2016年05月27日
インダストリー4.0最新動向、日本・ドイツ・アメリカが目指す未来とは
ハノーバーメッセ2016、アメリカとドイツの提携による日本への影響~今年のパートナー国であるアメリカとドイツの提携が日本におよぼす影響とは~
米独が組むと日本は孤立するのか?
米国とドイツがIoTで連携したら日本は孤立するのではないか?
そんな懸念を抱く方も多いかもしれませんが、IoTに積極的に取り組む企業ならば心配する必要はありません。ハノーバーメッセ2016が開催されているこの時期に、ドイツと日本の政府間でIoT/インダストリー4.0協力で合意したことが、経済産業省のホームページで発表されています(2016年4月28日ニュースリリース“日独IoT/インダストリー4.0協力に係る共同声明への署名を行いました。”)。
これは、経済産業省とドイツ経済エネルギー省が交渉を重ねてきた成果です。このなかで、以下の6項目について、日本とドイツが協力関係を結んだことが明記されています。このタイミングでの日独間連携合意は、ファインプレーであり、関係者の努力を心から賞賛したいと思います。
日本とドイツがIoT/インダストリー4.0協力で合意した6項目
- (1) 産業サイバーセキュリティ
- (2) 国際標準化
- (3) 規制改革
- (4) 中小企業
- (5) 人材育成
- (6) 研究開発
ハノーバーメッセ2016は、そのパートナー国が米国であることから、ドイツ政府が主導するIndustrie4.0とGE社などが設立した米国企業連合IICの連携に関する展示や講演が数多く行われていました。
しかし、日本企業も積極的に出展しています。オムロンは卓球ロボット、川崎重工は4軸双腕ロボット、新規出展したコニカミノルタはメガネ型ウェアラブルデバイスと手に装着したバーコードリーダーを組み合わせた作業支援システムなど、最新技術を数多く展示しています。
さらに、日本の団体として唯一講演を行ったのがインダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI)です。IVIは、日本機械学会の生産システム部門「つながる工場」分科会が母体となって2015年6月に設立されました(2016年3月現在、企業数約150社、会員数約380名、外資系企業の参画も可能)。「つながる工場」のリファレンスモデルを作るのが目的です。
IVIの活動の特徴は、“ゆるやかな標準”をオープン・イノベーションの手法を使って「協調領域と協創領域」を分けていることです。法政大学デザイン工学部教授の西岡靖之氏が理事長を務め、今回の講演も西岡教授が行いました。講演は盛況で、数少ない日本からの情報発信に注目が集まっていたとのことです。

(写真提供:東洋ビジネスエンジニアリング 羽田雅一常務)
西岡教授の主張はズバリ、「人」重視の姿勢です。ドイツのIndustrie4.0では「工場」、米国のIICでは「データ」が価値を創出するとしていますが、IVIでは人が価値を創出するという視点です。
なお、今回の米独政府間合意と、独日政府間合意は多少意味合いが異なります。その違いを読み解くために産業振興の考え方の違いについて少し補足説明しておきましょう。
日本やドイツは、政府が主導して特定の国や業界を対象とした産業振興を行うスタイルが一般的です。しかし、米国では、企業や業界それぞれが自主的に成長を目指します。米国政府は、その成長や競争を阻害する規制や慣習を是正する役割を担います。
IoT/インダストリー4.0については、米国政府ではなくGEなど企業連合のIIC(インダストリアル・インターネット・コンソーシアム)が主導しています。既に、ドイツ企業と米国企業はテストベットと呼ばれる実証や、企業間の提携が幅広く行われています。
しかし、IoTの国際標準規格はまだ策定途中です。欧州の産業界(ドイツ自動車業界や機械産業など)では、デジュールスタンダード(国際標準)に準拠することを重要視していますが、米国はデファクトスタンダード(実質的な国際標準)となれば良いので、国際標準をそれほど重要視していません。
こうした認識のズレがIoTで顕著になりつつあり、そのズレを調整するためにドイツと米国が国際標準で連携したという見方があります。こうした背景を踏まえて、今回の米独と日独の動きをご理解ください。
さらに今後、日本企業として何に取り組んでいけばよいのか。本連載では、インタビューや対談を行い、解き明かしていきたいと思います。