2016年10月27日
対談:マーケティング×イノベーションで切り拓く社会価値創造
“アイディエイト“できる組織とマネジメントを
藤沢:
NECが世界中の人々と協調、共創することに関連して、私自身が実感することがあります。私が参加している「ダボス会議」が大切にしていることに「マルチステークホルダー」の考え方があります。ダボス会議はかつて「ヨーロッパ経営者会議」といって、ヨーロッパの経営者しかメンバーではなかった。でもそれだけではさまざまな課題を共有することにならないので、勉強のために学者の方々を招いた。でもそれだけでは物足りず、先進国の政治家にも入ってもらった。しかしそれだけでは世界の未来は占えないから、新興国や途上国の方も入れようということになった。でも、世代間のギャップもあるので、若い人の考え方を取り込もうということで「ヤング・グローバル・リーダーズ」に入っていただいて、でもやっぱりビジネスと政治の世界だけでは不十分なのでNGOを招いて、でもやっぱり、ということで、最近はアーティストに参加いただいて…、というふうに、ありとあらゆるステークホルダーが参加しないと、世界の未来を議論して、よりよいものにする手立てが見えないという理由から、コミュニティをどんどん増やしているのです。
清水:
NECもそれと同じ視点に立っています。ビジネスには一つひとつ個別の目的があるのですが、結局、トータルで何したいのか明確に定義できたら、そのためにやらなきゃいけないこと、それらをつなげること…という発想になっていくと思います。しかし、それがなかなかできない。自分の足元から考えてしまいがちです。ダボス会議のお話もそうですよね。グローバルイシューがあるとき、自分たちだけでは解けない課題を実感するから、いろいろな人の意見を聞かなければ、という構造になっていると思います。NECは、「社会価値」を軸に、企業間をつなぎ、Orchestrateすることが、ますます重要になってきたと見ています。
藤沢:
Orchestrateするために、組織も変わったのですか?
江村:
3年前に変えました。ひとつの特徴は、会社の中でイノベーションを起こすために、それに取り組む組織を作ったことです。イノベーションのフレームワークを作り、会社の中に浸透させることをミッションにする組織を作り、そこが旗を振る仕組みを作った点が大きな変化です。
藤沢:
具体的には、どんなことをしているのですか?
清水:
新しい事業を起こすとき、一番大切なのは、最上流のアイデアを形にすることです。既存の組織の中で片手間にやっても限界があります。今までのやり方でイノベーションを起こそうと思っても、なかなかうまくいかない。重要なことは、既存の組織の論理を超えて、特にアイディエイト(アイデア創出)を実行していくことが大切です。
江村:
中央研究所に「価値共創センター」を作りました。組織というより、自由度の高いグループと言う方がいいかもしれません。私はよくそのメンバーに「まさか毎日、オフィスに来てないよね?」とメンバーに言っています。世の中で起きていることや現場の課題を、研究者自身が実際に目で見て、肌で感じて、全体のプロセスを理解しなければ、何を解決すべきかが分からないですよね。例えば、「コンビニの店舗の効率化」をテーマにしている研究者がいたら「まず3か月、バイトしてこい」と言っています。病院にインターンで入る研究者もいる。そういうふうに、組織を変えるというよりは、思考パターンや行動を変えるということが今、とても大切なことになってきている。それもアイディエイトの一環です。
藤沢:
でも、若い人はバイトやインターンも平気かもしれないですけど、中堅社員やマネジメント層の社員は大変じゃないですか?(笑) 今まで経験を積み重ねた人にとって、発想や行動の転換が一番大変ですよね。
清水:
いや、若い人も経験者も、歴史を刻んできた組織の文化を断ち切って、自己変革してもらわないと。
江村:
そうですよ。
藤沢:
マネジメントが大変ですね。
江村:
もちろん大変な面もありますけれど、新しい動きの中からベストプラクティスが生まれてくるのだと思います。「あ、これ、面白いじゃないか」というものがね。従来型の考え方やマネジメントには限界がありますから、マネジメントの方法をいくつか持つことは必要です。

企業の成長と社会課題の解決を両立させるために
藤沢:
NECが「C&C宣言」をしてから、2017年で40年になるそうですね。
江村:
1977年に当時の小林宏治会長が「C&C」を発表しました。コンピュータ技術とコミュニケーション技術の融合によって、21世紀の最初には人がどこでも誰とでも話ができるような世界を作りたいというビジョンです。C&Cで提唱した「技術でより良い社会を創る」という考え方は、NECが今でも根本としているものだと思います。
藤沢:
AIやIoTのお話を伺っていると、C&Cは40年経って古くなったのではなく、新しい社会の実現をますます確信させてくれるビジョンになったのだと思います。今後NECは、社会全体を見渡しながら、さまざまなステークホルダーと協力して新しい価値を生み出していく視点が大切になりますね。
清水:
企業の成長と社会課題の解決を両立させるという視点、と言い換えることができます。
複雑で高度な社会課題を解決し、実現すべき価値を突き詰めて考えれば考えるほど、それは「安全」「安心」「効率」「公平」に尽きると思います。私たちの目指すべきビジョンは間違っていないし、私たちの技術が大いに役立つという自信を持っています。
なぜあのとき取り組まなかったのか、と後悔しないために
藤沢:
ビジネスの観点からは、経営のスピードや中長期的な視点も重要なキーワードですね。
清水:
冒頭の「デジタルやデータの価値をどう生かすか」で言うなら、まず経営トップが1日も早く決断しないと、どんどん競争から取り残されていくと思います。将来に向けて経営資源をどこに投入するのかをドラスティックに変えていく必要がある。つまり「デジタルにシフトする」ということです。
藤沢:
将来の果実を得るために今から準備しておくことのカギは、やはりデジタルにあると。
清水:
北米の優れた企業では、デジタイゼーション、デジタライゼーションを推進するCDO(チーフデジタルオフィサー)という役職があり、CMOやCIO(チーフインフォメーションオフィサー)と連携して事業運営にあたることが常識化しています。これからは、デジタルの価値を正しく理解し、技術を使いこなす人材の育成が大事です。そのための投資を今から始めないと後々後悔します。「なぜあのときデジタイゼーションに投資しなかったのか」「なぜ他社にあるデータがうちはないのか」ということになる。そして、経営判断のスピードも大事です。すぐに始めてほしい。小さくてもいいですから。
藤沢:
人は時間でしか学べない、ということですね。
江村:
将来を見据え今から何を学んでおくべきかを考えることが大事です。今、学校で教わっていることは将来AIに置き換わるかもしれない。だから、もっと本質的なことを学ぶ必要がある。人の本質は、やはりコミュニケーションであり主体的な判断です。20年後、30年後にAIがもっと進化したとき、私たちは何をなすべきか。あくまで人を中心に考えていくべきです。
藤沢:
デジタル最先端の企業の役員さんが「人の本質を」とおっしゃる言葉は、重いですね。
江村:
意外ですか? 最近そういうことばかり言っている気がします。(笑)
