をつなぐ配信イベント「サイエンスアゴラ2021」でセッションを開催した。「『未来の共感』は"New Commons"から生まれる」と題されたこのセッションは、同プロジェクトが2020年から東京女子学園で行った授業を経て生まれたもの。高校生が考えた未来社会のアイデアを具体化すべく集まったデザイナーと未来コンサルタント、NEC未来創造プロジェクトメンバーは一体どんな対話を重ねたのだろうか。

NECと東京女子学園の共創がもたらすもの

 「わたしたちNEC未来創造プロジェクトは、昨年から今年にかけ東京女子学園で12回にわたる未来想像/創造授業を行いました。この授業は、生徒のみなさんに弊社のソリューションを体験してもらったりNEC未来創造会議を経て生まれたツールキット『HiNT for 2050』を使って議論したりしながら、個々人が自分の目指したい未来を考えるもの。その結果、単にわたしたちが生徒に教えるのではなく共に学びあうような体験が生まれました。これこそがわたしたちの考える次世代教育/多世代交流のあり方だと考えています」

 NEC未来創造プロジェクトの一員として東京女子学園との授業をモデレートした福田浩一はそう語り、同プロジェクトが昨年から積極的にさまざまなステークホルダーと共創の取り組みを行ってきたことを明かした。2017年に始動した同プロジェクトはこれまで有識者を招いて目指すべき未来のあり方について議論を重ねてきたが、昨年から共創や実装を行うフェーズへと移っている。人が豊かに生きる未来像として「意志共鳴型社会」というコンセプトを提唱し、社会の成長・発展と地球の持続可能性、個人のWell-beingを同時に実現するためには新たな価値基準・共有財であるNew Commonsをつくるべきだと考え、「ダイアログ(対話)→コモニング(合意形成)→コモンズ(共有財)」という3つのステップを通じたワークショップを広げようとしているという。

NEC未来創造プロジェクトメンバー 福田 浩一

 2020年から行われた東京女子学園での授業は、まさに同プロジェクトが考える「共創」を体現するものだといえよう。全12回の授業のうち「未来想像」と名付けられた前半は、これまでNEC未来創造会議が培ってきた知を生徒たちと共有することで技術や社会の変化を踏まえながら生徒たちと未来を想像するもの。後半の「未来創造」を行う授業では、一人ひとりの生徒が実現したい未来を言語化するとともに、ICTを使ってその未来を実現する方法や実現に向けた課題を考えていった。

 「昨年度からわたしたちは、これまでの教科学習とは異なる授業を設定しています。 学校外の方も交え、いろいろな世代と交流しながら生徒が主体的に学べる授業をつくっています。今回の取り組みではNECのみなさんが粘り強く生徒の未来への好奇心を引き出してくださり、授業後に大きな変化を感じました。待っていれば自動的に未来がやってくるのではなく、自ら進んで行動することで未来を変えられる、一人ひとりが社会に対して何が出来るかを強く意識するようになりました」

 そう言って、東京女子学園の小林智美氏も授業を振り返る。VR/AR技術を活用し新たなコミュニケーションを生み出すものから、サプライチェーンの透明化によってフードロスをなくすもの、さらには電子民主主義を実現するものまで――数十名の生徒が提示した未来は実に多様であり、一人ひとりが自身の関心に沿って未来を考えたからこそ生まれたものだといえる。そんな取り組みを授業内のワークショップに留めるのではなくさらに広げていくために、「サイエンスアゴラ2021」へ未来想像/創造授業に関わった人々が集ったというわけだ。

東京女子学園 小林 智美氏

消費者が社会問題の解決に貢献できる社会をつくるために

 今回のセッションで取り上げられたのは、生徒を代表して参加した内海怜子氏の考案した「消費者が社会問題の解決に貢献できる社会」という未来像だ。内海氏は持続可能な社会をつくっていくために消費者がきちんと主体的に判断できる環境をつくることが必要だと述べる。

 「すべての商品の製造過程を把握できるようにし、環境に配慮されているか、労働環境は正常かなどを理解したうえで消費者が購入するか判断できれば、消費者が社会課題の解決に貢献できるのではないかと考えました。そのためには商品に関するさまざまな情報を正確に記録するとともに可視化するような仕組みが必要です」

 内海氏はそう語り、しかし実現には多くの壁があると続ける。たとえば従来のシステムでは商品に関する膨大な量の情報を管理・整理することが難しい上、製造工程を可視化できたとしても、一つひとつの商品すべての情報を確認していたら購入するかどうか即時に判断することは難しくなってしまうだろう。

東京女子学園 高校2年 内海 怜子氏

 「テクノロジーの活用によって、こうした壁を乗り越えられるかもしれません。ブロックチェーン技術を使えば膨大な量の取引情報を管理できますし、一定の間商品を使用した際のシミュレーション結果を合わせて公開すれば、品質も保証されます。さらに、第三者機関が商品の情報を元に評価づけを行うことで、消費者はもっと判断しやすくなると思います」

 内海氏は「まずは自分自身が消費者として責任をもち、商品を見極めてから選ぶようにしたいです。特に社会課題や環境問題の解決に取り組む企業の商品は活動を応援する意味でも進んで購入していきたいと思います。持続可能な社会の実現に向けて生産者側に変化を求めるなら、まずわたしたち消費者から変わっていかなければならないと思うから」と述べ、いまの自分でもできるから始めていきたいのだと説く。

 内海氏の発表を受け、本セッションのモデレーターを務めたNEC未来創造プロジェクトメンバーの岡本克彦は「会社に勤めている人々は消費者であると同時に生産者でもありえますよね。両者を切り分けずに捉えることで内海さんの目指す未来にも近づけそうです」と語り、福田(浩)も「情報を受け取って判断・行動するのは人です。人と技術は一緒に考える必要があり、技術ですべて解決するのではなく人を動かすアイデアを技術で叶えることで社会は変わるはずです」と内海氏の着眼点に共感した。今回の授業にメンターとして参加した三菱総合研究所 白井優美氏はコロナ禍以降の社会の変化を受けて次のように語った。

三菱総合研究所 白井 優美氏

 「コロナ禍以前、CSR活動として環境問題への取り組みを行っている企業は多くありましたが、SDGsが浸透したこともあり、企業理念として持続可能な社会の実現に貢献することを打ち出すところも増えてきました。また内海さんのような若い世代を中心に消費者の意識も変わってきており、サステナブルな商品・サービスの価値も上がってきています。一方で、サステナブルかどうかの判断は単純ではない側面もあります。例えばレジ袋が有料になってエコバッグに切り替えることが、生活行動をトータルでみてSDGsに貢献すると”真に”いえるのか。MRIの提唱する新と真をかけた『しん・もったいない』のように、新しい概念をつくりながら検討していく必要があると感じました」

 白井氏の指摘を受け、授業の運営を担当し本セッションにも参加したプロジェクトメンバーのひとり、福田裕希も「SDGsが企業のパフォーマンスやPRに利用されることもありますよね」と頷く。「内海さんは授業の中でも電子民主主義のアイデアを出していましたが、建前だけではなく一人ひとりの考えていることがフラットに出せるような仕組みがつくれるとこのアイデアも解決につながっていくかもしれません」

Konel 加藤 なつみ氏

異なる価値観が交差する多世代“共”育

 他方でこれまでNEC未来創造プロジェクトとともにさまざまな未来像のプロトタイピングを行なってきたKonel 加藤なつみ氏は、内海氏の考える未来像を具体化するためのアイデアを提示した。

 「わたしたちはNEC未来創造会議のみなさんと、プロセスの重さを体感できる『TRACING Ball』というプロダクトを“妄想”してみました。これは、商品の生産にかかった労働力や環境負荷が大きければ大きいほど重くなるボールをつくるというもの。たとえば衣服を買うときに産地や素材、CO2排出量など文字だけを見てもその重みを感じにくいため、複雑な情報を意識せずに商品の重さが体感できるツールがあればいいのではないかと考えました」

Konelと未来創造プロジェクトが考えた「TRACING Ball」

 もちろんテキストベースの情報も重要なことは間違いないが、「重さ」という異なる単位へと環境負荷や労働量を変換することで商品の見え方も変わってくるだろう。加藤氏の提案を受け、白井氏はどう重さを決めるかが重要になりそうだと語った。

 「時間がかかっているほどいいのか、発展途上国の労働や児童労働を一緒くたに時間で数えてしまっていいのか、重さへ変換する仕組みづくりは難しそうですね。もしかしたら重みだけではなく香りや音楽など、同時に別の感覚へアプローチしてみることで体験も変わっていくかもしれません」

 福田(裕)も「環境負荷や労働力はそれぞれ異なる意味をもっていますし、どこに重さをもたせるか想像が膨らみますね。ボールひとつだけではなく比較対象があることでより直感的に判断できるようになる気がします」と応答する。参加者の発言を受け、内海氏も「わたしはわかりやすさだけを求めて第三者機関が代理で評価すればいいのかなと考えていたのですが、数値だけだと余計混乱を招いてしまう可能性があることに気づかされました」と語る。

NEC未来創造プロジェクトメンバー 福田 裕希

 加藤氏は「体感を通じて腑に落ちるのが重要なのだと感じます」と語り、このプロトタイピングがさらに発展していく可能性を明かす。「買うべき商品や趣味嗜好にあった商品を勝手にサジェストしてくれるサービスは多いですが、そのままだと人間の感性は退化してしまいます。あくまでも一人ひとりが体験を通じて考えられる状況をつくるのが大事なのかなと。TRACING Ballもみなさんの意見を踏まえてさらにアイデアを発展させていきたいです」

 ここまでの議論を受け、セッションの終盤では、それぞれが今後の活動方針を宣言した。白井氏は「感性と対話を大切にする」、加藤氏は「問いのきっかけをつくる」、小林氏は「大仏の手になる」など、それぞれが人と人や感性と理性など異なるものをつなぎながらコミュニケーションを生んでいく重要性を語るなかで、NEC未来創造プロジェクトの岡本は「微責任」なる概念を提唱する。

NEC未来創造プロジェクトメンバー 岡本 克彦

 「消費者一人ひとりが社会の全責任を負うことはできませんが、同時に無責任でもありえない。無責任か責任かの二択ではなくて、微量の責任を負うような形で社会に関与していけるといいのかもしれません」

 岡本の発言を受け、福田(浩)は「われわれが内海さんに何かを教えたわけではなく、今回の授業のような『場』があったことで価値観が交差し新しい気付きが生まれたのだと思います。これからも多世代が交流する場をつくり、若い方々の声を社会へもっと届けていきたいですね。一方的な教育ではなく互いに教えあう多世代“共”育を今後も広げていきたいです」と語り、セッションは締めくくられた。

 ひとりの生徒が提案したアイデアから始まったこのセッションは、まさにさまざまな感性や世代が溶け合う場となった。NEC未来創造プロジェクトが実践する「対話」や「合意形成」も、単なる意見のぶつけ合いや説得ではなく、お互いの存在をときに侵食しあい、ときに共有しあいながら、ひとつの場をつくっていくことなのだろう。そんな緩やかなつながりこそが、次世代の社会を支えていくのかもしれない。

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