2016年05月27日
インダストリー4.0最新動向、日本・ドイツ・アメリカが目指す未来とは
ハノーバーメッセ2016、アメリカとドイツの提携による日本への影響~今年のパートナー国であるアメリカとドイツの提携が日本におよぼす影響とは~
ハノーバーメッセ2016開幕、オバマ大統領とメルケル首相が米独連携に合意
世界最大の見本市であるハノーバーメッセ2016が、2016年4月25日~29日にドイツのハノーバーで開催されました。
今年のパートナーカントリーは米国で、24日のオープニングセレモニーではオバマ大統領とメルケル首相が演説し、両国がIoT/インダストリー4.0で積極的に連携することが表明されました(ちなみに2015年のパートナーカントリーはインドで、2017年はポーランドです)。4月25日には、2人でイベント会場の展示を見学する親密な様子が報道されています。

(写真提供:ベッコフオートメーション 川野俊充社長)
ドイツと米国は、ともにIoT/インダストリー4.0への取り組みを加速させており、その両国が連携して国際標準の策定に協力していくことになります。ドイツと米国の競争という構図から、米独連携による協調へと発展したのです。
背景として押さえたい「オープン・イノベーション」という潮流
なぜ競争から協調へと発展したのか。その背景にあるのが、「オープン・イノベーション」という考え方です。オープン・イノベーションとは、ハーバード大学のチェスブロウ教授の著作“OPEN INNOVATION”のタイトルで、「企業内部と外部のアイディアを有機的に結合させ、価値を創造する」と定義されています。
研究開発のスピードアップとイノベーション創出には巨額な投資が必要であるため、複数の企業や組織が協力して費用対効果を高める手段がオープン・イノベーションなのです。
この手法は、欧州自動車メーカーを中心に、車載ソフトウェアの共通化を目指して2003年に設立された“AUTOSAR”(オートザー:AUTomotive Open System Architecture、フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラー・クライスラー、ボッシュなどが設立し、後にフォードやトヨタなど約200社が参画)や“Horizon2020”(欧州委員会が主導して、2014年に開始された、新たな研究開発枠組みプログラム。投資総額770億ユーロ=10兆円以上で日本など欧州域外からの参加も可能)などがよく知られています。
これまで企業の研究開発は、“クローズド・イノベーション”(自前主義)が当たり前でした。これは、自社内で開発したテクノロジーを強みとした製品開発で競争優位性を獲得する戦略です。しかし、このやり方では前述した通りイノベーションのスピードアップと予算の限界があり、さらに開発に失敗したときのリスクも大きいのです。
そこで「限られた投資をムダにせず、かつ競争力を維持したまま投資リスクを回避したい」と考えた結果、オープン・イノベーションによる「競争領域と協調領域」という考え方が生まれました。
IIC(Industrial Internet Consortium)を主導するGE(ゼネラル・エレクトリック)は、このオープン・イノベーションに積極的に取り組み、IoTによる新しい産業革命に対する取り組みの中心的な役割となっています。
日本の企業やメディアはIoTの「テクノロジー」に目を奪われがちですが、IoTの背景にはオープン・イノベーションによる「競争領域と協調領域」という考え方があることを認識すべきでしょう。
ドイツと米国が国際標準で連携するということは、つながるためのルールが1つに統合され、IoTにおける「競争領域と協調領域」が国家間レベルから企業間レベルへと進むことを意味しています。
国が業界や企業を守るのではなく、企業がどのグループに参画してどことつながるのかを自ら決め、勝ち残る戦略を自ら考えて決断しなければならなくなったのです。
先行する欧米企業の動向を見て、国の庇護のもとでリスクを回避し、市場の方向性が定まったところで追い込みをかけるという従来の手法はもう通用しません。そう考えると今年のハノーバーメッセ2016は、クローズド・イノベーション(自前主義)からオープン・イノベーションへの転換点と読み解くことができます。