2016年08月05日
インダストリー4.0最新動向、日本・ドイツ・アメリカが目指す未来とは
インダストリー4.0に対するマイクロソフト流アプローチとは
ABB、ロールス・ロイスとマイクロソフトとの提携について
──POCでは自社ができること、できないことを考えながらディスカッションするのですか?あるいは、社会課題ありきで、それをどう解決するかを考えるのでしょうか?
武本氏:
両方ですね。ただし、業界の中でリーダーのポジションにいるプレーヤーの場合は、まずはビジョンありきです。「世の中はこうなっていくから、こういう問題が起きる。それに対して、何をすべきなのか」を考えます。
たとえば、弊社と電気自動車(EV)の急速充電サービスの展開で提携したスイスのABB社は、EUの自動車CO2排出規制の強化に呼応して、EVが急速に普及すると考えています。EVの普及において課題になるのが充電の手間と航続距離の短さです。これを克服するために、充電ステーションのネットワークを作り、充電を必要とするクルマが適切な場所とタイミングで速やかに充電サービスを受けられるようにする必要があります。
そのためには、すべてのクルマの充電状態や走行場所をクラウドでモニターし、道路状況を加味してこの先の走行予定と充電の需要をリアルタイムに予測して、充電ステーションに適切に供給電力を確保し、効率的に充電をスケジューリングするための高度な情報連携基盤が重要です。
そして、2023年には、充電サービスの市場は3500億円ぐらいの規模になると予想されており、増大する需要に対応してシェアを獲得するには、情報基盤の安定性や拡張性がカギになるため、ABBと弊社が両社の強みを活かす戦略的な提携をしています。これなどは、ビジョンから入って、トップ同士の話し合いでビジネスを進める典型的な例です。
──ロールス・ロイスと航空機用エンジンのデータ収集・分析で提携されたのも、その例でしょうか。
武本氏:
はい。ロールス・ロイス社の航空機エンジンから1時間に1テラバイトの稼動データがMicrosoft Azureに上がってきます。これに、飛行経路や気象データなどを掛け合わせて分析することで、より効率的で計画通りの飛行を約束できます。また、その膨大なデータを使って設計を改良し、エンジンをさらに効率化できます。これによって、より速く、より多くの人を運べるようになれば、乗客にとってもメリットがありますし、航空会社は売り上げが増えるという、いいループができます。そこを目指すということです。

特定の製品ではなく、エコシステム全体を提供する発想が必要
──日本企業の強みと弱みを教えてください。
武本氏:
日本の製造業は、モノ作りの技術と品質に強みを持つがゆえに、モノを作ることにはものすごくこだわりを持ちますが、モノがどう使われて、それがどういうベネフィットを社会に与えるかには比較的関心が薄い気がしています。しかし今後、デジタル技術によってバリューチェーンのつながり方が変わると、そこに目を付ける競合企業が数多く出てきます。そうなると、特定の製品分野での競争に執着するのではなく、その製品も含めたエコシステム全体をデザインし、ユーザーや社会の視点から価値提案を刷新するという発想になる必要があると思います。
──日本の電機業界は、すでに非常に厳しい状態ですね。
武本氏:
実は私も、以前は半導体の業界にいましたが、確かに厳しいと感じています。もちろん、製造業と言っても細かい業種・業態によって、業界構造や変遷のスピードはまったく違うので一概には言えないのですが、たとえば自動車業界は、この1年で大きく変わりました。今から1年前は、日本の自動車メーカーは、ドライバーはあくまで運転の楽しみを求めており、自動運転の需要は限定的であるという見方をしていましたが、ここにきて大きく変わってきました。
──トヨタが人工知能(AI)技術の研究・開発を行うToyota Research Institute(TRI)を設立したことに象徴されるように、ソフトウェアに対する取り組み方は大きく変わってきたように感じます。
武本氏:
そうですね。ただ、トヨタは、新しいことにチャレンジするマインドも持っていれば資金も持っているという、日本では珍しい企業かなと思います。自動車業界が激しい変遷の只中にあるという外部要因も大きいですが。