2016年10月03日
インダストリー4.0最新動向、日本・ドイツ・アメリカが目指す未来とは
スマートコンストラクションが切り開く未来。コマツが語る、なぜ建機のICT化が必須なのか
ビジネスモデルの転換は、「機能品質」の追求から
──ビジネスモデルを転換するためにはどういうことが必要でしたか。
黒本氏:
視点を変えることが大事ではないでしょうか。製造業は、機械のスペックや性能視点というか「機械品質」を大事にします。
IoTの価値は、「自分たちが作った製品で、お客さまの思いや期待がどれだけ達成できるか」にあります。つまり「機能品質」が大事なのです。たとえ同じスペックの機械でも、使い方ひとつで機能の達成レベルは変わってくるからです。
単なる製品の品質だけでない領域に製造業の目がいったとき、機能を提供するために「柔軟さ」や「スピード」といった価値が重要視されていくと思います。
──日本企業のポジションについてお聞きします。日本の製造業の強みはどんなところだと思いますか?
黒本氏:
日本企業の強みは現場志向である点です。課題や解決の方向性がひとたび決まれば、日本のエンジニアは世界でもトップクラスの優秀さでクオリティを上げていくことができます。
ロボットやAIなど、今後は新しいテクノロジーと現場がどのようにつながっていくかがカギを握ります。これは単なるデータサイエンスの話ではありません。なぜなら、膨大な生データの中から、ノイズを除去し、1個1個のデータの重みづけをしていくには、現場を知らなければできないからです。
テクノロジーだけに頼ると、結果的に効率が悪くなります。ですから、現場を掌握しているところが、新たなテクノロジーを効率よく使え、アウトプットの質を高めていくことができると思います。
──反対に、課題や欠けているところはどこでしょうか?
黒本氏:
モノへのこだわりが強すぎる点は強みでもあり弱みでもあります。過去の成功体験が大きすぎたためか、大胆な構造改革を断行しにくい面はあると思います。
しかし、工場の産業機械でこれだけ日本企業が世界を席巻したのですから、CPSやインダストリー4.0の領域でも、日本がトップに立つことは可能だと信じています。
大事なことは、ソフトウェアの部分を一緒に考えていくことです。課題がきちんと設定されれば、日本の優秀なエンジニアはどんどんスピードアップしていくことが可能です。
課題設定のために必要なことは、お客さま視点に立つことでしょう。コマツの場合は幸いなことにKOMTRAXの取り組みを通じて「お客さまに提供する価値は何か」という点に先に目が行き、それがKPIになりました。課題設定と解決のルーチンを確立できたのは幸運でした。
──経営者の意思決定も重要です。かのGEもイメルトが大胆な構造改革を進めています。
黒本氏:
確かにKOMTRAXを標準化した当時の経営者の意思決定は重要なポイントだったと思います。GEの取り組みには我々も大いに注目しています。
無人ダンプトラック運行システム(AHS)を進化
──国内外で実用化に向けた開発が進められている車の「完全自動運転」をコマツはいち早く実現しています。
黒本氏:
鉱山という限定された領域ながら、コマツは無人ダンプトラック運行システム 「Autonomous Haulage System(AHS)」を2008年に実用化しています。
これは、鉱山オペレーションの安全、経済性、生産性、環境性の向上に大きく寄与するものです。高精度GPSや障害物検知センサー、無線ネットワークシステム、車両に搭載の各種コントローラーを活用することで、300トンの積載が可能な複数台の超巨大ダンプトラックを中央管制室から運行管理し、完全無人稼働を実現させます。
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──建設・鉱山機械は一朝一夕で開発できるものではありません。製品開発とソリューションを、スピード感を持って進めていくために、どのようなことを心がけているのですか?
黒本氏:
ICT化するにあたって、建機のコアとなる骨格の部分はそれほど大きく変える必要はありません。肝心なのはむしろ、「制御」の部分で、稼働に大きなエネルギーが必要な建機は自動車以上にメカトロ化が進んでいます。
この制御ソフトを変えていくことでフレキシブルに対応できる。ハードの部分のスピード化は、制御の役割を果たすコントローラーの設計を柔軟にしておけば、スピード化に容易に対応していくことができます。
──ソリューションの部分はいかがでしょうか。今、日本の製造業には現場の高齢化で人材が不足しているという課題もあります。
黒本氏:
課題発見のための発想という点でいうなら、現場に人材が不足しているのであれば、過酷な現場の環境をどうしたら改善できるかを考えるのが大事だと思います。
たとえば、AHSでいえば、鉱山開発の労務環境を劇的に変えることができるのです。24時間365日体制で動く現場の環境は過酷で、夜間はダンプの運転中の事故も多いのです。AHSを導入するとダンプトラックは高精度GPSおよび推測航法で自身の位置を把握しながら、目標コースを目標速度で無人で走行します。
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つまり、夜間のダンプ事故の恐怖から解放されることになります。私も現場を何度も見てきましたが、有人のダンプトラック同士では、すれちがうときに「もし対向車の運転手が眠っていたら……」という不安は決してなくなりません。
無人ダンプトラックを導入したお客さまから「この現場で働いたら、元の現場には戻りたくない」という声もいただくほどで、「機械の使い方」を通じたソリューションというのは、本来、そういうものではないかと思います。
──スマートコンストラクションの今後の展開について教えてください。
黒本氏:
お客さまに価値を提供するため、どこまでオープンプラットフォームになれるか。弊社にとっても大きなチャレンジです。まだ取り組みは始まったばかりですが、世界中の能力のあるパートナーと提携しながら時代の半歩先、一歩先を進んでいきたいと考えています。
──本日は、貴重なお話をありがとうございました。
(インタビュー=ビジネス+IT 編集部 松尾慎司)