2017年01月31日
米大統領選のトランプ氏勝利に学ぶ、「ポスト真実」の時代を生き抜く力
トランプに勝利をもたらした巧みなマーケティング手法とは
──では、今回の米大統領選挙でトランプ氏が勝利したのはなぜでしょうか。
坂井氏:
一因としては、マーケティング手法を巧みに使うことで少額の選挙費用にもかかわらずうまく票を集めたことをあげたいと思います。特に印象に残ったのはトランプの娘婿で、選挙運動のあらゆる側面に関与したジャレッド・クシュナー氏のマーケティングストラテジーです。
たとえば世論調査でわずかに不利と見られていた州や地域で、もう少し押せば勝てるとなると、マーケティングの手法でSNSなどに的確な広告を打ったようです。だから国全体の一般得票数では、クリントン氏のほうが多かったわけです。コストパフォーマンスが高い選挙活動ですよね。

ここの州にはこういうメッセージを打つと票がとれる、つまり商品が売れるという感覚で、選挙活動を割り切ってやっているようです。それを「クレバー」とは言いたくありませんが、やはりクレバーなのでしょう。ここにはこのメッセージ、そこにはあのメッセージとうまく使っているからこそ当選できました。
──トランプ陣営が、選挙というゲームの仕方を熟知していたということですか?
坂井氏:
そうとも言えるのでしょうが、そう言ってしまうと、その手の選挙ストラテジーを過度に肯定してしまわないかという危惧があります。クレバーではあるかもしれないけれど、それは「私たちで私たちのことを決めていこう」とする民主主義の理念に適合するものではないでしょう。
米大統領選挙の結果から紐解く「制度」と「人間」という2つの問題
──ということは、選挙制度そのものに問題があるということなのでしょうか。
米国の選挙制度の問題というか、選挙というものが内包する問題かもしれません。そして、米国の選挙制度は、州ごとに選挙人を出す大枠は憲法で決まっており、事実上、変えられません。変えられるのは州レベルの選挙制度です。各州の選挙人について勝者総取りではなく得票に応じて割り振るというのが一つの変え方で、これは州法レベルでできます。
ですが、各州には制度を変えることにメリットがありません。総取りにするほうが、候補者はその州のことを気にかけますから。現状の総取りがいいとは思いませんが、各州に変えるインセンティブがない以上、この仕組みは変わらないだろうと思っています。
私は経済学と政治学を研究しています。経済だと消費者はマーケティングに踊らされる傾向がありますが、それはまあ自己責任ということで、ある程度は構わないのです。しかし、経済における消費者と政治における有権者が一緒であっては困ります。有権者は消費者よりも賢くなくてはいけません。
なぜならば、経済は自分の買い物を自分でしますが、政治はみんなのことを決めるものです。消費者が決めるのは自分の売買ですが、有権者の意思決定は「自分たち」という全体に影響するものです。つまり、マーケティングであまりに簡単に動くようだと、有権者としては頼りないのです。