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AI対談:NECレッドロケッツ監督・データアナリスト
チームの「絆」が勝利の源泉
AIがNECレッドロケッツをサポートへ
SUMMARY サマリー
AIで選手に気づきを与え、実践を人が支援する
──選手のフォーム分析のほかに、どのようなことにAIを活用したいですか。
山田:試合後の映像を確認する選手は多いのですが、それは自分の、自チームの、または対戦相手のプレーをチェックするためがほとんどです。もちろんそれは勝つために必要なことですが、よりスケールを大きくしたい。例えば世界一を目指すなら、世界一と言われる選手の映像を見て、自分のイメージに取り込むことが重要です。
例えば、国際大会の試合を全部AIに学習させて、見たい映像をすぐに見られるようになったらいいですね。いろいろな局面に応じて、トップクラスの選手はどう動いているのか。多くのお手本に接することで、選手の意識やイメージを大きく飛躍させることができると思います。
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本橋:NECでは画像認識技術を使って、街の防犯や交通調査などの活動をサポートしています。膨大な画像データの中から、条件を満たす人物や車両を瞬時に特定できます。山田監督が今言われたことも、技術的には実現可能です。そう遠くない将来には実用化できるでしょう。
山田:それは楽しみですね。AIによって選手の意識が変われば、自分にとって足りないものが見えてくる。技術であればそれを磨くトレーニングが必要だし、プレーを支える体力であればフィジカル面を強化する。AIが気づきを与えてくれることで、上を目指す向上心に火が付くはずです。世界レベルと比較する中で、自分の弱点や強みを発掘し、より高みを目指すためのモチベーションに変えていく。そういう好循環を期待しています。
本橋:その他にもスポーツ分野では色々なAI活用が考えられます。チーム強化に向けたスカウティングもその1つです。これは、民間企業での採用をサポートするAIを応用して、選手が将来活躍するかどうかを予測するものです。その他、体調管理をAIがアドバイスするというアプローチもあります。個人に合ったケガをしないためのトレーニング方法や、痛みが悪化する前に休んだ方がいいかどうかなどをAIがアドバイスするわけです。フィジカルトレーニングにあわせた、栄養管理も有効な分野の1つかもしれません。
山田:そういうことができるなら、是非、取り入れてみたいですね。その一方で、チームを精神面でサポートしていくのは、やはり人の役目だと思います。選手だけでなく、コーチやトレーナーとコミュニケーションを取り、共通認識を高めていく。人間同士の、こうした意識付けやきめ細かなサポートはとても大切です。何より、個々の力をまとめ上げ、チーム力に変えていくのが監督の役目ですから。
──具体的にはどのような意識付けやサポートを行っているのでしょうか。
山田:それぞれの選手の成長に加え、「チーム力」という意識をチームに根付かせることを重視しています。自分のためにチームがあるのではなく、チームのために自分が必要だという意識です。そのためにはメンバー各々の特性を最大限に発揮でき、お互いを高め合える関係性があることが大切です。バレーボールはチームスポーツ。決定率の高いアタッカーや優秀なセッターが集まれば、必ずしも勝てるわけではないのが不思議なところです。
例えば、明るい性格でみんながモチベートされる特性を持った選手がいます。その選手がいるかいないかで、チームがガラっと変わってしまう。その選手が声を出すだけで、点数に関わっているかもしれない。メンバーチェンジでその選手が入るとチームが活性化する。それで劣勢をひっくり返して勝つこともあります。
つまり、チームの調和や伸びしろを作ること。仲間同士が活かし活かされる関係の中で、この仲間と共に目指すところへ到達しようと本気で思えること。それが大事ですし、人間同士でしか成しえない部分だと思います。
本橋:世の中にはAIが得意なこと、人でなければできないことがあります。それはスポーツの世界も同じ。AIと人が協調することで、より大きな成果を生み出すと私も信じています。AIと人の協調を念頭に、これからもチームの発展、バレーボール界の底上げ、さらには2020年へと少しでも貢献できれば、これほど嬉しいことはないですね。
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山田:はい、私も今回の取り組みを通じて、スポーツとAIの相性の良さのようなものを実感しています。AIの進化には今後も注目していきたいですね。
──最後にNECレッドロケッツの監督として、今後の展望を聞かせてください。
山田:いろいろな繋がりを大事にしていきたいと思っています。チームだけでなく、今回、お声がけいただいたチーム外のご支援も含め、いろんな繋がりの中で、我々はプレーしています。チーム力のさらなる強化を図り、V・プレミアリーグの2連覇を目指す。これが目下の目標ですが、我々が頑張っていくこと、上を目指していくことが、自分たちだけでなく、自分たちの周りに、感動とか頑張ろうという気持ちだとか、何かしらの影響を少しでも与えられたら嬉しいですね。