2017年01月31日
米大統領選のトランプ氏勝利に学ぶ、「ポスト真実」の時代を生き抜く力
投票の怖さを知り、しっかりとした賢慮を持つことが必要だ
──なるほど、選挙制度だけでなく、頼りない有権者にも問題があるのですね。
坂井氏:
集団的意思決定を行なう際に欠かせない要素が二つあります。一つは「決め方」で、もう一つは「人間」です。制度が変えられないとすれば、意思決定をより良くするためには人間が頑張るしかありません。制度が変えられないなら、人間が「賢慮」を持つしかありません。
決め方は変換装置に過ぎませんから、投票する人間のインプットがおかしければ、アウトプットはどうにもなりません。投票は人々の「意思」と呼べるものを集めなければ意味がありませんが、マーケターの戦術や嘘に軽々と動かされるようなものを「意思」とは呼べません。そのような薄弱なものを「the will」とは言わないのです。
──今回の米大統領選挙の結果を受けて、日本でも学べることは何かありますか?
坂井氏:
まず知ってほしいのは「投票は怖い」ということです。イギリス国民が投票でEU離脱を選択しましたが、投票後にインターネットでは「EUって何だ?」という検索が非常に多くありました。つまり少なからぬ人がEUとは何か、よく分からないままに投票したのです。あるいは、キャメロン首相が嫌いだから、まさか離脱はしないだろう、という理由で投票した人も少なからずいます。米国の大統領選挙やEU離脱といった結果を見て投票の怖さを学ぶことが大切です。
──たしかに多数決や投票の怖さを知ることで人は「もっとしっかり考えなければ」という気持ちになりますね。決めるという点では企業の現場でもさまざまな決定が行われますが、企業の中の決め方の注意点は何かありますか?
坂井氏:
熟議民主主義というか、みんなで知恵を出して良い決定をしようというときは、人数はひと桁、たとえば7人程度がよいようです。人が多いと熟議はできません。恥ずかしがって話さないとか、面倒くさいから話さないとなりますが、7人程度なら熟議が上手く進むようです。
何より大切なのは選挙でも企業の現場でも安易に多数決に任せればいいということではなく、一人ひとりが賢慮を持つことです。マーケティングなどの変な仕掛けに惑わされないことです。トランプの発言はたしかに聞く人によってはとても気持ちいいのですが、そこには真実ではないことも含まれています。気持ちよさに流されず、「みんなが言っているから」と従うのではなく一人ひとりが賢慮を持つことが何より大切なのではないでしょうか。
──本日はお忙しいところありがとうございました。
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