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MITテクノロジーレビュー

巨大銀行はなぜブロックチェーンを研究しているのか?

2017年02月27日

 巨大銀行や大企業は、デジタル通貨のためにブロックチェーンを研究しているわけではない。信頼性が必須の通貨が扱える分散データベースなら、他のデータも扱えるはずだ、と考えているのだ。

 ブロックチェーンはビットコインを実現する分散データベースとして生まれたテクノロジーだ。しかし、ビットコインは通貨として主流になれないのは確実だ。たとえば昨年3月には大規模な障害が発生し、当時約2万件のビットコインの取引が処理待ち状態になり、1秒間に最大7回までしか取引を処理できない仕様上の限界が顕在化した。

 今年初め、ビットコインは初めて1BTCあたり1000ドルを突破し、2017年2月中旬時点でも同水準を維持している。だが、採掘済みビットコイン約1616万コインの時価総額は約160億ドルに過ぎず、トリニダード・トバゴ共和国(カリブ海に浮かぶ千葉県ほどの大きさの島国)のマネー(現預金)の総額168.1億ドル(2016年12月)程度の存在感しかない。米中央情報局(CIA)のワールド・ファクトブックによれば、全世界のマネー(2016年12月31日時点)の総額は約97兆ドルであり、ビットコインの時価総額は約0.02%分(日本円の総額は約9.2兆ドルで全世界のマネーの約12.83%を占める)でしかないのだ。また、ビットコインを上限の2100万コインまで採掘しても、総額は215.5億ドル程度で、コスタリカ通貨コロンのマネー総額分にしかならない。ビットコインが世界を作り替える通貨になることなど、決してあり得ないのだ。

 では、世界中の有力銀行が、なぜ「ブロックチェーン・テクノロジー」を検討中なのだろうか? たとえば、スペインのサンタンデール銀行は、ブロックチェーンによって銀行業界は年間200億ドルの費用を削減できると予測している。つまりブロックチェーンは、分散データベースであること(低コスト)と、データの改ざんが不可能であること(高セキュリティ)で注目されているのだ。

 ブロックチェーンは中央コンピューターが不要の分散データベースであり、銀行は巨費を投じてハードウェア・メーカーからコンピューターを購入せずに済む。通貨や債権、デリバティブなど、従来からある金融資産の取引を、分散データベースで記録できれば、大幅にコストを削減できる可能性がある。

 ただし、取引の記録は間違いなく残しておく必要がある。監督機関に提出を求められたとき、改ざんできるシステムでは役に立たない。その点、世界中のコンピューター・ネットワークによって維持される公開台帳(public ledger)に取引履歴が記録されるブロックチェーン方式なら、取引記録の正確さは暗号によって検証され、改ざんされていないことが原理的に証明できる。

 魅力的な仕組みではるが、銀行は自前ではブロックチェーン型システムを開発できない。この点に目を付けたのがソフトウェア企業だ。たとえばマイクロソフトは、自社のクラウド・コンピューティング・サービス「アジュール」上で動作するブロックチェーン型のシステムを金融業界向けに試験提供している。また、スタートアップ企業数社と提携し、銀行等の大手企業向けにブロックチェーン・ソフトウェアを開発中だ。

 コンサルタント会社アクセンチュアが作ろうとしているのは、いわゆる許可型ブロックチェーンだ。招待を受けて初めて参加できるブロックチェーンで、複数の銀行が関心を持っているという。ビットコインのような許可不要のブロックチェーンは、編集できないがゆえに、改ざん不可能な取引記録が提供される。しかし、純粋なブロックチェーンにはシステムの根幹を脅かす問題があっても、修正されない可能性がある。アクセンチュアは、編集可能なシステムであれば、取引記録が改ざんされていないことを保証しつつシステムを維持できるため、企業向けにはこの方法が適している、と考えているようだ。

 一方、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行は、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者に、中央銀行が通貨供給量を制御できるなど、通貨全体の管理権がある、改良型のビットコイン「RSコイン」を研究させている。

 RSコインには従来の金融システムを継承する特徴があり、ビットコインよりも発行できる通貨の総量を増やし、元帳の制御権を中央銀行が握り、取引そのものは大手銀行に委託する。ただし、この仕組みを先進国で導入することはいまのところ考えていないようだ。金融システムが未整備の発展途上国では、そもそも中央コンピューターに取引記録を残す先進国型の金融システムを今から構築するのは無理がある。であれば、コストがかかりにくい分散データベースとスマホで使える電子マネーを組み合わせる方が現実的、というわけだ。

 NEC FinTech事業開発室の岩田太地室長は、インドを例に発展途上国の金融システムの実情をこう説明した。「民主主義国であるインドには一定期間働くと年金を受け取れる制度があります。しかし、読み書きでない人も多く、最寄りの銀行まで歩いて何時間、といった場所に住んでいれば、現金を持ち帰るのは危ない。この環境でも国民IDと指紋認証を組み合わせることで、年金の受取りを電子化できました。インドはかろうじて中央に大きなデータベースのある従来型のシステムを構築しましたが、それはITに強いインドだからです。これから発展する国では、国中にネットワークを引き、データセンターを構えて、銀行システムを構築するのはコストや構築保守面で無理がある。だからこそ、ブロックチェーンと生体認証の組み合わせが重要なのです」

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