2016年10月27日
対談:マーケティング×イノベーションで切り拓く社会価値創造
「内面を見るAI」が社会課題に取り組んでいく
藤沢:
人の進化を考えると、文字がなかった時代は視覚情報をもとに考え、判断していました。NECが一番得意とされる技術が、人の進化の最初を、今AIでやっているということですね。
江村:
確かにそうですね。映像情報はまだ「外見」から分析することが多いのですが、私たちは「内面」を見ることにも取り組んでいます。例えば、コンクリートの表面の微妙な振動を映像で見ることによって内部の亀裂や空洞を見つけることができます。これによって橋や道路といったインフラの劣化診断作業を効率化します。顔認証も、動画の高度解析が進むことで、微妙な表情の変化から人の状態を理解することができるようになります。
藤沢:
緊張しているとか…。
江村:
そう、分かりますよ。こうしてお話ししていても、人は表情の微妙な動きや雰囲気から、相手の内面も読もうとしていますよね。同様の理解をAIにさせるのです。でも、どう対応するかを最後に判断するのはやはり人です。「部長の機嫌が悪そうだから、今は話しかけないほうがいいな」みたいな。(笑)
藤沢:
AIが人を楽にする一方で、人がもっと能力を高めるには工夫や努力が必要ですね。
清水:
優れたAIを持っていることではなく、AIを使って人や企業の課題をどう解決するかが大事です。AIを含めたICTの技術や製品をどう組み合わせて課題を解決していくか。アプローチの手法、インテグレーション力、コンサルテーション力などの総合力が問われます。サプライチェーンはどんどん複雑化してきているので、ひとつの課題を解決するだけではだめですし、それを1社でやり切ることも不可能です。それぞれ得意とする技術や製品を持っている者同士が協力することが必要です。
藤沢:
協力を進める根底には、会社を超えて、業界を超えて、というNECの視点がありますね。
清水:
私たちだけでできることは限られています。私たちの活動は、多くの人たちと共創する「Orchestrating a brighter world」そのものです。
IoTが非構造データを扱う宿命
藤沢:
AIと並び、IoTも重要なキーワードです。NECとしてIoTをどう捉え、どういう技術を柱にしていくのでしょうか。
清水:
IoTは製造業だけでなく、金融、保険、ヘルスケア、物流など、あらゆる分野に偏りなく広がっていくと思います。IoTは、膨大な非構造データを扱わなければなりません。以前のITのように、構造化され整理されたデータが、ルール通りに入力されて、処理をして答えを出すというプロセスと違って、どういうアーキテクチャで、どういうプロセスで処理すべきか、標準の構造を作らないと、いろいろな部品、製品、センサーがうまくつながりません。つながらないとIoTの価値が絵に描いた餅になる。これを解決するために、NECはアーキテクチャの基本的な考え方を決めて、標準化して、オープンにして、いろいろな企業と連携しやすくする仕組みを提供していきます。
藤沢:
IoTといえばモノとモノがつながるイメージが強いのですが、今のお話だと、いろいろな組織やシステムもつなげなきゃいけないということですね。
清水:
そうです。あたかも簡単につながると思われがちですが、実はそんなに簡単ではありません。
「コト」を突き詰めて 真価を発揮する
藤沢:
IoTでは、実際にどのようなことに取り組んでいるのですか?
清水:
カゴメ様とアグリテックの分野でIoT化を進めています。カゴメ様の取り組みは、収穫量を上げるだけでなく、周辺のたくさんの農家やトマトペーストを作る巨大工場を含めたサプライチェーン全体の最適化です。収穫されたトマトは畑から大型トラックで運ばれていきますが、収穫のピークはほぼ同時期なので、工場周辺の道路はトラックで渋滞するし、搬入に時間がかかるとトマトが腐ってしまう…。そこで、収穫量を上げるだけではなく、ジャストインタイムで全体最適化し、多くの農家の収穫のピークをずらしていけないか、と課題解決していくのが一歩進んだアグリテックです。
江村:
家庭での無駄な廃棄や、流通過程の売れ残りなども考えて社会全体をデザインするには、モノだけではなく「コト」をつなぎ、なすべきことを突き詰めていく必要があります。今までつながっていなかったモノやコトをIoTでつなげ、全体を最適化したい。収穫量を上げながら無駄もなくし、どれだけ社会価値を追求できるかが勝負です。全体を見る視点は、本当に大切だと思います。
藤沢:
NECといえばパブリックセーフティも得意ですね。セキュリティの分野でもコトを突き詰めることによって高度なことができるようになりますか?
江村:
例えば、アルゼンチンのティグレ市に提供した映像監視ソリューションでは、2人乗りバイクとひったくり犯罪をコトとして紐付け、市の犯罪率を大幅に下げることに貢献しています。
藤沢:
IoTは本来、社会ドメインや国境を越えてこそ本当の価値を発揮するものだと思います。グローバルでも無限の使い道がありそうですね。
IoTの仕組みはイノベーションそのもの
藤沢:
IoTを別の言い方で表すと、AIやビッグデータが価値を発揮するための大きな舞台のように思えます。
江村:
「異なる分野が融合して新しいことが起きる」ことをイノベーションと言うなら、今までつながっていなかったものがつながるIoTは、仕組みのうえでイノベーションを実現していると言えます。AIやビッグデータはその仕組みの中で働いています。今あるデータをすべて取り込んで、コンピュータに処理させてみると、「あ、これとこれは関係していたんだ」という発見があります。それこそまさに、「データが価値を生む」ということです。
藤沢:
そうなると、人とAIが一緒に切磋琢磨していく時代になってきたと言えるかもしれませんね。先ほどのセキュリティだけではなく、都市ではIoTの違った取り組みがあるのですよね?
江村:
ニュージーランドのウェリントン市では、スマートシティの取り組みとして、各省庁間の情報をつなげて行政効率を高めようとしています。今まで縦割りの組織で持っていた固有のデータをIoTで結ぶことで、犯罪を減らし、さまざまな都市機能の効率を上げています。
藤沢:
縦割りの組織の限界も、IoTで解決の可能性が広がりますね。都市はさまざまな人が集まって暮らし、働く場ですから、これからの都市は、安全も、効率も、いろいろな価値をトータルに考えていかなければなりませんね。
清水:
スマートシティでは、エネルギーも交通も重要ですが、やはり「安全・安心」がカギだと思います。フィジカルな安全はもちろん、精神的な安心を多くの人々に実感していただくことがNECのパブリックセーフティの目的です。ただ単に犯罪を減らすとか、ひとつの目的だけを考えても十分ではありません。例えば、多くの人が集まるスタジアムで事件や事故が起きたとき、そのことだけではなくて、同時に周辺にどんな影響が及ぶのか。多くの人が一挙に同じ方向に流れて別の事故が起きるとか、道路や交通機関が麻痺するとか、そういう状態に臨機応変に対処しなければならない。それを限られた数の警察官や警備員で対処するには限界があります。状況を観察し、これから起こることの予測も含めて、自動的に、あるいは半自動に制御していくという時代が、間もなく来ると思います。それをコントロールする人が使うIT機器には、必ずIoTとAIがビルトインされているという時代がね。
藤沢:
世の中の事象がすべてつながっているので、ひとつの課題を解決するということは、もっと広く、いわゆる公的な、社会全体、地球全体にかかわる課題を解決していくようなイメージですね。人類の未来のため、みたいな。IoTがつながることの真の意味がそこにありそうです。
江村:
NECは幅広いお客さまに技術や製品をご提供しているのですが、マクロの視点から言うと、その多くが「公共サービス」にかかわっておられます。電車が止まったら、ATMが止まったら、それぞれ大変なことになるわけですから、基本的なインフラをスマートに動かすこと自体が、すべてパブリックセーフティにつながっていると思います。