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2019年11月25日

山積する行政課題に立ち向かう、データ利活用最前線
~岡崎市、つくば市講演「地方自治情報化推進フェア2019」より~

 高齢者人口がピークを迎えると推測される2040年。国はその時期に地方公共団体が内政上の危機を迎えると警鐘を鳴らす。その危機に立ち向かうべく、ICT、AIの活用など先進的な取り組みを進めている地方公共団体がある。2019年10月10日~11日に開催された「地方自治情報化推進フェア2019」での岡崎市、つくば市の取り組みを紹介する。

岡崎市の取り組み「都市経営の高度化」~スマートシティ構築とEBPM実践

2040年迫り来る内政上の危機に立ち向かうために

 まず登壇した愛知県岡崎市総合政策部 企画課 鈴木昌幸氏は、政府のSociety5.0 について、“経済発展と社会的問題の解決を両立する人間中心の社会を迎えること”だと解釈を示す。さらに『2040年迫りくる内政上の危機』に立ち向かうため、科学技術のイノベーションを上手に使い、データを利活用することで、行政の業務効率化と高度化を進めたいと述べる。

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 鈴木氏は自治体事務の将来について触れた。自治体で行われる比較的単純な事務には、内部で行う庶務・契約・受付書類入力、外部に向けて行う制度説明、申請受付、証明書発行などがある。これらは、システム化などにより効率化を図ることで人手の作業を減らしていく。また、比較的複雑な事務として、内部で行う予算編成や人員配置、計画立案、外部に向けて行う交渉・折衝、コーディネイトなどについても、AIなどの活用により人手の作業が減っていく。「そして地方自治体は高度化・複雑化されたオンデマンドなサービスを提供する努力をすべきでしょう。」(鈴木氏)。

 鈴木氏は町内会の例を挙げる。岡崎市には町内会が555団体あり、市政運営における重要なパートナーと考えているが、現状では個別に町内会の意見を聞き取ることができていない。「これからは、市民や町内会などの団体と直接会話をし、ニーズに合わせて個別に制度設計を行っていくなど、きめ細かな行政サービスの提供も重要な高度化の一部ではないでしょうか」と続けた。

愛知県岡崎市総合政策部 企画課 鈴木 昌幸氏

AIによる岡崎市の地域特性分析

 鈴木氏はEBPM(Evidence-based Policy Making:証拠に基づく政策立案)の実践についても説明した。地方公共団体は計画策定の段階で、地域特性の把握や住民意識調査といった社会環境の整理を行っており、ここが計画の質を左右する。岡崎市では、地域特性の把握を表面的な分析で留めず、計画の質を高める取り組みを行っている。その一例として、NECとのAIを活用した実証事例を紹介した。さまざまな分析の中で、岡崎市は祖父母・子ども・孫が同居・近居している「3世代同居・近居率」が38.5%(平均29.2%)と、中核市の中で最も高いという特徴的なデータを発見。「これを強みとして施策に活かせないか、と考えました」(鈴木氏)

 そこで、『3世代同居・近居率』を目的変数として「中核市要覧」の各データとの相関性分析を行ったところ、“3世代同居・近居率が高いと合計特殊出生率(*1)も高くなるという相関関係”が浮かんできた。ここから「合計特殊出生率を高める最も大きな要素の一つは、祖父母による子育てサポート(安心感)である」と仮説を立て、政策に活かそうとしている。こういった客観的な事実を知っているかどうかで、計画の質が大きく変わってくると鈴木氏は述べる。この分析ツールは来春NECで製品化を予定しており、ExcelやCSVファイルでこういった分析が簡単にできるようになるとのこと。現在も複数の地方公共団体とAIを活用した実証を行っている。

*1人口統計上の指標で、一人の女性が出産可能とされる15歳から49歳までに産む子供の数の平均を示す。
(厚生労働省より:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/sankou01.html

他の自治体や団体・企業とも手をつなぎたい

 岡崎市はEBPMと並行して、スマートシティ構築(国土交通省の重点事業化促進プロジェクト)を進めていると鈴木氏は述べる。スマートシティ構築のために、現在は効果を実感しやすいプロジェクトから、企業と協力して段階的に取り組んでいる。事例として、赤外線センサーによる人流分析を行い、花火大会の混雑時に人の流れや滞留する場所、誘導のポイントを把握し、より安全で継続可能なイベントの実現に向けて改善を目指す取り組みを紹介した。

 「EBPMとスマートシティは『データの利活用』で結びついています。EBPMは統計処理された静的なデータ、スマートシティは花火大会の分析のように動的なデータ。これらのデータを使って効率化、高度化を図り人間中心の社会を構築していきたい。その実現に向けてあせらずじっくり取り組みます」と鈴木氏はまとめ、行政関係者で満員の会場に向け、「同じような考えで手をつなげる団体を探しています。ぜひお気軽にご連絡ください」と告げ、「みなさんと2040年の危機を乗り越えていきたいのです」と力強く結んだ。

つくば市の情報政策とデータ利活用推進のための取り組み

走りながら考える行政=アジャイル行政

 続いてつくば市 政策イノベーション部 情報政策課 家中賢作氏が登壇、つくば市の情報政策とデータ利活用推進について説明した。つくば市情報化推進計画では「シビック・データ・イノベーション」(多様な市民がデータを用いて自ら地域課題を解決できる社会)「パーソナライズ&プッシュ」(市民が必要な情報を適時・的確な形で受取活用できる社会)を社会像として掲げている。

 さらに方向性として「データ・ICTを活用する環境づくり」を土台とし、「災害・危機管理体制の構築」「ICTをみんなで享受できるまちづくり」「データ活用の推進」「情報システムの最適化」「情報セキュリティ対策」の5つを定めていると言う。

 しかしつくば市にも行政課題は多い。急速な環境の変化もあり、都市間の競争も激化していく。つくば市は「走りながら考える行政=アジャイル行政」を進めていくと家中氏は話す。

つくば市 政策イノベーション部 情報政策課 家中 賢作氏

課題提案型の実証につくば市の試験フィールドを提供

 つくば市の事例として「つくば公共サービス共創事業によるRPAの実証」が紹介される。つくば市は先端ICT技術を住民サービスの向上や行政課題の解決に活かすため、民間事業者との協力関係を実施する枠組みを設けている。昨年度までは「課題設定型」のみだったが、今年度からは「課題提案型」を新設したと言う。「企業から提案をいただいて、私たちの課題とマッチすれば試験フィールドをスピーディーに提供します」(家中氏)

 もうひとつの事例は、「マイナンバーカード×顔認証×ブロックチェーン投票システム」によるインターネット投票の実証。2018年の実証実験では投票端末への環境設定やマイナンバーカードの電子証明書署名用パスワードの認識率の低さが課題となっていた。2019年ではパスワードの代わりにNECの顔認証技術を使い利便性の向上を図るとともに、投票の正当性、秘密投票を担保しつつ、場所に依存しない投票を可能にする実証を行い、課題をクリアしたと家中氏は述べる。

データ利活用推進に向けた取り組み

 次いで家中氏は「データ利活用について全庁の職員の理解が必要か?」というテーマを挙げ、「『同質の理解』は必要ないと思っています」と続ける。管理職であれば「データ利活用を妨げないための理解」、家中氏のような実務職には「データ利活用を実施することの理解」が必要であり、職層別に人事研修やワークショップを通じてデータ利活用への理解を図りたいとする。

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 また、データ利活用のためには「利活用しやすいデータであり使うまで手がかからない状態」が理想だが、オープンデータは「あるものを出す」のが現状だと述べる。現在、紙ベースの情報も多いが、それでは活用が難しく行政のデジタル化が必要。国では、非識別加工などでデータを有効活用しようとする動きもあることから、オープンデータを「編集できるデータ形式で出す」「利活用しやすいデータで出す」「汎用性の高いデータを提供する」というレベルに上げていきたいと続ける。

 最後に家中氏は、データの共有・活用を通じた地域の課題解決ワークショップ「Hack My Tsukuba 2019」を紹介し、「ぜひみなさんお越しください」と会場に呼びかけ講演を終えた。

「Hack My Tsukuba 2019」の詳細はこちら
家中氏のインタビュー記事「地方活性化の切り札に!データに基づいた政策立案「EBPM」が注目される理由とは」はこちら

「ともに考える将来の自治体像」
~ 自治体運営の変革期を迎えた今、自治体クラウドにどう取り組む?

自治体クラウドで魅力ある「圏域」をつくる

 同フェアではNEC 社会公共ビジネスユニット 公共ソリューション事業部 事業部長代理 伊藤邦浩が登壇。2040年には団塊ジュニア世代の大半が65歳以上を迎えるが20代人口はその半分以下になるという総務省研究会の報告書に触れ、「労働力人口が半減する可能性があり、スマート自治体への転換が必要とされています」と述べた。

NEC 社会公共ビジネスユニット 公共ソリューション事業部 事業部長代理 伊藤 邦浩

 そこでは半分の職員数で最新技術を使いこなしながら地方公共団体として担うべき機能を維持することが求められる。また「圏域」がキーワードとなり、地方公共団体同士の協働が必要とされるだろうと続ける。「地方公共団体の未来像として魅力ある圏域をどうやって作っていくか、そのために『自治体クラウド』はどうあるべきかをお話しします」(伊藤)

 まず伊藤はNECの考える地方公共団体の未来像、コンパクトスマートシティを紹介する。暮らす人、訪れる人がすべてその街の利便性を享受できる。観光や文化など魅力あるまちづくりを圏域で行う。地方公共団体の定型業務については格段に自動化が進む。政策立案にもAIやビッグデータが活用され、人的リソースは省力化されていく。「こうして職員のリソースを官民共同のまちづくりに集中させていけるような方向感をイメージしています。それを支える仕組みが『自治体クラウド』と考えています」(伊藤)

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 伊藤は2040年、すべての住民が一人ひとりの特性に応じてサービスが享受できる世界を描いた動画を紹介し、「『自治体クラウド』は単なるコスト削減に寄与するだけではなく、未来像の実現に向けて、地方公共団体の仕組みを変化させ、コストや人材といったリソースをシフトさせるものです」と話す。

2040住民の暮らし

 続けて『自治体クラウド』は、圏域マネジメント・街づくりといった業務に地方公共団体のリソースを集中化させる。そして単一の地方公共団体にとどまることなく、複数団体の情報を圏域で集約し、地域の魅力を高めるための政策立案に向けて、さまざまなデータや証拠に基づく意志決定を支援していくものだと述べる。

 さらに伊藤はNECの『自治体クラウド』について、「従来コスト30%減」「職員負荷ゼロを目指す」「魅力あるまちづくりを支援」などの特長的なポイントを説明し、その機能や活用イメージを示した。「本日は我々からの一方的なお話をさせていただきましたが、皆様の意見を伺い、共創活動を進めていきたいと考えています」と呼びかけ、講演を終えた。

 NECの展示ブースでは、先の岡崎市、つくば市の講演で取り上げられたような行政事務の効率化に貢献するソリューションを多数展示。特に注目を集めていたのは、 ”本人確認を自動化し、セルフで手続きを完了”と銘打ったNEC窓口改善ソリューション「窓口受付スポット」。紙文化・対面が前提だった手続きのデジタル化を実現する。

従来の手書きの受付記入台が果たしてきた役割をデジタルで代替し、住民や職員の負担を減らすことが可能に

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