つながることで創り出す今までにない体験
成田国際空港×NEC×セブン-イレブン・ジャパン
~NEC Vision 2020 共に未来を思い描くDialogue~
「空港」と「コンビニ」は、社会インフラとして欠かせない存在。両社に共通するのは、安全・安心をベースに人々の生活を支えているところ。お客さまのことを第一に、快適で楽しい体験を届けるためにどのようなことに取り組み、進化させていこうと考えているのでしょうか。
SPEAKER 話し手
成田国際空港株式会社
濱田 達也 氏
専務取締役
2019年6月より現職。経営企画部門長、IT推進委員会委員長として世界最高水準の空港にすべく同社のデジタル化を推進している
株式会社セブン-イレブン・ジャパン
大橋 尚司 氏
取締役 常務執行役員
2019年3月より現職。リクルート本部長、建築設備本部長として、プロセスイノベーション、店舗開発の取り組みを推進している
NEC
石黒 憲彦
取締役 執行役員副社長
2018年6月より現職。グローバルビジネスや新事業開発における渉外に加え、カルチャー変革・現場革新の施策も推進している
お客さまのことを一番に考えた、デジタルを活用した新たな体験
──私たちの暮らしを支え、日々多くのお客さまが訪れる成田空港さまとセブン-イレブンさま。現在、顧客体験の向上のために取り組まれていることや今後の展望をお聞かせください。
濱田氏(以下、敬称略):成田空港の旅客数は現在年間約4,300万人おり、2030年には6,000万人を見込んでいるためスループットやCX(Customer Experience)向上のためにはデジタル化が不可欠です。2020年春からサービスを開始する顔認証による新しい搭乗手続き「One ID」の導入に取り組んでいます。混雑が緩和すればお客さまのストレスは減りますし、空港にいる時間をもっとゆっくり過ごしていただけます。単に手続きをスムーズにするだけではなく、空港のワクワク感を高めたいと考えています。
大橋氏(以下、敬称略):セブン-イレブンでは設備管理のデジタル化を進めています。セブン-イレブンは、現在国内に約21,000もの店舗があり、一日約2,000万人のお客さまにお買い物をして頂いています。そうしたなかで、お客さまに安全・安心な商品をお届けするためは設備のメンテナンスが欠かせません。各店舗には多くの什器が設置されており、温度管理を必要とする設備は全国で約80万台あります。これらの設備管理は各加盟店の従業員の方々に委ねざるをえなかった。これを本部で管理し、故障前に気づくことができるよう、NECさん・設備メーカー各社と協力しながらIoTとAIを使った予防保全に取り組んでいます。
石黒:両社との取り組みは、NECの先端技術である生体認証やAI、IoTの活用を象徴するものです。成田空港さまに採用いただいた「One ID」の顔認証技術は5回連続世界No.1※の精度を実現していて、航空連合スターアライアンスと協業し生体認証を活用した本人確認プラットフォームの開発も進めています。一方でセブン-イレブンさまの取り組みは、IoT・AI活用の好例。さまざまな什器をつなぎ、IoTでデータを収集・モニタリングし、AIによって分析することで設備の安定稼働を実現する。どちらも、安全・安心のために人やモノを「つなぐ」ことで価値が生まれています。
- ※ 米国国立標準技術研究所(NIST)の顔認証技術ベンチマークテストで5回連続の第1位評価を獲得
濱田:まず、チェックインカウンターや保安検査場など空港内の複数あるタッチポイントをシームレスにつなぐこと。将来的には、「One ID」を成田空港だけでなく、海外の空港でも同様に手続きを行えるようにしたいと考えています。さらには空港だけでなく、空港を出た先のバスや電車も顔認証で乗ることができるようにしたいと思っています。お客さま第一主義で考えるなら、そこも本来つながっていなければいけないはずですから。
大橋:安全・安心を担保して「止まらない店舗」をつくるという守りの部分。利便性を向上させるという攻めの部分については顔認証技術に大きな可能性を感じています。2018年に三田国際ビルでNECさんと顔認証をつかった省人型店舗の実証に取り組みました。その結果「利便性が向上した」「時間が有効活用できた」と多くのお客さまに評価していただけました。オフィスビルや病院、工場などのマイクロマーケットでのニーズは高まっており、今後もどんどん挑戦していきたいと考えています。
また、これまで進めてきた実証を踏まえて、先端技術を集結させた次世代の店舗をつくれる可能性もあると考えています。
石黒:三田国際ビルでの実証実験は非常に好評で、他の場所でも同様の店舗を望む声が上がっています。とくに高層ビルはエレベーターも混雑するので、顔認証による決済は新たな体験と価値を生み出せていると感じました。空港での顔認証もバスや電車へと拡大させるだけでなく、ホテルのチェックインやレストランでの食事でも利用できるなど、活用シーンをもっと広げられたらと考えています。現在は南紀白浜で顔認証を活用した「IoTおもてなしサービス実証」も行っており、観光に訪れたお客さまに空港からホテル・商業施設など一貫したサービスを提供しています。成田空港の「One ID」を東京のおもてなしにも活用できたらと思っています。デジタル化は体験を広げていくことも可能にしますが、よりきめ細やかで親密な体験をつくることにも力を発揮できると考えます。
濱田:「体験価値」は重要なキーワードですね。「One ID」でも、単なる顔認証ではなくウォークスルーでゲートを通れるようにすることで、お客さまとスタッフの間にこれまで以上に豊かなコミュニケーションをつくり出せるのではと考えています。最終的なゴールは効率化ではなく、お客さまに豊かな体験を届けること。そこにデジタル化の本質があるわけです。
デジタル化によって生まれる新たなビジネスの機会
──一方で、デジタル化はコストを伴うものでもあります。その効果についてはどうお考えでしょうか。
大橋:もちろんコストは発生しますし、デジタル化するうえで乗り越えるべき規制やリスクも存在します。なかには、顔認証システムに拒否感を覚える人もいるかもしれない。しかし私は「コスト」だとは思っていません。例えば、今取り組んでいるIoTやAIを活用した稼働管理はむしろコストダウンにつなげられると思います。システム開発に費用はかかるかもしれませんが、5年前に設備メンテナンスセンターを立ち上げて以降、設備を一元管理することでさまざまなことがわかってきました。これまでは年間30万件ほど店舗から問い合わせが届いており、うち20万件は対応のために作業員が現地まで赴いています。しかし、この稼働管理システムによりまとめてトラブルに対応できるので全体のコストは下がっていきます。作業員の労働力不足対策にもなり、投資以上のメリットが得られると思っています。
石黒:現場だけのコストを見るのではなく、エコシステム全体を考えているわけですね。全体の効率化が進めば、余裕が生まれることで新たな商品やサービスを検討することも可能になりそうです。
濱田:私たちの場合も同じですね。成田空港には現在3つのターミナルがあるのですが、旅客数が増えてきたからといって簡単にターミナルは増やせない。でもデジタル化によって仮にスループットが1.5倍になれば、それは実質的にターミナルを拡張しているともいえる。短時間でお客さまが搭乗手続きを済ませられれば、出発までの時間でこれまで以上にショッピングや食事を楽しんでいただけるはず。リテールまで含めて考えれば、収益が上がるチャンスはかなり大きいでしょう。
利便性向上のために、必然的に強まる企業間連携
──成田空港さまやセブン-イレブンさまのように、日本の“社会インフラ”と呼べる企業が企業間連携を強めると新たな価値が生まれるように思います。他業種とのシナジーはどうお考えでしょうか。
濱田:私たちがとりわけ注目しているのは、キャッシュレスです。日本は今なおキャッシュ文化が残っていますが、海外諸国は急速にキャッシュレス化が進行しています。特にアジアの変化は著しく、中国は小さな個人商店でさえ現金お断りの場所も少なくない。今後さらにインバウンド需要が見込まれるなかで、国際空港におけるキャッシュレス化はリテール収入を左右するといえます。だからこそキャッシュレス化は急務ですし、私たちはそこに「One ID」も組み合わせていきたいと考えています。今、海外の方が日本に来たら、現金を両替したり、空港を出て電車に乗ってバスに乗って……と何から何まで異なる切符やカードを買ったりしなければいけない。これは非常にストレスフルなはず。「One ID」が他業種とも連携できればこういった手間もなくなり、お客さまを中心に他業種とのシナジーもより強まっていくように思います。
石黒:これからのカスタマージャーニーを考えていくうえでは、部分的なデジタル化を考えるのではなく、より広い視野をもって経済圏を捉えなければいけない。「One ID」とキャッシュレスは私たちの構想ともつながっています。また、セブン-イレブンさまはまさに経済圏そのものを支えていらっしゃいますよね。
大橋:私たちもインバウンド需要には注目しています。キャッシュレスについてもコンビニはまだまだ改良の余地があって、店舗の処理能力を高め売上を増やしていくうえでもキャッシュレスはかなりのポテンシャルを秘めています。セブン-イレブンは、成田空港内に4店舗展開させていただいており、今後は空港の手続きで一度顔認証を行えば、空港内のセブン-イレブンで顔認証決済が使えるようになるかもしれませんよね。このように、お客さまの利便性を上げていくことを考えると、今後は必然的に企業同士が連携を強めていかなければいけないだろうなと思っております。
石黒:お客さまの利便性を向上させ、より良い体験を届けるためには、なんでもかんでもデジタル化すればいいわけではありませんからね。どこをデジタル化してどこを人間が担っていくのかを考えることが重要だと思います。私たちの仕事も、以前のようにいただいた要件に従ってシステムを導入するのではなく、業務全体を把握したうえで提案することが求められると考えています。
社会の「神経組織」となるために
──企業同士が連携を強めていくことで、これまで想像もできなかったような体験をお客さまに届けられそうですね。最後に今後NECにどんなことを期待されているのでしょうか?
濱田:「チャレンジ」ですね。「One ID」のような最先端の技術があれば、あれもこれもと新しいアイデアがどんどん湧いてくる。まさに新しいステージへ向けたチャレンジが可能になると思っています。近年の日本は少し閉鎖的になっていましたが、先端技術を率先して活用することで、世界に向けてサービス展開を進めていけるのではないかと。グローバルな視点を持ちながら、新しいステージに飛ぶチャレンジ精神を共に発揮していきたいですね。
大橋:NECさんとの取り組みでは、その分析力に驚かされることが少なくありません。私は現在、建築設備やリクルート部門を担当して業務の無駄を整理しているのですが、要件定義をしていただくと単に今あるものを別のシステムに置き換えるのではなく、何手か先のものを提案していただける。その「提案力」には今後も期待したいですね。未来を見据えたソリューションを提案していただけると、それを進化させながら効率化も進めていける。私たちは技術の専門家ではないですし、逆にNECさんも私たちのビジネスのすべてを最初からわかっているわけではありませんから、お互いのノウハウを活かして、歩み寄りながら共に考えていきたい。多種多様な企業とつながりのあるNECさんとだからこそ、よりお客さまが喜ぶサービスをつくっていけるのではと思っています。
石黒:セブン-イレブンさまとNECのお付き合いは、1978年から始まっています。ありがたくも提案力があると評価していただきましたが、40年以上にわたる長い歴史のなかで育てていただいた感覚が強くあります。今後もお客さまとベンダーの関係ではなく、パートナーとして高めあっていける関係をつくっていきたいと思います。私たちには気づかないことも教えていただきながら、高いご期待に応えて新しい価値をつくっていきたいです。
濱田:実は、1978年は成田空港が開港した年でもあります。開港当初からNECさんには着陸システムなどの航空インフラをサポートいただいていましたが、近年では「One ID」はもとより、裏で支える技術だけでなく、よりエンドユーザーに近い領域にもそのソリューションが広がって提案内容も進化してきていますよね。
石黒:成田空港さま、セブン-イレブンさまと共に時間をかけて取り組んできたビジネスは、NECにとってもDNAとなっていますし、社会インフラを創っていくことの難しさを勉強させていただきました。NECは「社会価値創造型企業」だと自身を定義しているのですが、そのあり方も昔と比べれば大きく変わってきています。以前はハードウェアをつくってソリューションとして提供することが多かったのですが、今は社会の「神経組織」をつくっていると感じています。それはつまり、業種や業界を問わずさまざまな企業をつなぎ合わせる「ハブ」になることを意味しています。日本はこれから世界的なスポーツイベントや展覧会などを控え、官民が連携しながら新たなレガシーをつくっていく時期にある。だからこそ、企業がつながりデータを連携させられる新たな社会の「神経組織」をNECが担うことで、未来に向けて“できたらすごい”サービスを共に創っていきたいと考えています。