2017年05月25日
“スーパーコンピュータ・シェアリング”による世界初のリアルタイム津波浸水被害推計システム
将来は日本全域をカバーし、さらにきめの細かい推定情報算出を目指す
──このシステムは、今後どのように改良する余地がありますか?
撫佐:
現在は南海トラフ地域を対象としていますが、最終的には日本全体をカバーしたいと考えています。また、実証事業段階では、今回の実装システムよりもきめ細かい10m四方ごとを1つの単位とする推計データを算出しており、実装システムでもそこまで細分化すれば、よりきめ細かい推計が可能になります。これらは技術的には十分に可能なのですが、処理の負荷が増大するため、現状のやり方では配信までに時間がかかりすぎてしまいます。そこで今後は、推定地域ごとに処理方法を見直して演算負荷を低減するなどの工夫で、広範囲・高細密でも高速処理できるようにシステム改良を目指します。また、NECがシステムを運用している「準天頂衛星」を活用して、津波浸水が予測される病院、学校など公共施設や、ガス、鉄道、発電などのインフラ施設へ迅速な情報配信を行うことも検討しています。
高知市における津波浸水・被害推計シミュレーションの結果
──海外での活用やビジネス展開も期待できますか?
撫佐:
東南アジアをはじめとする環太平洋地域など、わが国同様に「プレートの動きに伴う断層活動」というメカニズムに起因する地震・津波発生が想定されるエリアでは、必要な地震関連情報が収集できれば、同様にこのシステムを活用することができます。もちろんNECのスーパーコンピュータを購入してシステムを構築してもらえば嬉しいのですが、日本のスーパーコンピュータをリモートで利用する運用でも可能です。
また、リアルタイムでの処理・配信ではなく、通常のシミュレーションとしてもきめ細かい被害推計が可能です。今後想定し得る地震ケースでの都市や大型建造物への影響予測などを行うことで、都市開発や大型インフラ設計時のリスク回避にも利用できるはずです。
津波関連以外でも、“スーパーコンピュータ・シェアリング”の技術は様々な応用が可能です。現在、東北大学、名古屋工業大学、日本気象協会が共に、真夏に開催されるスポーツイベントに向けて「熱中症シミュレーション・システム」の開発に取り組んでいます。このように今回の成果は工夫次第で、生命や安全・健康、社会的財産などを守る取り組みに、さらに広範囲に展開していけると考えています。