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2017年03月09日

顔認証ソリューションが金融サービスを進化させる
──三井住友フィナンシャルグループの実証実験に見る「手ぶら決済」の可能性

 お金もカードも持たなくても、「顔」だけで商品が買えてしまう──。そんな世界が実現する可能性がある。昨年末から今年初頭にかけて行われた三井住友フィナンシャルグループの顔認証決済の実証実験は、その可能性を大きく広げるものだった。

「顔」で精算する画期的な仕組み

 指紋、指の静脈、瞳の虹彩──。実用の場面が広がっている生体認証の中で、とりわけ新しい方法として注目が集まっているのが、顔で本人確認をする「顔認証」である。顔認証がほかの生体認証と大きく異なるのは、専用の読み取り機を必要としない点だ。カメラで撮影した顔の写真をあらかじめ登録した写真とソフトウェアで照合するのが顔認証の仕組みで、ごく普通の性能のデジタルカメラやスマートフォンのカメラなどで撮影した写真でも認証が可能である。

 昨年末から今年初頭にかけて、この顔認証を使った画期的な実証実験が行われた。社員食堂での決済を「顔」で行うというその実験に取り組んだのが、三井住友フィナンシャルグループ傘下の三井住友銀行(SMBC)と三井住友カード(SMCC)だ。

 SMBCの実験が行われたのは、2016年12月12日から17年1月30日までで、対象は従業員約1000人。一方、SMCCの実験期間は同じく11月21日から1月31日までで、約400人の従業員が対象だった。「社員食堂で注文したメニューを精算する際、その場で撮影した顔写真で本人確認をし、キャッシュレスで決済をする」というのがその内容で、SMBCの実験では、歩いている途中の従業員を撮影し、その顔情報と社員証で認証するという仕組みが採用された。一方、SMCCの実験は、従業員の顔を正対して撮影し、タブレットに表示された名前を本人が確認するという仕組みで行われている。

三井住友カード社員食堂における顔認証決済の実証実験の様子

「精度」と「速度」の最適なバランスとは

 この実験には、「未来への先行投資の方向性を見極める」という大きな目的があったという。現状の決済方法では店舗に専用端末が必要となる。専用端末が不要な生体認証を使えば、新しい世界が見えてくるのではないか。その可能性を顔認証に探り、他社に先駆けて実証実験を行ったというわけだ。

 新しいビジネスモデルを作るには、認証の最適な「閾値」を見出す必要があった。SMBCの実験を主導した一人、ITイノベーション推進部の古賀正明氏は説明する。

三井住友銀行 ITイノベーション推進部
オープンイノベーショングループ
部長代理
古賀 正明氏

 「閾値が低いと、特徴が似た別人の顔をシステムは認証してしまいます。一方、閾値が高すぎると、認証は正確になりますが、情報処理に時間がかかります。その間の最適なポイントを探ることがこの実験の狙いでした。」

 誤認証のリスクを排除し、かつ利用者にストレスを与えないユーザビリティを実現する。それによって顔認証システムの実用化の可能性が一気に高まることになる。今回の実験では、その最適なバランスが概ねつかめたと古賀氏は言う。

 しかし、自分が所属する会社内での実験とはいえ、「顔情報を登録する」という心理的ハードルが従業員側にはなかったのだろうか。

 「抵抗感は予想以上に低かったですね。趣旨を丁寧に説明し、実験の目的を理解してもらうことで、納得してもらいました。生体認証の活用はさまざまな場面で進んでいますし、認証の方法の一つとして顔情報があるという認知もある程度広まっているように感じました。」

三井住友カード株式会社
商品企画開発部 兼 アクワイアリング企画部
部長代理
松尾 和明氏
三井住友銀行 ITイノベーション推進部
オープンイノベーショングループ
部長代理補
岩田 正彦氏

 そう話すのは、SMCC側で実験を担当した松尾和明氏だ。もっとも、実用化の段階ではユーザーの心理的ハードルを下げる努力をする必要がありそうだ。SMBCの岩田正彦氏は言う。

 「例えば、カード申し込み時に顔写真登録をしていただき、それが決済などさまざまなサービスに活用いただけるという丁寧な説明をするといった工夫が必要になると思います。」

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