2017年03月09日
顔認証ソリューションが金融サービスを進化させる
──三井住友フィナンシャルグループの実証実験に見る「手ぶら決済」の可能性
世界40カ国以上で利用されているシステム
今回の実験で使われたのは、NECが独自に開発した顔認証システムだった。
「米国政府機関が実施したテストで、弊社のシステムは世界一の精度と速度の評価を得ました(※)。現在、JFK空港をはじめとした世界各国の空港の入国管理や、政府・企業施設の入退場管理など、広範な用途ですでに活用いただいています。国際的なスポーツイベントや、数万人規模のコンサート入場での導入実績もあります。」
NEC第一金融ソリューション事業部の名田幸生は、そう説明する。
※プレスリリース:NEC、米国国立標準技術研究所(NIST)の顔認証技術 ベンチマークテストで3回連続の第1位評価を獲得
現在、この顔認証システムが利用されている国は40カ国以上。しかし、金融サービスでの顔認証の実用例はまだほとんどない。その意味で、今回のSMBC、SMCCの実証実験は極めて先進的な取り組みであると言える。
この実験の成果は、今後どのようなサービスに結びついていくのだろうか。古賀氏は、「必ずしも、決済単体での実用化は考えていません」と言う。
「決済は、消費行動の最終場面に当たります。その手前のいろいろな行動の場面で顔認証による利便性を高めていき、決済での利用に結びつけていく。そんな可能性を探れたらいいと思っています。」
例えばオフィスの場合、顔認証によって建物に入館し、PC起動時の本人確認にも顔認証を使う。そのような日常的な利用に加えて、社員食堂や売店などでの顔認証決済をサービスとして提供する──。古賀氏が想定しているのは、一つにはそんなイメージだ。
「手ぶら決済」の広範な可能性
一方、店舗などの商用の場面での利用は、現在のところ大きく二つ考えられると松尾氏は説明する。
「一つは、顧客のロイヤリティを向上させるための活用法です。お客様が入店した時点で顔認証によって本人特定をして、これまでの購買履歴などと紐づけ、最適な接客をするといった方法です。もう一つは、繁盛店などで会計のスピードを上げるための利用です。例えば、ファストフード店で注文に並んでいる間に顔認証を行い、商品を受け取ると同時に精算も終わるといった使い方が考えられると思います。」
生体認証の最大のメリットは、認証時に身体以外のモノを必要としない点にある。そう考えれば、「手ぶら」の場面での利用にもさまざまな活用の可能性が広がっていると松尾氏は言う。
「プール、温泉、スポーツジム、ジョギング中などの決済に顔認証が使えるようになれば、非常に便利になるのではないでしょうか。」
例えば、プールで泳いでいる途中でのどが渇き、ペットボトルのジュースを自販機で買おうとする場合、これまでは、更衣室に戻り、ロッカーの鍵を開け、小銭を持ってこなければならなかった。しかし、自販機に顔認証システムがついていれば、顔の写真を照合するだけの「手ぶら決済」でジュースを買うことができる。
キャッシュレスだけでなく、「カードレス」の可能性に言及するのは古賀氏だ。
「多くの人の財布の中にはいろいろなポイントカードが入っていて、店舗によって使い分ける必要があります。しかし、顔の情報とカードが紐づいていれば、購買時の顔認証によってポイントが貯まっていく仕組みが実現します。“持っている”ことを前提にしたサービスが、何も持たずに受けられる。これが顔認証の画期的な可能性ではないでしょうか。」
認証の仕組みをいかに洗練させていくか
課題もある。決済という100%の本人確認の精度が求められる世界では、バックアップとしてもう一つの認証のステップを加える必要がある。そのステップを何にするかを、今後考えていかなければならないと松尾氏は言う。
「加盟店様の業態などによって最適な認証の仕組みが異なります。しかし、仕組みを複雑にすると、店舗、ユーザー双方にとってストレスになりますし、設備のコストも上がってしまいます。今後、その見極めをしていく必要があります」
専用の読み取り機を必要としないという顔認証のメリットを生かしながら、認証の仕組みをいかに洗練させていくか。その課題がクリアされたとき、顔認証は、社会のあらゆる場面で活用されるごく当たり前のサービスインフラとなるかもしれない。